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伝言ゲームでわかった自閉症の人の「伝える」困難の原因。研究

time 2025/05/17

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伝言ゲームでわかった自閉症の人の「伝える」困難の原因。研究

この記事が含む Q&A

自閉症の人は情報伝達が苦手だというのは誤解ですか?
研究によれば、誰とでも情報を正確に伝えられる能力があることが示されました。
自閉症の人と非自閉症の人との間ではコミュニケーションのすれ違いは起きやすいのですか?
いいえ、情報の正確さには差がなく、すれ違いは内容の伝わり方よりも親しみやすさに影響します。
互いの違いを理解し合うことは、コミュニケーションの改善に役立つのでしょうか?
はい、お互いの違いを理解し尊重することで、より良い交流や関係構築が期待できます。

「自閉症の人はコミュニケーションが苦手」というのは、世の中で広く知られているイメージです。
しかし、それは本当に本人だけの問題でしょうか。
この疑問に挑んだのが、イギリスとアメリカの研究者たちによる大規模な実験です。

この研究を行ったのは、英エジンバラ大学のキャサリン・クロンプトンをはじめとする国際的なチームです。
彼らは「自閉症の人同士ならスムーズにやりとりができる」という考え方、いわゆる「ダブル・エンパシー理論」に基づいて、科学的な検証を行いました。

研究の目的は、「自閉症の人とそうでない人が情報を伝え合うとき、相手によってうまくいく度合いが違うのか」を調べることでした。
とくに「同じタイプ同士」「違うタイプ同士」で、情報の伝わり方や“親しみやすさ(ラポール)”がどう変わるのかに注目しました。

実験の参加者は合計311人です。
自閉症の人が154人、そうでない人が157人という構成でした。
場所はイギリスのエジンバラ大学、ノッティンガム大学、アメリカのテキサス大学ダラス校の3か所で行われ、文化や背景の違う人々が集められました。

実験で使われたのは、「ディフュージョン・チェーン法」と呼ばれる手法です。
これは、いわゆる「伝言ゲーム」のような形式で、最初の人が聞いた物語を次の人に伝え、順番にバトンを渡していく方法です。
6人で1つのグループ(チェーン)を作り、自閉症だけのチェーン、非自閉症だけのチェーン、混合(自閉症と非自閉症が交互に並ぶ)チェーンの3種類を比較しました。

物語の内容は「フィクション(架空の物語)」と「ファクト(事実をもとにした話)」の2種類が用意されました。
物語は30個の具体的な情報(ディテール)から構成されており、それをいくつ正確に伝えられたかが評価されました。
伝え方は、最初に録画された語りを見聞きし、それを覚えて次の人に口頭で伝えるという形式です。

また、実験にはもうひとつの工夫がありました。
それは、「相手が自閉症かどうかを事前に伝える」グループと、「それを知らせない」グループを用意したことです。
現実の社会でも、自閉症であることをオープンにしていない場面が多いため、それがラポールや情報伝達にどう影響するかも調べたのです。

研究チームは「自閉症同士、非自閉症同士ならスムーズに情報が伝わりやすく、混合グループでは伝わりにくいのでは」と予測していました。
しかし、結果は意外なものでした。

情報がどれだけ正確に伝わったかについては、どのグループもほぼ同じだったのです。
自閉症同士でも、非自閉症同士でも、混ざったグループでも、伝言ゲームの成績に差はありませんでした。

これは、「自閉症の人は情報を伝えるのが苦手」という思い込みを覆す結果です。
相手が誰であっても、きちんと情報を伝え合う力があることが証明されたのです。

一方で、“親しみやすさ(ラポール)”には違いが見られました。
非自閉症同士のグループは、他のグループに比べて「話しやすい」「楽しい」と感じる傾向が強く、自閉症同士や混合グループではその得点がやや低めでした。

また、「相手が自閉症かどうかを事前に知っていたかどうか」も、ラポールに影響を与えました。
相手が自閉症であることを知っている方が、少しだけ親しみやすさが高まるという傾向が見られたのです。

これらの結果から、「情報が伝わるかどうか」と「話しやすさの感じ方」は必ずしも一致しないことがわかります。
つまり、「この人とはなんだか話しにくいな」と感じても、実はきちんと情報は伝わっている、ということがあるのです。

今回の研究がとくに重視したのは、「本人の問題」と「相手との違いによるすれ違い」を区別することでした。

これまでの研究では、自閉症の人が直面するコミュニケーションの困難さは、主に「本人側の課題」とされてきました。
しかし、クロンプトンたちは、「そもそも違うタイプ同士でやりとりをすること自体が、誤解やすれ違いを生むのではないか」と考えたのです。

その仮説を検証するために、今回は前回(参加者72人)の実験を大幅にスケールアップし、311人という大規模なサンプルで、かつ3つの異なる地域でデータを集めました。
これによって、単なる偶然や地域差ではなく、より一般的な傾向を探ることができました。

さらに、今回の自閉症グループは、知能指数(IQ)や性別、年齢、診断方法(公式診断・自己診断)など、さまざまな属性の人が含まれていました。
これは「自閉症」というくくりだけでは語れない、多様な実態を反映するための重要な工夫です。

ディフュージョン・チェーン法は、「情報がどこで抜け落ちるか」を細かく分析できる手法です。
今回は、情報が伝わる順番(1人目~6人目)に応じて、どの時点で内容が薄れていくのかを測定しました。

その結果、当然ながら後半になるほど情報は少しずつ減っていきましたが、その減り方にグループごとの大きな差はありませんでした。

一方、親しみやすさについては、相手が誰か、相手のことを知っているか、という要素が影響を与えていました。
とくに、非自閉症同士ではラポールが高く、混合グループではやや低い傾向が見られました。

このように、「情報は伝わるが、心地よさの感じ方は違う」という結果は、私たちが思っている以上に“すれ違い”の本質を突いているのかもしれません。

この研究は限界もあります。
実験はイギリスとアメリカで行われたため、文化的背景の異なる地域では違う結果になる可能性もあります。
また、使用した課題は「伝言ゲーム」のような限定的な状況であり、日常会話のような複雑なやりとりとは異なります。

しかし、この結果は「自閉症だからコミュニケーションが苦手」というシンプルな見方に疑問を投げかけるものです。
むしろ、「お互いの違いを理解し、その違いに合わせたやりとりをどう作っていくか」が、本当の課題なのだと言えるでしょう。

クロンプトンたちは、今後は性別や年齢、文化的背景など、さまざまな属性の“組み合わせ”がどのように影響するのかを、さらに詳しく調べていく必要があるとしています。

また、自閉症の人が「自分を普通に見せようとする努力(マスキング)」が、こうしたコミュニケーションにどう関わっているのかも、重要なテーマとして挙げられています。
マスキングは一時的には役立つこともありますが、長期的には本人の心身に大きな負担を与えることが知られています。

結論として、この研究は「自閉症の人が社会で苦労するのは、本人の能力不足ではなく、相手との“すれ違い”によるもの」という新しい視点を示しました。
お互いの違いを認め合い、理解し合うことで、より良いコミュニケーションが築けるかもしれません。

(出典:Nature Human Behaviour)(画像:たーとるうぃず)

「自閉症の人が社会で苦労するのは、本人の能力不足ではなく、相手との“すれ違い”によるもの」

つまり、自閉症でない人も原因になっているのです。

お互いが相手を尊重し、理解することで、軽減されます。

広く知られてほしいと願います。

自閉症の人と神経典型の人との間に生じる「二重共感問題」

(チャーリー)


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