
この記事が含む Q&A
- 自閉症があると自傷で救急外来を受診する確率はどのくらい高くなりますか?
- 自閉症のみでは約1.6倍、ADHDや知的障害のみでは約2.9倍、自閉症とADHDまたは知的障害の両方を持つ場合は約2.7倍で、全体の自傷受診は約1.6%です。
- 自傷の主な原因となる薬物は何ですか?
- 自閉症のある人では精神作用薬による中毒が最も多く、20.8%、抗てんかん薬・睡眠薬が16.2%、その他の全身用薬が16.5%で、違法薬物は少ないです。
- 自傷予防のために家庭や地域でできる具体的な支援は何ですか?
- 子ども・若者には家族の安全計画と危険な手段へのアクセス制限が有効で、成人・高齢者では受診の背景や支援不足を詳しく把握することが重要です。
自閉症は、社会的なコミュニケーションややり取りにおける持続的な違いや難しさ、そして限定的で反復的な行動や興味を特徴とする発達障害です。
近年、アメリカ合衆国では自閉症の報告数が過去20年間で3倍に増えています。
そして、自閉症のある人は一般の人よりもけがや早期の死亡が多く、その中でも自分を傷つける行為が大きな問題とされています。
自傷行為や自殺を考えることは、自閉症のある人にとくによく見られることが、これまでの研究で示されてきました。
今回の研究では、アメリカ全体の救急外来の記録を使って、自閉症と「意図的に自分を傷つける行為」(自殺を試みる場合も含む)との関係を調べました。
また、注意欠如・多動症(ADHD)や知的障害(ID)といった併せ持つ診断の有無による違いも分析しました。
調査には、2016年から2020年までの「全米救急外来サンプル(NEDS)」という、国内最大規模の救急外来データが使われました。
毎年約2,800万件の受診記録があり、全国の傾向を推計できます。
診断や原因はICD-10-CMという国際的なコードで特定しました。
自閉症はF84.0、ADHDはF90.9、知的障害はF70–F73のコードで判定し、自傷はX60–X84のコードで判断しました。
1歳未満の乳児は診断の正確さの問題から対象外としました。
5年間で記録された救急外来受診は約1億6千万件。そのうち約257万件(全体の1.6%)が自傷によるものでした。
全国推計では、5年間で約1,094万件、年間あたり人口1,000人に6.6件の自傷受診があったことになります。
自閉症のある人では、受診のうち2.3%が自傷によるもので、ADHDのある人では3.9%、知的障害のある人では3.3%でした。
自閉症やADHD、知的障害のない人では1.6%でした。
年齢や性別、地域などをそろえて比べると、
- 自閉症だけを持つ人は、自閉症などがない人と比べて、自傷で救急外来を受診する確率が約1.6倍
- ADHDや知的障害だけを持つ人では約2.9倍
- 自閉症とADHDまたは知的障害の両方を持つ人では約2.7倍
でした。
興味深いことに、自閉症とADHDや知的障害の両方を持つ人は、ADHDや知的障害だけの人よりは確率が低くなっていました。
これは、重い併存症がある人ほど周囲からの見守りやサポートが多く、自立の機会が少ないことが関係している可能性があります。
年齢ごとの傾向を見ると、自閉症のある人では5歳から10代にかけて自傷の割合が増え、その後は高齢期までほぼ3%前後で推移していました。
一方、自閉症のない人では15〜19歳と65歳以上でピークがありました。
自傷の方法では、自閉症の有無にかかわらず「薬物などによる中毒」が最も多く、自閉症のない人では82.3%、自閉症のある人では61.0%を占めていました。
ただし、自閉症のある人では、精神に作用する薬(20.8%)、その他の全身用薬(16.5%)、抗てんかん薬や睡眠薬(16.2%)が原因となるケースが多く、違法薬物によるケースは少なめでした。
これは、自閉症のある人がこうした薬を処方される割合が高いことや、違法薬物を使うリスクが低いことと一致します。
中毒以外の方法では、自閉症のある人は切り傷・刺し傷(13.2%)、銃によるけが(8.1%)、交通関連(6.1%)の割合が高くなっていました。
交通関連には車道に飛び出すなどが含まれます。
こうした傾向は、自閉症と非自殺性の自傷行為との関連や、安全装置への抵抗といった特性が影響している可能性があります。
救急外来での対応を見ると、自閉症のある人は自宅に帰される割合が高く、入院や転院の割合が低い傾向にありました。
全体としては、54.1%が入院または転院、44.6%が帰宅、0.1%が死亡していました。
この研究にはいくつかの限界もあります。
NEDSは医療を受けた自傷のみを記録しているため、病院に行かない自傷行為(頭を打ちつける、噛むなど)は含まれません。
また、言葉で説明できない人では行為の意図を特定するのが難しく、診断の記録漏れや間違いも起こり得ます。
さらに、人種・民族データは2019年以降しかないため、分析は限定的でした。
それでも、この全国規模の研究は、自閉症のある人における自傷行為の特徴や傾向を明らかにしました。
とくに、精神作用薬や抗てんかん薬による中毒の多さ、切創や銃器、交通関連の割合の高さは、予防策を考えるうえで重要です。
今後は、年齢ごとの自傷のタイプや背景をさらに明らかにし、それぞれに合った予防策を講じることが求められます。
子どもや若者の場合は、家族への安全計画の提供や、危険な手段へのアクセスを制限する取り組みが有効かもしれません。
成人や高齢者についても、受診のきっかけや背景、支援の不足などを詳しく調べる必要があります。
この研究は、自閉症における自傷行為のリスクが、併存症、年齢、薬の利用状況、生活環境など、多くの要因が組み合わさって生じていることを示しています。
予防と対応には、こうした複数の要素を踏まえた個別的な支援が欠かせないといえます。
(出典:Injury Epidemiology DOI: 10.1186/s40621-025-00591-z)(画像、図:たーとるうぃず)
まず、これは米国の救急外来の記録からの分析です。
自閉症の方では、処方されることが多い、精神に作用する薬による中毒などが多いとのこと。
「自閉症とADHDや知的障害の両方を持つ人は、ADHDや知的障害だけの人よりは確率が低い、これは、重い併存症がある人ほど周囲からの見守りやサポートが多いから」
重くなくても、こうしたリスクがあるので、適切な見守りやサポートが重要です。
(チャーリー)