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ADHDやディスレクシア特性が仕事の進め方におよぼす負担

time 2025/12/23

この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。

ADHDやディスレクシア特性が仕事の進め方におよぼす負担

この記事が含む Q&A

ディスレクシア特性は職場で感じる認知の負担とどのように関係しますか?
ディスレクシア特性が高いほど、言語・記憶・処理速度などの認知負担が強くなる傾向が示されています。
ADHD特性とディスレクシア特性では、職場で困りやすい認知の領域に違いがあるのですか?
ADHD特性は実行機能に強く影響しますが、言語理解・表現はディスレクシア特性の方が関係が大きいとされています。
職場でディスレクシア特性を持つ人を支える具体的な方策には何がありますか?
言語情報を中心の作業を配慮し、重要な説明を文書化、記憶負担を減らすための可視化やメモ化を活用するなどの工夫が有効とされています。

職場で働いていると、「覚えにくい」「進めにくい」「読み返してしまう」「頭がまとまりにくい」といった、認知の負担を自分だけが抱えているように感じる瞬間があります。
周囲には普通にこなしているように見え、自分だけが遅れているように思えて、心細くなる人もいます。
しかし、それらのつまずきが、じつは本人が気づかないまま持っているディスレクシア特性と関係している場合があることが、今回の研究で示されました。

イギリスの ロンドン・サウス・バンク大学医療・生命科学学部 の研究チームは、働く大人の「ディスレクシア特性」と「職場で感じる認知の負担」との関係を丁寧に調べました。
対象となったのは、オフィスで働く 220 名の大人です。
英語が第一言語の人と第二言語の人が混ざり、年齢も幅広い構成でした。
研究チームが注目したのは、「正式な診断の有無ではなく、自己申告によるディスレクシア特性がどれくらいあるか」という点でした。
診断を受けていない人でも、特性そのものは生活の中で影響を持つためです。

調査はオンラインで行われ、参加者はまずディスレクシア特性を測る質問紙に答えます。
そして同時に、職場でどんな認知の困難を感じているかについても答えました。
この質問紙では、記憶、言語の理解や表現、作業の計画性、処理の速さ、人の名前の記憶、感情のコントロールなど、細かな項目が分かれています。
研究では、ディスレクシア特性のほか、ADHD(注意欠如・多動症)の特性、ストレスや抑うつなどのメンタルヘルス、年齢、英語が第一言語かどうかも分析に入れました。
これは、職場での認知の困難が、ディスレクシア特性だけでなく、さまざまな要因から影響を受ける可能性があるためです。

最終的にわかったのは、ディスレクシア特性が高いほど、職場での認知の負担が強くなるという、はっきりとした傾向でした。
とくに影響が大きかったのは「言語」に関する部分です。
職場では文章を読む、文書を作る、人の説明を理解するなど、多くの場面で言語の処理が求められます。
ディスレクシア特性が高い人は、こうした場面で負担が大きくなりやすく、作業に時間がかかったり、意図した表現が浮かばなかったり、話を聞いても頭に留まりにくいといった経験につながりやすいと考えられます。

次に強い関係が見られたのは「記憶」です。
とくに、どの作業をどの順番で行うか、会話の内容、読み取った情報、細かい約束や合意した内容など、仕事の中では日常的に記憶が求められます。

ディスレクシア特性が高い人では、これらの情報を保持し続けることに負担を感じる傾向がありました。

また、「処理の速さ」や「名前を覚えること」にも関連が見られました。

名前を覚えることの難しさは、過去の研究でもディスレクシアと関連があるとされてきましたが、今回の研究でもその傾向は確認されています。
とくに仕事では、新しく出会う人の名前を覚える機会が多く、それがストレスとなる人も少なくありません。

一方で、「感情のコントロール」に関しては、ディスレクシア特性との関係はあるものの、それほど強いものではありませんでした。
ここには、メンタルヘルスやADHD特性など、他の要因も重なってくるためだと考えられます。

今回の研究で興味深いのは、ディスレクシア特性とADHD特性では、職場で困りやすい「認知の領域」が異なるという結果です。
ADHD特性は、計画性、注意の持続、感情の調整、作業を始める・終えるといった「実行機能」に強い影響を与えていました。
その一方で、言語の理解や表現については、ADHD特性よりもディスレクシア特性の方が関係が大きかったのです。

職場で誰かが困っているように見えると、「集中力の問題では?」と捉えられることが多いかもしれません。
しかし、実際には、言語や記憶に関するディスレクシアの特性が影響している場合もあるということです。
こうした違いが理解されないまま、個人の努力不足や能力の問題として扱われてしまうと、本人の負担はさらに大きくなってしまいます。

研究チームはまた、年齢と認知の負担との関係も分析しました。
結果として、年齢は全体的な認知の負担に弱いながらも関連があり、少しずつ認知面のつまずきが増える傾向がありました。
とはいえ、その影響は小さく、特定の認知領域に強い影響を与えるものではないことも示されました。

さらに注目される点として、英語が第一言語か第二言語かは、ほとんど影響を与えていませんでした。
これは、第二言語話者が抱える言語的ハードルが、今回のような「認知の負担」とは必ずしも一致しないということを示しています。
第二言語で働いているからといって、職場での認知面の困りやすさが大きくなるわけではないという結果は、多文化環境で働く人にとって安心できる内容とも言えます。

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研究の限界として、オンライン調査であるため、回答者が自己申告に頼っている点はあります。
しかし、信頼性の指標は過過去の研究と同程度であり、十分な信頼性を持っていると判断されています。
また、参加者の多くが高学歴で専門職に就いていたという点も特徴です。
これは、ディスレクシア特性があっても高度な職務に従事できる例が多いことを示す一方で、そうした人たちであっても認知の負担を感じる現実があるという大切な示唆を含んでいます。

研究チームは、今回の結果をもとに、職場でディスレクシア特性を持つ人を支える具体的な示唆を示しました。
まず、言語情報を中心とした作業にはとくに配慮することが重要です。
重要な説明は書面でも提供する、文章量の多い作業は余裕を持ったスケジュールにするなど、日常的な工夫によって負担は大きく軽減できます。

また、記憶の負担を減らす工夫も効果的です。
口頭で済ませる内容をメモやタスク管理ツールで可視化することは、ディスレクシア特性に限らず多くの人に役立つ方法です。
約束や依頼が明確に残るだけで、作業の安心感は大きく変わります。

今回の研究で使われた「職場での認知に関する質問紙」は、負担を感じやすい領域を整理するうえでとても役立ちます。
言語、記憶、実行機能、名前の記憶など、細かな項目ごとに負担の程度を把握できるため、働き方の調整や支援策を考える参考になります。

今回の研究の大きなメッセージは、職場での認知の困難は「本人の努力不足」ではなく、「認知の特性」から自然に生まれるものであるという事実です。特性として理解できることで、本人も周囲も自分を責めることから解放され、より現実的で優しい対応が可能になります。

ディスレクシア特性は読み書きの困難が中心ですが、職場ではそれ以上に広い範囲で影響を及ぼすことがあります。
言語、記憶、処理速度、作業の段取り、人の名前の記憶など、多様な領域で負担を感じやすいため、それぞれの働き方に合わせた支援が求められます。

研究チームは、こうした理解が広がれば、ディスレクシア特性を持つ人が自身の働き方に自信を持ち、強みを活かしながら働ける環境が広がると述べています。そのことは、本人にとっても職場全体にとっても大きな利益になります。

働く中で「うまくできない」と感じる背景にディスレクシア特性がある場合、その理解があるだけで心理的な負担は大きく変わります。
「違い」を知り、「違い」に合わせた働き方を整えることこそが、誰もが働きやすい環境づくりの基本です。
今回の研究は、そのための確かな根拠を示したと言えるでしょう。

(出典:Advances in Neurodevelopmental Disorders DOI: 10.1007/s41252-025-00471-z)(画像:たーとるうぃず)

ディスレクシア特性があっても高度な職務に従事できる例が多いことを示す一方で、そうした人たちであっても認知の負担を感じる現実がある

理解が広がれば、ディスレクシア特性を持つ人が自身の働き方に自信を持ち、強みを活かしながら働ける環境が広がる

活躍されることはその人だけでなく、その組織、そして社会にとって良いはずです。

自閉症・ADHDなど多様な特性の人が働きやすい職場とは?

(チャーリー)

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