この記事が含む Q&A
- 自閉症と ADHD の脳にはどんな違いが見られたのでしょうか?
- 自閉症は皮質が薄く、 ADHD は前頭頂ネットワークを含む特定領域が厚くなる傾向があり、関連するネットワークにも差が見られました。
- この研究の特徴は何ですか?
- 約1万人の大規模データを統一的な解析法で用いて比較した点が新しい特徴です。
- この結果は支援や理解にどうつながりますか?
- 発達のタイミングの違いを理解することで、個別化された支援や強みの活かし方につながる可能性があります。
自閉症とADHDは、どちらもよく知られた発達の特性ですが、この二つは似ている部分も多く、長いあいだ研究者たちを悩ませてきました。
たとえば、注意の向け方、感覚の感じ方、社会的なやり取りなど、いくつかの特徴が重なっています。
そのため、「同じ脳の仕組みから生まれているのではないか」と考えられることもありました。
しかし一方で、自閉症とADHDは明らかに違う特徴も持っています。
自閉症では、感覚の処理や視覚的な注意の持続に困難が見られることが多い一方で、ADHDでは音に関する注意や衝動のコントロールに困難が現れることが多いことが知られています。
では、この二つの違いは、脳の構造の違いとしても現れているのでしょうか。
この疑問に答えるため、大規模な脳画像データを使った研究が行われました。
この研究は、アメリカのミネソタ大学の小児科学部門にあるメイソニック発達脳研究所を中心とした研究チームによって行われました。
研究者たちは、これまでの研究の大きな問題に注目しました。
それは「研究ごとに結果がばらばらになりやすい」という問題です。
脳の研究では、MRIという装置を使って脳の形を調べることが多いのですが、研究ごとに使う装置や解析方法が違うと、結果も変わってしまうことがあります。
また、多くの研究では参加者の人数が少なく、統計的に不安定な結果になることもありました。

そこで今回の研究では、世界中の大規模な脳画像データを統合し、できるだけ統一した方法で解析することにしました。
集められたデータは、6つの大規模研究からのものです。
これらを合わせると、参加者は合計9,647人にのぼりました。
その中には
・ADHDの人 1,533人
・自閉症の人 1,080人
・どちらでもない対照群 7,034人
が含まれていました。
年齢は5歳から64歳までと幅広いものでした。
研究者たちはMRI画像から、脳の「大脳皮質」と呼ばれる部分の形を詳しく調べました。
大脳皮質は、思考、言語、注意、感覚、行動など多くの働きを担う脳の表面の層です。
この研究では特に、二つの特徴に注目しました。
一つは「皮質の厚さ」です。
もう一つは「皮質の曲がり方」です。
脳の表面には、しわのような構造があります。
外にふくらんだ部分と、内側に折れ込んだ溝があり、この複雑な形が脳の働きと関係していると考えられています。
研究者たちは、脳を360の領域に分け、それぞれの厚さや曲がり方を統計的に比較しました。
その結果、自閉症とADHDでは、脳の構造に明確な違いが見られることがわかりました。

まず、自閉症では、大脳皮質が全体的に「薄くなる」傾向が見られました。
この変化は特定の場所だけではなく、いくつもの脳ネットワークに広がっていました。
たとえば
・言語に関係するネットワーク
・注意に関係するネットワーク
・感覚や運動に関係するネットワーク
・視覚処理に関係する領域
などで皮質が薄い傾向が見られました。
特に、視覚処理に関わる後頭葉の領域では、情報をまとめて処理する働きに関係する部分が薄くなっていました。
これは、視覚情報の統合のしかたが自閉症では独特であるという、これまでの研究とも一致する結果です。

一方、ADHDでは逆の傾向が見られました。
ADHDの人では、特定の脳領域で皮質が「厚い」傾向が見られました。
特に目立っていたのは、「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる脳のネットワークです。
このネットワークは
・自己について考える
・将来を想像する
・感情や報酬を評価する
といった働きに関係しています。
ADHDでは、このネットワークの一部で皮質が厚くなっていました。
研究者たちは、この変化が
・自己調整
・実行機能
・報酬に関する判断
などの働きと関係している可能性があると考えています。
さらに興味深いことに、対照群の人たちはこの二つの中間の特徴を示していました。
つまり
- 自閉症
- ADHD
- 比較対照群
という三つのグループは、脳の皮質の厚さにおいて、連続的な違いを示していたのです。
研究者たちは、この結果から、自閉症とADHDは「似た問題」ではなく、「異なる発達の方向」を持つ可能性があると考えています。

研究者たちはこの違いを、「発達のタイミングの違い」として説明しています。
脳の発達では、子どものころに神経のつながりが増え、その後、不要なつながりが整理されていきます。
この過程を「シナプスの刈り込み」と呼びます。
自閉症では
・早い時期に脳が急速に成長する
・思春期に皮質が速く薄くなる
という特徴があると考えられています。
一方でADHDでは
・脳の成熟が遅れる
・皮質が厚い状態が長く続く
という発達の遅れが示唆されています。
つまり、自閉症とADHDは
・早すぎる発達
・遅すぎる発達
という、逆方向の発達パターンを持つ可能性があるということです。
さらに研究者たちは、脳の「しわ」の形にも注目しました。
自閉症では、ある言語関連領域の溝がより深くなっていました。
この領域は、言語や感覚運動の処理に関係する場所です。
一方、ADHDでは
・運動関連の領域
・デフォルトモードネットワーク
などで、溝の深さや形が特徴的に変化していました。
これらの違いは、脳が発達する過程で働く物理的な力とも関係している可能性があります。
脳が成長するときには
・神経の枝分かれ
・神経線維の張力
・脳表面の拡大
などが互いに影響し合いながら、しわの形を作ります。
そのため、しわの形の違いは、脳の発達過程そのものの違いを反映している可能性があります。

今回の研究で特に重要なのは、非常に大きなデータを使ったことです。
これまでの脳研究では、数十人から数百人のデータが使われることが多く、小さな違いを正確に見つけることが難しい場合がありました。
しかし今回の研究では、約1万人のデータが使われました。
そのため、これまで見えにくかった微妙な違いも検出できた可能性があります。
研究者たちは、この結果を「統一的な神経発達モデル」として説明しています。
それによると、自閉症とADHDは共通の脳ネットワークに影響を受けながらも、発達の方向が異なる可能性があります。
特に重要なのは、「前頭頭頂ネットワーク」と呼ばれる領域です。
このネットワークは
・注意
・問題解決
・計画
・実行機能
など、多くの高度な認知機能に関係しています。
この領域では
自閉症では最も薄い皮質
ADHDでは最も厚い皮質
というパターンが見られました。
研究者たちは、この結果を「共通の弱点と異なる発達経路」として説明しています。
つまり
同じ脳ネットワークが影響を受けながら
その発達のタイミングが違うことで
異なる特性が生まれる
という可能性です。
もちろん、この研究にも限界があります。
たとえば、すべてのデータで
・診断の評価方法
・IQ検査
・薬の使用状況
などが完全にそろっているわけではありませんでした。
また、知的障害を伴う自閉症の人は、MRI研究に参加することが難しい場合が多く、今回の研究でも十分に含まれていません。
さらに、自閉症やADHDは非常に多様な特性を持つため、グループ平均だけでは個人の違いを完全には説明できません。

研究者たちは、今後は同じ人を長期間追跡する研究が重要だと述べています。
脳の変化を時間の中で追うことで、発達のタイミングの違いをより正確に理解できる可能性があるからです。
また研究者たちは、自閉症やADHDを「欠点」としてだけ見るのではなく、強みも含めて理解する必要があるとも指摘しています。
たとえば、自閉症の人の中には、優れた視覚的能力や空間認知能力を持つ人もいます。
今後の研究では、脳の構造と
・困難
・能力
・個人の強み
の関係をより詳しく調べることで、より個別化された支援につながる可能性があります。
今回の研究は、自閉症とADHDの脳の違いを、大規模データで明らかにした重要な研究です。
そしてその結果は、二つの特性が「似ている障害」ではなく、「異なる発達の時間軸を持つ特性」である可能性を示しています。
脳の発達は、一人ひとり異なります。
その違いを理解することが、これからの支援や理解のあり方を変えていくのかもしれません。
(出典:bioRxiv DOI:10.64898/2026.01.05.697782)(画像:たーとるうぃず)
自閉症とADHDは 早すぎる発達/遅すぎる発達 という、逆方向の発達パターンを持つ可能性
似ているけれど、違う。
それに答える、説得力のある研究結果ですね。
ただし、自閉症とADHDの両方をもつ方も多いので、それをどう説明するのか、私には疑問も残ります。
(チャーリー)




























