この記事が含む Q&A
- フィジェッティングとは何を指し、研究ではどのように捉えられているの?
- 繰り返しの小さな動きを指し、注意や覚醒を保つ自己調整行動として見られることが多いです。
- 研究ではどんな方法で評価し、何が分かったの?
- 聞き取り課題中の瞳孔径を測定して覚醒・注意状態を評価し、手のフィジェッティングが瞳孔拡大を大きくさせる傾向がありましたが成績には影響しませんでした。
- 日常生活への示唆と注意点は何ですか?
- 少し体を動かすと聞く力の維持に役立つ可能性があるとされますが、日常の無意識のフィジェッティングや対象者の特性には限界があり、今後の研究が必要です。
人は話を聞いているとき、無意識のうちに指先を動かしたり、ペンをいじったり、足を小刻みに動かしたりすることがあります。
こうした小さくて繰り返しの動きは、一般に「フィジェッティング」と呼ばれ、これまで長い間、「落ち着きがない」「集中していないサイン」と考えられてきました。
しかし近年、この見方に変化が起きています。
フィジェッティングは単なる気散らしではなく、むしろ注意や覚醒レベルを保つための、ある種の自己調整行動かもしれない、という考え方が広がってきています。
今回紹介する研究は、「話を聞くときに手や足を少し動かすことが、脳の状態にどのような影響を与えるのか」を、生理指標を用いて調べたものです。
この研究は、高知健康科学大学、広島大学大学院、広島市立大学、大阪大学の研究者らによって行われました。

この研究の大きな特徴は、「聞き取り課題の成績」だけでなく、「瞳孔径(どうこうけい)」という生理反応を用いて、聞いている最中の覚醒状態や注意の変化を評価している点にあります。
瞳孔は、光の量だけでなく、注意や覚醒、認知的な負荷によっても大きさが変化することが知られています。
一般に、課題に集中しているときや覚醒水準が高まっているときには、瞳孔が拡大します。
そのため、瞳孔径は「どれだけ脳が活動状態にあるか」を示す手がかりとして利用されます。
研究では、18歳から26歳の健康な若年成人33人が参加しました。
全員が聴力スクリーニングを受け、日常会話レベルで問題のない聴力を持つことが確認されています。
参加者は、次の4種類の聴覚課題を行いました。
- 通常よりも約2倍速で読まれる短い文章を聞き取り、復唱する
- 雑音の中で2音節の単語を聞き取り、復唱する
- 同時に流れる3つの短文のうち、中央から聞こえる文だけを聞き取る
- 数字列を聞き、「1」の直後に「9」が出たときだけマウスをクリックする
これらの課題を、次の3つの条件で行いました。
- 何もせず静かに座って行う
- 非常に軽いペースでエルゴメーターをこぐ「足のフィジェッティング」
- 小さなフィジェットトイを両手でいじりながら行う「手のフィジェッティング」
課題中、参加者の瞳孔径はアイ・トラッカーで連続的に測定されました。

その結果、興味深いことが明らかになりました。
まず、手を動かす条件でも、足を動かす条件でも、何もしない条件に比べて、瞳孔が大きくなる傾向が見られました。
つまり、フィジェッティングをしているときのほうが、聞いている最中の覚醒レベルや注意の活性が高まっていた可能性があります。
とくに、速い話し言葉を聞く課題と、雑音の中で聞き取る課題では、「手のフィジェッティング」で最も大きな瞳孔拡大が観察されました。
一方で重要なのは、どの課題においても、正答率や反応時間といった「成績」には、3条件の間で有意な違いが見られなかった点です。
つまり、
フィジェッティングをしても、聞き取り能力は低下しなかった。
それどころか、生理的には「より活動的な状態」になっていた。
という結果になります。
このことは、「少し体を動かしながら聞く」という行為が、聞き取りの邪魔になるどころか、むしろ注意を保つ方向に働く可能性を示しています。

研究者たちは、瞳孔の拡大が必ずしも「処理が大変になった」ことを意味するわけではない点にも注意を促しています。
瞳孔は、認知的な負荷だけでなく、覚醒や関与の高まりでも拡大します。
今回の課題では成績が変わらなかったため、フィジェッティングによって「聞き取りが難しくなった」のではなく、「覚醒レベルや関与が高まった」と解釈するのが妥当だと考えられています。
では、なぜ手のフィジェッティングのほうが、足よりも大きな瞳孔変化を示したのでしょうか。
論文では、手を使った操作は、触覚や運動感覚などの感覚入力が豊富で、より広い脳領域を刺激する可能性があると述べられています。
小さな物をいじるという行為は単純で自動化しやすい一方、感覚的な情報量は多く、覚醒調整に影響を与えやすいと考えられます。
また、こうした動きは、脳幹にあるノルアドレナリン系(覚醒調節に関わる神経系)と関連しているとされ、軽い運動や感覚刺激が覚醒レベルを適度に高める可能性が指摘されています。
研究者たちは、この結果を「フィジェッティングは注意をそらす行為ではなく、注意を支える行為である可能性がある」と慎重にまとめています。
ただし、いくつかの限界も示されています。
この研究で用いられたフィジェッティングは、あらかじめ指示された「意図的な動き」であり、日常生活で自然に起こる無意識のフィジェッティングとは性質が異なる可能性があります。
また、参加者は若く健康で、課題成績が全体的に高かったため、より注意が不安定な人や聴覚処理に困難のある人では、異なる結果になる可能性があります。

そのため研究者たちは、今後は注意に課題のある人、聴覚処理に困難をもつ人、高齢者などを対象に、同様の研究を行う必要があると述べています。
それでも今回の研究は、「じっとしていないといけない」という従来の前提に、静かに疑問を投げかけています。
少し手を動かす。
少し足を揺らす。
そのような小さな動きが、私たちの脳を「聞く準備ができた状態」に保つ一助になっているのかもしれません。
フィジェッティングは、集中できないから起こる行動ではなく、集中するために起こる行動である可能性。
この研究は、その可能性を、生理学的なデータをもって示しています。
(出典:Brain Sciences DOI:10.3390/brainsci16020127)(画像:たーとるうぃず)
助けになることを、無理に止めさせようとすることは決してしないでください。
(チャーリー)





























