
この記事が含む Q&A
- 自閉症の若者が就職を始めるとき、最も大きな壁は何ですか?
- サービスの崖や就職面接の困難、職場支援の不足、偏見・差別などが挙げられます。
- 自閉症の若者と自閉症でない若者の初職の分布にはどんな違いがありますか?
- 自閉症は初職の52%が小売で偏り、非自閉症は小売14%、飲食21%、教育14%、科学・芸術・メディア等のキャリア志向職が12%ずつ広く分布します。
- 長期的な就職を実現するために有効な支援は何ですか?
- 実行機能の支援と高等教育・職業訓練の機会拡大、支援付き雇用や家族・周囲のネットワーク活用が鍵になります。
自閉症の若者が社会に出て働き始めるとき、そこには多くの壁があります。
高等教育を終えて専門的な職業に就くこと、地域社会で成熟した人間関係を築くこと、安定した雇用を得ること——これらは多くの若者が目指す典型的な大人の目標ですが、自閉症の若者にとっては、移行期に必要な支援サービスが途切れる「サービスの崖」、就職面接での困難、職場での適切な支援不足、誤解や偏見、差別など、独自の障害が重なります。
米国では、自閉症の成人の就業率は過去10年間でほとんど改善していません。
地域や条件によって差はあるものの、雇用率は15〜23%にとどまり、カリフォルニア州では発達障害のある成人の雇用率は13.8%という報告もあります。
就労は収入だけでなく、社会的つながり、自己成長、目的意識を得る重要な機会です。
それだけに、自閉症の人が安定して働けないことは、生活全体の満足度や健康にも影響を及ぼします。
今回の研究は、カリフォルニア州の18〜23歳の自閉症の人51人と自閉症でない人48人(いずれもIQ70以上)の初期就労経験を比較し、どのような職種で、どのようにして仕事を得て、どんな支援を受け、どのような要因が雇用に関係しているのかを調べました。
その結果、18〜23歳の時点で何らかの仕事を経験していたのは、自閉症の人たちでは67%、自閉症でない人たちでは86%でした。
さらに無給の就労(インターンやWorkAbility Iプログラムでの経験)を除くと、自閉症の人たちは50%、自閉症でない人たちは78%となり、その差はさらに広がりました。
初めての仕事に就いた平均年齢は、自閉症の人たち19.4歳、自閉症でない人たち19.9歳で大きな差はありませんが、無給の経験を除くと、自閉症の人たちは19.7歳とやや遅くなる傾向がありました。
職種の分布には顕著な差がありました。
自閉症の人たちでは初めての仕事が小売業(主にスーパーでの棚卸しや袋詰め)が52%と過半数を占めました。
一方、自閉症でない人たちは小売業は14%にとどまり、飲食業21%、教育14%、科学・芸術・メディアなどのキャリア志向職種が12%ずつ含まれるなど、多様な分野に広がっていました。
職場環境では、両群とも多くが「完全にインクルーシブ」な環境(障害の有無にかかわらず働く場)でしたが、自閉症の人たちでは支援を受けて働く割合が高く、独立して働いたのは77%でした。
残りはグループ就労クラス(7%)、ジョブコーチ(13%)、上司からの直接支援(3%)などを利用していました。
自閉症でない人たちでは100%が独立して働いており、支援を受けた人はいませんでした。
週の勤務時間に大きな有意差はありませんが、自閉症の人たちは短時間勤務の傾向が強く、32%が週10時間未満、フルタイム(40時間以上)は3%にとどまりました。
自閉症でない人たちではフルタイム勤務は17%でした。
勤務期間については、自閉症の人たちでは2〜3か月で終わる仕事が33%と多く、1年以上続いたのは23%でした。
自閉症でない人たちでは1年以上続いた人が35%でした。
仕事の得方にも大きな違いがありました。
自閉症でない人たちの95%が競争的採用(一般の求人応募)で仕事を得たのに対し、自閉症の人たちでは48%にとどまりました。
自閉症の人たちはWorkAbility Iプログラム経由(26%)や支援付き雇用サービス(16%)の利用が多く、また個人的なつながり(家族や友人)を通じて就職した人も10%いました。
WorkAbility I(ワークアビリティ・ワン)プログラムは、カリフォルニア州教育局が1982年に開始した、特別支援教育を受ける高校生向けの就労支援制度です。
高校在学中に履歴書作成や面接練習、職業スキルの訓練、一般の労働者と同じ職場での就労体験、ジョブコーチによる現場支援などを提供し、学校から職場への移行を助けます。
ただし基本的には在学中の短期的支援であり、卒業後の長期的な雇用確保までは含まれないため、本研究でも修了後に継続的な雇用につながらなかった例が多く見られました。
この研究では、州の雇用支援サービスの利用状況も調べられました。
自閉症の人たちのうちWorkAbility Iプログラムを利用した人は7人でしたが、修了後に継続的な就職につながったケースはありませんでした。
また、カリフォルニア州で発達障害などのある人に生活支援や就労支援を行う公的機関である地域センター(Regional Center)のサービスを受けた人は10人、就職や職場定着を支援する州のリハビリテーション局(Department of Rehabilitation, DoR)のサービスを受けた人は8人で、その両方を利用したのは8人でしたが、そのうち5人だけがこれらのサービスを使ってWorkAbility I以外の経路で仕事を得ていました。なお、アメリカの低所得・障害者向け所得補助制度であるSSI(Supplemental Security Income)の受給者は2人のみでした。
雇用に関連する要因を分析するために、IQ、適応機能、実行機能などを含む回帰分析が行われましたが、無給も含めた就労経験の有無を予測するモデルでは、これらの要因は有意な予測力を示しませんでした。
しかし、無給を除いた競争的統合雇用のみを対象にした分析では、実行機能の困難さが強いほど雇用の可能性が低く、逆に高等教育を受けているほど雇用の可能性が高いという結果が得られました。
適応機能も一部のモデルで有意な予測因子となり、スキルが高いほど雇用の可能性が高まりましたが、教育水準を加えた場合は有意差が弱まりました。
実行機能の困難は、計画性、柔軟性、自己管理、問題解決など職場で必要な多くのスキルに影響し、タスクの開始や順序立て、変化への対応に支障をきたす可能性があります。
これらは職務の遂行や長期的な雇用継続に直結するため、実行機能を高める支援や訓練は重要であると考えられます。
一方で、今回の研究では言語性IQや適応機能の高さは必ずしも雇用の有無と強く結びつかず、これまでの一部研究結果と異なる傾向も見られました。
また、個人的なつながりによる就職は自閉症の人たちでも自閉症でない人たちでも有効で、とくに自閉症の人たちでは家族や友人などのネットワークが重要な役割を果たしていました。
これは他の研究でも同様の傾向が示されており、若者の就職支援には家族や周囲の人々の関与を積極的に取り入れることが有効である可能性があります。
全体として、この研究は、自閉症の若者が競争的かつキャリア志向の職を得る機会が限られている現状と、その背景にある採用経路や職種の偏り、支援の不足、実行機能の課題を明らかにしました。
支援策としては、実行機能に対する直接的な介入、高等教育や職業訓練の機会拡大、支援付き雇用やインターンシップだけでなく長期的な雇用につながる制度整備、そして家族や社会的ネットワークの活用が挙げられます。
こうした取り組みによって、自閉症の若者が自分の能力と希望に合った職業に就き、安定して働き続けられる可能性が高まると考えられます。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07001-9)(画像、図:たーとるうぃず)
それぞの人がもつ特性がより正しく理解され、その特性が生きる領域でもっと採用されれば、企業にとっても社会にとっても喜ばしいことになります。
そうなることを願っています。
(チャーリー)