この記事が含む Q&A
- 自閉症のみ、ADHDのみ、そして自閉症+ADHDの両方の特性を持つ3グループを比較している?
- 自閉症のみ、ADHDのみ、両方の特性を持つ3グループを比較している。
- 自閉症とADHDの重複がある子どもは、作業記憶や処理速度の点でどのような傾向を示しますか?
- 作業記憶・処理速度が低い傾向があり、IQも自閉症グループより低い場合がある。
- 認知能力と行動・感情の関係について、両特性を持つ子どもでは保護要因の効果がどう変わると説明されていますか?
- 認知能力が高くても感情・行動の問題が減りにくく、保護要因の効果が薄れる可能性がある。
自閉症とADHDは、子どもの発達に関わる代表的な神経発達症として知られています。
どちらも学校生活や社会生活に影響を与えることがあり、多くの研究がそれぞれの特徴や支援方法を調べてきました。
しかし現実の子どもたちを見ると、これら二つの特性が同時に現れることはめずらしくありません。
実際、これまでの研究では、自閉症の子どもの最大で約7割がADHDの診断基準も満たす可能性があると報告されています。
また、ADHDの子どもの30〜50%に自閉症の特性が見られるという研究もあります。
このように二つの特性が重なっているケースは決してめずらしくありません。
ところが、そのような子どもたちがどのような認知の特徴や行動の特徴を持つのかについては、これまで十分に研究されてきませんでした。
長い間、精神医学の診断基準では自閉症とADHDを同時に診断することが認められていなかったためです。
そのため、両方の特性を持つ子どもたちの特徴を詳しく調べた研究は比較的少ないのです。
そこで今回の研究では、自閉症だけの子ども、ADHDだけの子ども、そして自閉症とADHDの両方の特性を持つ子どもを比較し、それぞれの認知能力や行動・感情の特徴を詳しく調べました。
この研究は、イタリアのIRCCSステッラ・マリス財団(IRCCS Fondazione Stella Maris)の児童精神医学研究チームを中心に、パドヴァ大学やイタリア国立研究評議会神経科学研究所の研究者たちによって行われました。

研究では、6歳から16歳までの子どもと若者207人が対象になりました。
参加者は次の3つのグループに分けられました。
・自閉症のグループ(21人)
・ADHDのグループ(103人)
・自閉症とADHDの両方の特性を持つグループ(83人)
診断は専門家チームによって行われ、発達歴の聞き取りや行動観察、標準的な検査などを組み合わせて判断されています。
研究では、主に二つの評価方法が使われました。
一つは子どもの知的能力を測る検査です。
これはウェクスラー式知能検査(WISC-IV)と呼ばれるもので、世界中で広く使われている知能検査です。
この検査では、次のような能力を測定できます。
・言葉を理解する力
・視覚的な情報を使って考える力
・作業記憶(頭の中で情報を保持して処理する力)
・処理速度(課題を素早く処理する力)
もう一つは、子どもの行動や感情の特徴を調べる質問紙です。
これはCBCL(Child Behavior Checklist)というもので、保護者が子どもの行動について回答する形式の評価方法です。
この質問紙では、
・不安や落ち込み
・社会的な問題
・注意の問題
・攻撃的行動
・ルール違反行動
など、さまざまな行動や感情の特徴を測定できます。
まず研究者たちは、3つのグループの知的能力を比較しました。
すると、いくつかの興味深い違いが見つかりました。

自閉症とADHDの両方の特性を持つ子どもは、自閉症だけの子どもと比べて、作業記憶や処理速度の得点が低い傾向がありました。
また、全体的な知能指数(IQ)も自閉症グループより低くなっていました。
一方で、自閉症とADHDの両方の特性を持つ子どもと、ADHDだけの子どものあいだには、知的能力に大きな違いは見られませんでした。
つまり、認知能力のプロフィールを見ると、両方の特性を持つ子どもは自閉症よりもADHDに近い特徴を示していたのです。
次に、行動や感情の特徴を比較しました。
ここでは、それぞれのグループで異なるパターンが見られました。
ADHDの子どもたちは、
・攻撃的な行動
・ルール違反行動
といった外向的な問題行動が多く見られました。
これは、衝動性や抑制の難しさといったADHDの特徴と一致しています。
一方で、自閉症の子どもたちは
・引きこもり
・落ち込み
といった内向的な感情の問題がより強く見られました。
これは社会的な困難や孤立感と関係している可能性があります。
では、両方の特性を持つ子どもはどうだったのでしょうか。
このグループでは、内向的な問題と外向的な問題の両方が広く見られる傾向がありました。
さらに、
・スラギッシュ認知テンポ(ぼんやりした思考テンポ)
・強迫的な傾向
などの特徴も比較的高く現れていました。
つまり、二つの特性が重なることで、行動や感情の問題がより広い範囲に広がる可能性が示されたのです。

研究者たちは、もう一つ重要な点にも注目しました。
それは「認知能力と行動の関係」です。
自閉症の子どもやADHDの子どもでは、認知能力が高いほど行動や感情の問題が少ない傾向がありました。
例えば、
・言語理解が高い子どもほど社会的問題が少ない
・作業記憶が高い子どもほど注意の問題が少ない
といった関係が見られました。
つまり、認知能力がある程度の「保護要因」として働いている可能性があるのです。
しかし、ここでも興味深い結果が出ました。
自閉症とADHDの両方の特性を持つ子どもでは、この関係がほとんど見られなかったのです。
認知能力が高くても、行動や感情の問題が必ずしも少なくなるわけではありませんでした。
研究者たちは、この結果を「認知と感情の統合がうまく働いていない可能性」として説明しています。
通常は、言語能力や作業記憶といった認知能力が、感情調整や行動コントロールを支える役割を持っています。
しかし、両方の特性が重なる場合には、
・注意のコントロール
・抑制
・予測処理
といった複数の仕組みが同時に影響を受けるため、その保護効果が弱くなる可能性があるというのです。

また研究者たちは、自閉症の子どもに見られる「注意の問題」が、必ずしもADHDと同じ意味ではない可能性にも言及しています。
自閉症の場合、注意が向かないのは
・情報処理の違い
・興味の偏り
・関心の低い刺激への反応の弱さ
といった理由によることもあります。
そのため、ADHDによる不注意と区別することが重要だと指摘されています。
この研究から見えてくるのは、自閉症とADHDの両方の特性を持つ子どもは、単に二つの特徴が足し合わさっただけではない可能性があるということです。
認知の特徴、行動の特徴、そしてそれらの関係の仕方が、独特のパターンを持っている可能性があります。
研究者たちは、このようなケースを一つの「臨床的な表現型(フェノタイプ)」として考える必要があると述べています。
つまり、
自閉症
ADHD
自閉症+ADHD
という三つの異なるプロフィールとして理解することが重要かもしれないということです。
このような理解は、支援の方法にも影響します。
例えば、自閉症の子どもでは認知の強みを活かした支援が効果的な場合があります。
しかし、両方の特性を持つ子どもでは、同じ方法がうまく機能しない可能性があります。
研究者たちは、支援には次のような要素を組み合わせる必要があると述べています。
・実行機能のトレーニング
・感情調整の支援
・行動のコントロール支援
・家族への心理教育
などです。
また今後の研究では、
・脳の研究
・遺伝研究
・長期的な追跡研究
などを組み合わせることで、より詳しい理解が進むと期待されています。
自閉症とADHDは、それぞれ多様な特徴を持つ発達特性です。
そして現実の子どもたちは、その境界のあいだでさまざまなプロフィールを示します。
今回の研究は、その複雑さを理解するためには、単純な診断カテゴリーだけでは足りない可能性を示しています。
子どもの特性をより立体的に理解し、その子に合った支援を考えていくことが、これからますます重要になるのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2026.1765698)
海外のメディアでは、AuDHD (=Autism(自閉症) + ADHD)という言葉を目にすることが多くなりました。
それだけ多いので、正しい理解、正しい支援が進むことを願っています。
(チャーリー)




























