この記事が含む Q&A
- 自閉症やADHDの子どもと教室の感覚刺激にはどのような関係があるのですか?
- 聴覚処理の困難さが読み書きや算数に影響することがあり、音の情報処理の難しさが学習の妨げとなり得ます。
- 教室での音の多さや雑音を減らす工夫は、どの子にとって特に有効ですか?
- 静かな学習環境と書かれた指示・視覚的手がかりの併用が、感覚処理の困難を抱える子の学習機会を広げる可能性があります。
- 感覚評価を学習支援にどう活かすことができますか?
- 聴覚処理検査を含めた評価で背景要因を特定し、個別の支援計画の決定に役立てられます。
教室での学びは、黒板やプリントだけで成り立っているわけではありません。
チャイムの音、まわりの話し声、イスを引く音、蛍光灯の光、掲示物の色合いなど、さまざまな感覚の刺激に囲まれています。
多くの子どもにとっては気にならないこれらの刺激が、ある子どもたちにとっては、学びそのものを難しくしてしまうことがあります。
自閉症やADHDの子どもでは、感覚の受け取り方や処理のしかたに特徴が見られることが知られています。
感覚の困難さは診断基準にも含まれていますが、日常生活や学校生活にどのような影響を与えているのかについては、まだ十分に整理されていません。
とくに「どの感覚」が「どの学習」と関係しているのかを、直接的な学力テストを使って調べた研究は多くありませんでした。
今回紹介する研究は、イギリスのオックスフォード大学心理学部を中心に、アメリカの複数の大学・研究機関が共同で行ったものです。
この研究では、自閉症の子ども、ADHDの子ども、そして定型発達の子どもを対象に、感覚の処理のしかたと、読み書きや算数といった学業成績との関係を、できるだけ丁寧に調べています。
研究に参加したのは、10歳から18歳までの子どもたちです。
自閉症の子どもが74人、そのうち22人はADHDも併せ持っていました。
ADHDのみの子どもが34人、定型発達の子どもが40人です。
いずれの子どもも、知的発達に大きな遅れはなく、一般的な学習課題に取り組めることが条件とされています。

この研究の特徴のひとつは、感覚の評価方法です。
保護者による質問紙を用いて、音、視覚、触覚といった感覚について、日常生活でどの程度困りごとがあるかを評価しました。
それに加えて、「聴覚処理」については、実際に音を聞いて反応する検査も行われています。
周囲の雑音の中で言葉を聞き取る課題や、左右の耳から同時に聞こえる言葉を処理する課題など、教室の環境に近い状況を想定した検査です。
さらに、読みの正確さや速さ、文章の理解力、算数の計算や文章問題といった、標準化された学力検査も実施されました。
これにより、「感覚の困難さ」と「実際の学業成績」との関係を、直接的に比べることが可能になっています。
まず明らかになったのは、感覚の困難さそのものについてです。
保護者の評価では、自閉症の子どもとADHDの子どもは、ともに定型発達の子どもよりも、音や視覚に関する困難が多いと報告されていました。
触覚については、自閉症の子どもでとくに困難が大きい傾向が見られました。
一方で、ADHDの子どもと定型発達の子どもでは、触覚の困難さに大きな差はありませんでした。

直接測定された聴覚処理の検査でも、自閉症とADHDの子どもは、定型発達の子どもより成績が低い傾向を示しました。
ただし、平均的な範囲には収まっており、「できない」というよりも、「処理に負荷がかかりやすい」状態であることが示唆されています。
次に注目されたのが、感覚と学業成績の関係です。
自閉症の子どもでは、音に関する困難さが、読む速さや文章理解と関係していました。
とくに、雑音の中で言葉を聞き分ける力や、左右の耳から入る情報を整理する力が高いほど、読みの成績も良い傾向が見られました。
保護者が感じている「音への困りごと」も、読みの成績と弱から中程度の関連を示していました。
算数についても、聴覚処理の力が関係していました。
文章問題を理解して解く力は、音声情報を正確に処理する力と結びついていたのです。
一方で、視覚や触覚に関する困難さは、学業成績との明確な関連を示しませんでした。
ADHDの子どもでは、少し異なるパターンが見られました。
保護者による感覚の評価は、学業成績とはほとんど関係していませんでした。
しかし、直接測定された聴覚処理の検査では、読みや算数の成績と強い関連が見られました。
とくに、複数の音声情報を同時に処理する課題は、読みの理解や算数の成績と深く結びついていました。
定型発達の子どもでは、感覚の評価と学業成績の間に、はっきりとした関連は見られませんでした。
これは、一般的な範囲内では、感覚の違いが学業に大きな影響を与えにくいことを示しています。
この研究では、知能指数の影響も統計的に調整されています。
それでもなお、聴覚処理の力が学業成績に独自に関係していることが示されました。
つまり、「知的な力」だけでは説明できない形で、「音の処理のしかた」が学びに影響している可能性が示されたのです。
研究者たちは、これらの結果から、教室環境の重要性を指摘しています。
口頭での指示が多い授業、雑音の多い教室、突然の大きな音などは、自閉症やADHDの子どもにとって、学びの妨げになりやすいと考えられます。
書かれた指示や視覚的な手がかりを併用すること、静かな学習環境を整えることが、学習機会を広げる可能性があります。

また、学習の困難さを評価する際に、聴覚処理の検査を取り入れることの重要性も示されています。
同じ「成績の低さ」であっても、その背景にある要因が異なれば、必要な支援も変わってきます。
音の処理に負荷がかかっている子どもには、それに応じた支援が必要です。
一方で、この研究には限界もあります。参加者は主に白人で、知的障害のない子どもが中心でした。
また、自閉症とADHDの両方を併せ持つ子どもについては、十分な人数で詳しく分析することができていません。
今後は、より多様な背景をもつ子どもたちを対象にした研究が求められます。
それでも、この研究は、「学びにくさ」を行動や努力の問題としてではなく、「環境と感覚の相互作用」として捉える視点を、具体的なデータとともに示しています。
教室での音のあり方が、読むことや考えることにどのように影響しているのか。
その問いは、子どもたち一人ひとりの学びを支えるための、大切な手がかりを与えてくれます。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07185-0)(画像:たーとるうぃず)
困難が具体的に理解できれば、具体的な対策が行えます。
少しでもすごしやすい教室、学校になることを願っています。
「ふつう」になれない私、ADHD女子高生の学校での闘い。研究
(チャーリー)





























