この記事が含む Q&A
- 自閉症的特性が高いほど社交不安が高くなるのは、診断の有無にかかわらず一般集団にも見られる傾向ですか?
- はい。診断の有無にかかわらず、同様の関連が観察されました。
- 心の理論が低いほど社交不安が高くなるという関連は、どのような仕組みで仲介していると説明されていますか?
- 心の理論の低さが社交不安を間接的に高める仲介役を果たす可能性が示唆されています。
- 実践的には、相手の気持ちを理解する力を育てるにはどんな支援が有効と提案されていますか?
- 安心できる環境で相手の気持ちを一緒に考える練習や、誤解を言葉で整理する機会を積むことが推奨されています。
子どもや思春期の子どもを見ていると、「人付き合いが苦手そう」「人前になると極端に緊張する」「集団の中で居心地が悪そう」と感じる場面に出会うことがあります。
こうした様子は、必ずしも診断がつくレベルの自閉症や不安障害ではなくても、多くの家庭で日常的に見られるものかもしれません。
今回紹介する研究は、イタリアのパドヴァ大学発達・社会心理学部によって行われたもので、診断のない一般の子どもや思春期の子どもに見られる「自閉症的特性」と「社交不安(人前での不安)」の関係を調べ、そのあいだに「心の理論(Theory of Mind)」と「社会的適応行動」がどのように関わっているのかを検討しています。
この研究が扱っている「自閉症的特性」とは、自閉症の診断基準を満たすほどではないものの、考え方や行動の一部に自閉症に似た特徴が見られる状態を指します。
たとえば、視線が合いにくい、暗黙のルールがわかりにくい、こだわりが強い、感覚に敏感である、といった傾向です。
これらは連続的な特性であり、白か黒かではなく、誰もが程度の差こそあれ持っている可能性があると考えられています。
研究チームは、6歳から18歳までの子どもをもつイタリアの保護者300人にオンライン質問紙への回答を依頼しました。
対象となった子どもたちは、医学的または神経発達に関する診断を受けていない一般集団です。
保護者は、子どもの自閉症的特性、社交不安の程度、心の理論の能力、社会的適応行動について評価しました。
まず明らかになったのは、自閉症的特性が高いほど、社交不安も高いというはっきりした関連です。
つまり、診断の有無にかかわらず、自閉症的な特徴が強い子どもほど、人前での緊張や不安を感じやすい傾向がありました。
この結果は、「自閉症のある人は社交不安をもちやすい」という従来の知見と一致するだけでなく、診断がない子どもたちの中でも同じ構造が存在することを示しています。
困難は「診断がある人だけの問題」ではなく、もっと広い連続体の中で起きていることがうかがえます。

さらに研究者たちは、年齢や性別によってこの関係が変わるのかも検討しました。
その結果、自閉症的特性と社交不安の関係は、年齢や性別による大きな違いは見られませんでした。
男の子でも女の子でも、低年齢でも思春期でも、自閉症的特性が高いほど社交不安が高くなる傾向は共通していました。
次に注目されたのが「心の理論」です。
心の理論とは、「他人には自分とは異なる考え・気持ち・意図がある」と理解する力のことです。
たとえば、「あの子はこう言ったけど、本当はこう思っているかもしれない」と想像する力です。
研究では、自閉症的特性が高いほど、心の理論の得点が低い傾向が見られました。
また、心の理論が低いほど、社交不安は高くなるという関連も確認されました。
これらを組み合わせて分析した結果、心の理論が「仲介役」として働いていることが示されました。
つまり、自閉症的特性が高いと心の理論が低くなりやすく、そのことが社交不安の高さと部分的につながっている、という構造です。
興味深いのは、その解釈です。研究者たちは、自閉症的特性が高く心の理論が低い子どもは、他人の評価や視線をあまり強く意識しないため、かえって社交不安が強くなりにくい場合もある可能性を指摘しています。
一方で、自閉症的特性が比較的低く、心の理論が高い子どもは、周囲の気持ちや反応を敏感に察知できるがゆえに、「どう思われているだろう」「失敗したらどうしよう」と考えやすく、社交不安が高まりやすい可能性があります。
つまり、「相手の気持ちがよくわかること」は必ずしも楽になる方向に働くとは限らず、場合によっては不安を増やす要因にもなりうる、ということです。

もう一つ検討されたのが「社会的適応行動」です。
これは、友だちづきあい、余暇の過ごし方、集団の中での振る舞いなど、日常生活でどれだけうまく社会に適応できているかを示す指標です。
自閉症的特性が高いほど社会的適応行動は低く、社会的適応行動が低いほど社交不安が高いという関連は確認されました。
しかし、社会的適応行動は、自閉症的特性と社交不安の関係を「仲介する役割」は統計的に明確ではありませんでした。
つまり、行動面の適応よりも、「他人の心をどう理解しているか」という認知的な側面のほうが、社交不安との関係ではより重要な位置を占めている可能性が示唆されます。
これらの結果から見えてくるのは、次のような構図です。
自閉症的特性が高い子どもは、直接的にも社交不安を感じやすい傾向があります。
同時に、心の理論のあり方によって、その不安の出方が変わってくる可能性があります。
この研究は、「自閉症的特性がある=必ず不安が強くなる」という単純な話ではなく、そのあいだにある心の働きの層を丁寧に描き出しています。
実践的な示唆として、研究者たちは、臨床や教育の現場で「視点取得スキル(相手の立場に立って考える力)」を育てる支援の重要性を指摘しています。
ただし、ここで大切なのは、「無理に他人の気持ちを読ませる」ことではありません。

子どもが安心できる環境の中で、
・相手がどう感じているかを一緒に考える
・誤解が起きたときに言葉で整理する
・失敗しても大丈夫だと感じられる体験を積む
といった積み重ねが、結果的に不安の予防につながる可能性があります。
また、この研究は、診断がつかない子どもたちの中にも、支援のニーズが存在することを示しています。
「様子見」で終わらせるのではなく、困りごとがあれば早い段階でサポートにつなげることの重要性も浮かび上がります。
自閉症的特性は「欠陥」ではなく、人の多様性の一部です。
そして、その特性と社交不安の関係も、一方向的ではなく、複雑なバランスの上に成り立っています。
この研究は、「なぜあの子は人前がつらそうなのか」「なぜあの子はあまり気にしないのか」といった日常の疑問に、静かにヒントを与えてくれます。
理解が深まることは、ラベルを貼ることではなく、関わり方の選択肢を増やすことにつながります。
子ども一人ひとりの感じ方の違いに目を向けることが、安心できる社会への第一歩なのかもしれません。
(出典:Pediatric Research DOI: 10.1038/s41390-026-04791-1)(画像:たーとるうぃず)
「相手の気持ちがよくわかること」は必ずしも楽になる方向に働くとは限らず、場合によっては不安を増やす要因にもなりうる
たしかに、指摘の通りです。
繊細よりも「鈍感」なほうが生きやすいこともあります。
なので、今の時代、それは強みだととらえたほうが良いです。
(チャーリー)




























