
この記事が含む Q&A
- ADHDとASDの成人診断において、感情の不安定さはどのように異なるのですか?
- ADHDは感情の不安定さや怒りの表現の変化が顕著で、ASDは比較的安定しています。
- 併存する成人はどのような感情特性を示す傾向がありますか?
- 感情の不安定性が最も高く、特に怒りの感情が急激に変化しやすい傾向があります。
近年、大人のADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の診断が注目されるようになっています。
子どもの頃だけでなく、大人になってから初めて診断を受けるケースも多くなっていますが、こうした診断の増加に伴い、ADHDとASDの両方を同時に持つ「併存」ケースへの関心も高まっています。
こうした背景を踏まえ、ギリシャのアテネ大学で行われた新たな研究では、ADHD、ASD、そして両者が併存する成人に見られる特性の違いを、感情の不安定さ(情動易変性)を中心に調べました。
今回の研究対象となったのは、ADHDやASDの診断を求めて大学病院の専門部署を訪れた成人300人です。
専門的な診断プロセスを経て、174人がADHDのみ、68人がASDのみ、58人がADHDとASDの併存と診断されました。
参加条件としてとくに知的障害がないことが求められました。
診断には、自己報告式の質問票(BAARS-IV、AQ、EQ、ALS-18)を用いて、過去および現在の注意力や多動性、自閉症的な傾向、共感力、感情の安定性(情動易変性)などを詳細に調べました。
その結果、ADHDのグループは注意力の問題や多動性、衝動性が顕著で、ASDのグループは社会的コミュニケーションや共感力の課題が目立つことが明らかになりました。
興味深いことに、ADHDとASDが併存するグループでは、ADHDグループと比べて過去の子ども時代の症状の総合スコアがやや低く、むしろASDの特性(社会的な困難さや共感性の低さ)が強く現れました。
また、感情の不安定性、とくに怒りの表現に関するスコアが非常に高いことが分かりました。
情動易変性を測定するALS-18というスケールを使った分析によると、ADHDとASDが併存する人は、怒りの感情が急激に変化しやすい傾向が顕著であり、ADHDだけの人よりもその傾向がはるかに強く表れました。
一方で、ASDのみのグループでは感情の変動性が比較的低く、とくにうつと喜びの間の変動がADHD併存群より低いことも判明しました。
さらに、共感力を測るEQスコアにおいても特徴的な違いが見られました。
ASDのみのグループは最も低い共感性を示しましたが、ADHDと併存するグループはASDのみのグループよりも共感性がやや高いことが分かりました。
これは、ADHDが持つ社交的な傾向が、ASDの特徴である共感力の低さを一部緩和している可能性を示しています。
研究チームは、こうした感情の不安定性や共感力の違いが、ADHD、ASD、両者の併存という診断を明確に区別する上で重要な要素であることを指摘しています。
とくに「怒り」という感情がADHDとASDが併存するグループの特徴として際立っているため、診断や治療を行う際には感情の調整を目的としたサポートがとくに重要になるでしょう。
今回の研究結果は、診断基準や治療のあり方を考える上で重要な示唆を与えています。
情動の安定性を評価するための質問票を診断プロセスに組み込むことで、より個々人に合った支援や治療法が提供できるようになる可能性があります。
研究チームは今後、長期的な視点で感情の不安定性がどのようにADHDやASDの生活に影響を及ぼすか、さらなる調査が必要だとしています。
この研究は、成人のADHDやASDの特性を理解する上で重要な一歩となるでしょう。
専門家だけでなく、家族や職場など身近な人々が理解を深めるための手助けにもなることが期待されます。
(出典:BMC Psychiatry)(画像:たーとるうぃず)
簡単にまとめると、
- ADHDのみの人たち:感情の不安定さがあり、怒りの感情が変わりやすい。
- ASDのみの人たち:感情の変動性は比較的少なく、感情が安定している傾向がある。
- ADHDとASDが併存する人たち:感情の不安定性が最も高く、とくに怒りが急激に変化しやすい。
だそうです。
(チャーリー)