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ADHDを持つ子どもたちの心を支える「体を動かす習慣」の効果

time 2025/10/01

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。

ADHDを持つ子どもたちの心を支える「体を動かす習慣」の効果

この記事が含む Q&A

ADHDの思春期の子どもには、中程度から強めの運動を増やすことで身体的自己評価が高まり抑うつやストレスが減る傾向が見られるのですか?
はい、運動量の増加が自己評価の向上を介して心の不調を和らげると報告されています。
運動効果を強くする要因にはどのようなものがありますか?
年齢が高いほど効果が強く現れやすく、母親の学歴・家庭収入が低いときに運動の効果が特に顕著になる傾向があります。
学校や地域で日常的にどう活かせますか?
楽しく体を動かせる場を提供することで自分の体を前向きに捉える感覚が育ち、心の健康を守る手段になります。

ADHDのある思春期の子どもたちは、心の健康の面で大きな負担を抱えることが少なくありません。
気持ちの落ち込みや不安、強いストレスは日常的に現れやすく、それが学校生活や家庭生活に影響を及ぼし、さらに本人の自己評価を下げてしまうこともあります。

今回の研究は、清華大学、香港中文大学、トロント大学、香港大学らによって行われ、思春期のADHDを持つ子どもたちにとって運動がどのように心の支えとなり得るのかを詳しく明らかにしました。

この研究で注目されたのは「中程度から強めの運動(MVPA)」です。
これは息が弾む程度以上の運動を指し、ウォーキングの速歩、ジョギング、サイクリング、スポーツ活動などが含まれます。
世界保健機関は子どもや若者に対して、1日60分程度の中程度から強めの運動を推奨していますが、ADHDを持つ子どもたちの大多数はその基準を満たしていないことが報告されています。
とくに思春期では、運動習慣の有無が心の健康に大きな影響を与える可能性があるのです。

研究に参加したのは12歳から17歳までのADHDを持つ61人の子どもたちでした。
彼らは一週間、加速度計を腰に装着し、日常生活でどれくらい体を動かしているかを客観的に記録しました。
同時に、質問票を通じて「自分の体をどう感じているか」という身体的自己評価(フィジカル・セルフコンセプト)と、抑うつ、不安、ストレスといった心の不調の度合いを測定しました。
身体的自己評価は「体の見た目」「運動能力」「持久力」「健康」「柔軟性」など複数の要素から成り立ちます。
高いスコアは、自分の体に肯定的な感覚を持っていることを意味します。

分析の結果、運動量が多い子どもほど身体的自己評価が高く、それに伴って抑うつやストレスのレベルが低いことが示されました。
興味深いことに、自己評価の中でも特に「体の見た目」に関する感覚が大きな役割を果たしていました。
ADHDのある子どもたちは、同年代の子どもに比べて自分の見た目に自信を持ちにくい傾向が知られています。
しかし、運動をする習慣があると「自分の見た目は悪くない」という感覚が生まれやすくなり、それが抑うつやストレスを和らげる力となっていたのです。

この効果はすべての子どもに同じように現れるわけではありませんでした。
年齢が高くなるほど、身体的自己評価と抑うつの関係が強く現れました。
つまり年齢を重ねるにつれて「自分の体をどう感じているか」が心の状態に与える影響が大きくなるということです。

また母親の学歴が低い場合には、身体的自己評価とストレスの関係が強まっていました。
さらに家庭の収入が低い子どもでは、運動量と抑うつの関係が特に強く出ていました。

これは、家庭の条件が厳しい子どもや思春期の後半にいる子どもほど、運動から得られる心の支えの効果が大きい可能性を示しています。

逆にいえば、環境的に不利な立場にある子どもにとってこそ、運動が重要な保護因子となるのです。
運動を通して体への肯定感を持つことが、心の健康を守るうえで欠かせない役割を果たしていました。

この研究で用いられたデータは統計的にも裏付けられています。
運動量が増えると抑うつやストレスが減るという関係は、身体的自己評価を介して部分的に説明できることが示されました。
具体的には、運動と抑うつの関係の23%、運動とストレスの関係の20%が「身体的自己評価」を通じて説明されました。
つまり運動そのものが心を直接守るだけでなく、運動によって「自分の体は大丈夫だ」と思えるようになることが、さらに強い保護効果を生み出していたのです。

このような結果から考えられることは、ADHDを持つ子どもたちの抑うつやストレスを防ぐためには、ただ運動を促すだけでなく、その運動を通じて「自分の体を認められる感覚」を育てることが大切だということです。
運動をして体力がつくことや健康になることも重要ですが、それ以上に「自分の見た目や体に前向きな気持ちを持てるようになること」が心の健康を守る大きな力になるのです。

また、年齢や家庭環境による違いも見逃せません。
年齢が高い子どもは、身体的自己評価と心の健康の関係がより強く現れるため、思春期後半の子どもにこそ運動を通じた支援が重要です。
母親の学歴や家庭の収入といった要因も、心の健康に影響を与えることが示されました。
学歴や収入が低い家庭では、子どもたちがストレスや抑うつを抱えるリスクが高くなる可能性がありますが、その一方で運動による効果をより強く受けられることも明らかになりました。

つまり、社会的に不利な状況にある子どもたちにこそ、日常の中で運動を取り入れることが有効である可能性が高いのです。
運動はお金をかけずに取り組める方法でもあり、学校や地域社会で工夫すれば、すべての子どもに平等に提供することができます。
運動の場を用意することは、教育や医療の枠を超えて、社会全体で子どもの心の健康を守るための取り組みとなり得るのです。

この研究にはいくつかの制約もあります。
参加した子どもの人数が少なかったこと、男女比が大きく偏っていたこと、そして臨床的に診断されたうつ病や不安障害そのものの治療効果を直接調べたわけではないことが挙げられます。
それでも、この研究が示したのは、運動を通じて身体的自己評価を高めることが、ADHDを持つ子どもたちにとって抑うつやストレスを和らげる具体的な手段になり得るという重要な知見です。

結論として、この研究は、ADHDを持つ思春期の子どもたちの心の不調を防ぐために、毎日の生活に中程度から強めの運動を取り入れることの大切さを強調しています。
運動を通して体に対する肯定感を持つことができれば、抑うつやストレスを減らし、心の回復力を高めることができます。
とくに年齢が高い子どもや、家庭の教育・経済的条件が厳しい子どもほど、その恩恵を強く受けられる可能性があります。

学校や地域の活動の中で「楽しく体を動かせる場」をつくることが、ADHDを持つ子どもたちの心を守る第一歩になります。
日常生活の中での小さな運動習慣が、自分の体への前向きな感覚を育て、それが抑うつやストレスから心を守る力になるのです。
運動は、まさに「心を守る薬」として、子どもたちにとって大きな意味を持つものだといえるでしょう。

(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07052-y)(画像:たーとるうぃず)

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