この記事が含む Q&A
- ADHDと感情のつらさにはどんな特徴がありますか?
- 怒りを感じやすくコントロールしにくい傾向が特に目立ち、ポジティブな感情のコントロールも難しい場合があります。
- 悲しみや恐れの感情はADHDだけで説明できますか?
- 不安やうつなど他の症状の影響が大きく、ADHDそのものだけでは説明しにくいことがあるとされました。
- 研究にはどんな限界が指摘されていますか?
- 質問票中心で回答者数が少なく、地域が限定されており因果関係を示すものではありません。
自閉症やADHDの研究では、「注意が続かない」「落ち着いていられない」といった特徴がよく知られています。
しかし実際の生活では、それだけでは説明できない困難が多く見られます。
たとえば、急に強く怒ってしまう。
感情が高ぶると自分では止められない。
楽しいときでも興奮しすぎてしまう。
こうした「感情の難しさ」は、ADHDのある子どもや若者の生活に大きく関わっていると言われています。
実際、ADHDの子どもの約25〜50%に、感情の反応の強さや感情のコントロールの難しさが見られると報告されています。
しかし、これまでの研究には大きな問題がありました。
多くの研究では、「感情のコントロールが苦手」といった大まかな尺度だけを使って調べていたため、どの感情がとくに関係しているのかがよく分かっていなかったのです。

怒りなのか。
悲しみなのか。
恐怖なのか。
それとも喜びなのか。
感情にはさまざまな種類があります。
さらに、感情には二つの側面があります。
一つは「感情の反応の強さ」です。
これは、出来事に対してどれくらい強く感情が起きるかということです。
もう一つは「感情の調整」です。
これは、起きた感情を落ち着かせたり、コントロールしたりする力です。
たとえば怒りで考えてみましょう。
ある出来事に対してとても強く怒りを感じる人もいます。
しかし、強く怒りを感じても、自分で落ち着かせることができる人もいます。
つまり
・怒りを感じやすい
・怒りをコントロールしにくい
という二つは、似ているようで実は別のものなのです。
この研究では、こうした点を詳しく調べるため、子どもや若者の四つの感情に注目しました。
・悲しみ
・恐れ
・怒り
・高揚感(とても楽しい・興奮する感情)
そして、それぞれについて
・感情の強さ(反応)
・感情の調整(コントロール)
の両方を調べました。
研究を行ったのは、スウェーデンのウプサラ大学を中心とする研究チームで、カロリンスカ研究所やストックホルム大学の研究者も参加しています。
研究には二つのグループが参加しました。
一つ目は、ADHDと診断された子どもや若者と、発達が典型的な子どもを比較するグループです。
ここには10〜17歳の104人が参加しました。
そのうち
・ADHDの診断がある子ども 56人
・診断のない子ども 48人
でした。
もう一つは、精神科を受診した若者のグループです。
こちらは13〜18歳の85人でした。
このグループでは、ADHDの診断ではなく、「ADHDの特性の強さ」を測定して分析しました。
つまりこの研究では
・ADHDと診断された場合
・ADHDの特性が強い場合
の両方について、感情との関係を調べたのです。
調査では、子どもや若者自身が質問票に回答しました。
さらに、保護者の回答も集めて、結果が一致するかを確認しました。

研究の結果、もっともはっきりした特徴が見つかった感情は怒りでした。
ADHDの診断がある子どもは、怒りに対して
・怒りを感じやすい
・怒りをコントロールしにくい
という傾向が強く見られました。
そして同じ傾向は、ADHDの特性が強い若者でも見られました。
つまり
怒りの感情は、ADHDと特に強く関係している可能性がある
という結果です。
これは、近年の研究とも一致しています。
ADHDでは「いら立ち」や「怒り」が重要な特徴である可能性が指摘されてきました。
さらに研究では、もう一つ興味深い結果が見つかりました。
それは、ポジティブな感情です。
ADHDの特性が強い人では
・とても楽しい
・興奮する
・テンションが上がる
といった高揚感の反応が強くなる傾向が見られました。
そして同時に、その高揚した感情をコントロールするのも難しい傾向がありました。
これは、ADHDの特徴としてよく知られている
・刺激を求める行動
・活動の多さ
などと関係している可能性があります。
つまり、ADHDでは
「ネガティブな感情だけでなく、ポジティブな感情のコントロールも難しい」
可能性があるのです。

一方で、悲しみや恐れについては少し複雑な結果でした。
ADHDの診断がある子どもでは
・悲しみ
・恐れ
の感情の反応が強い傾向が見られました。
しかし、ADHDの特性の強さだけで見ると、この関係はあまりはっきりしませんでした。
研究者たちは、この理由として「他の精神症状」の影響を指摘しています。
実際、研究では
・不安
・うつ
・行動の問題
・自閉症特性
なども同時に分析しました。
すると、悲しみや恐れの感情には
・不安症状
・うつ症状
の影響が大きいことが分かりました。
つまり、悲しみや恐れの感情は、ADHDそのものというより、不安やうつなど、別の問題と関係している可能性があるということです。
また、この研究では男女差についても調べました。
その結果、ADHDの診断があるグループでは、
女の子のほうが
・悲しみ
・恐れ
・怒り
の感情の強さが高い傾向が見られました。
ただし、ADHDと感情の関係そのものは、男女で大きく違いませんでした。
つまり、ADHDと怒りの関係は、男女どちらにも見られるという結果です。

研究者たちは、この結果から重要なことを指摘しています。
ADHDの理解では、これまで
・注意の問題
・衝動性
・多動
といった認知や行動の特徴が中心に考えられてきました。
しかし実際には、感情の問題もADHDの重要な側面かもしれないというのです。
とくに怒りのコントロールの難しさは、
・対人関係のトラブル
・反抗的な行動
・物質使用
・精神的な苦痛
などと関係することが知られています。
そのため、ADHDの支援では、注意力や行動だけでなく、感情の調整を助ける支援も重要になる可能性があります。
さらに研究者たちは、ポジティブな感情にも注目する必要があると述べています。
これまで精神健康の研究では
怒り
悲しみ
不安
といったネガティブな感情が中心でした。
しかし今回の研究は、
「楽しい」「興奮する」といったポジティブな感情も、ADHDと関係している可能性を示しました。
ただし、この研究にはいくつかの限界もあります。
たとえば
・感情の評価が質問票中心であること
・参加者の人数が比較的少ないこと
・スウェーデンの一つの地域で行われた研究であること
などです。
また、研究は一時点のデータを調べたもので、原因と結果を直接示すものではありません。

それでも今回の研究は、ADHDと感情の関係について重要な手がかりを示しています。
ADHDは単なる「注意の問題」ではなく、「感情の体験や感情のコントロールのあり方にも深く関わる状態」なのかもしれません。
とくに怒りという感情は、その中心にある可能性があります。
そして同時に、楽しさや興奮といったポジティブな感情のコントロールも、ADHDを理解するための重要な鍵になるかもしれません。
人の感情は単純ではありません。
悲しみ
恐れ
怒り
喜び
それぞれが異なる仕組みで生まれます。
ADHDを理解するためには、こうした感情の細かな違いを見ていくことが大切なのかもしれません。
今回の研究は、その方向に向けた重要な一歩と言えるでしょう。
(出典:BMC Psychiatry DOI: 10.1186/s12888-025-07708-0)(画像:たーとるうぃず)
感情の問題もADHDの重要な側面かもしれない
知っておかなければなりません。
(チャーリー)




























