
この記事が含む Q&A
- 思春期の自閉症の子どもに運動は心の健康に効果があると考えられる?
- 運動量が多いほど不安や抑うつが少ない傾向があり、友情と心の扱い方の力が橋渡しになると報告されています。
- どんな運動が特に効果的とされているのですか?
- 競技スポーツの激しい運動よりも、「誰かと一緒に取り組む体験」であることが重要とされています。
- 学校や支援の現場での具体的な取り組みは何ですか?
- 学校の体育や放課後プログラムで友だちと協力する機会を意識的に作ることで、安心感と自己調整力を育て心の健康を支えると提案されています。
思春期を迎えた自閉症の子どもたちにとって、心の健康を保つことはとても大切です。
学校生活が複雑になり、友だちづきあいも難しくなるこの時期に、不安や気持ちの落ち込みをどう支えていくかは、多くの保護者が直面する大きな課題です。
今回、中国・河南大学の研究チームが、河南省の特殊教育学校に通う自閉症の子どもたちを対象に調査した研究は、そのヒントを示してくれました。
研究のテーマは「運動」です。
けれど、ただ身体を動かすだけではなく、運動を通じて生まれる「友情」や「気持ちを調整する力」が、心の健康にどう影響するのかを探ったものです。
研究に参加したのは、中国河南省の特殊教育学校に通う自閉症の子どもたち436人。
平均年齢は12歳前後で、男子が多く含まれていました。研究チームは、子どもたちにアンケート形式で次のようなことを答えてもらいました。
- ふだんどのくらい運動をしているか
- 不安や気分の落ち込み、人間関係での悩みがどのくらいあるか
- スポーツや運動を通じた友だち関係の質(どれだけ信頼や支え合いがあるか)
気持ちをコントロールし、人とうまく関われる力(これを研究では「ソーシャル・エモーショナル・コンピテンス」と呼びます。
長い言葉ですが、簡単にいえば「心の扱い方と人づきあいの力」です)
この調査をもとに、運動と心の健康の関係を統計的に分析しました。
すると、はっきりした結果が見えてきました。
まず、よく運動をしている子どもほど、不安や気持ちの落ち込みが少ないという傾向が確認されました。
運動の量と心の悩みの多さの間には、強い「逆の関係」があったのです。
たとえば、運動をするほど気分が落ち込みにくい、といった具合です。
次に明らかになったのは、「友情」と「心の扱い方の力」が、運動と心の健康をつなぐ大切な橋渡しをしているということです。
研究チームが特に注目したのは次の流れです。
- 子どもが運動に参加する
- 運動を通じて友だちとの関係が良くなる
- その経験が「気持ちを調整する力」を育てる
- その結果、不安や気持ちの落ち込みが和らぐ
つまり、運動そのものが直接心を軽くするというよりも、運動が「友だちとの関係」と「心の扱い方」を育て、その積み重ねが心を守っているのです。
具体的にデータを見ると、運動と友情の質は強く関係しており、友情の質が高いほど「心の扱い方の力」も高くなっていました。
そして、この二つを通じて、運動が不安や抑うつの軽減に大きな影響を与えていることが分かりました。
研究チームによれば、運動が心の健康に及ぼす効果の半分以上(53%)が、この「友情」と「心の扱い方の力」という間接的な道筋で説明できるといいます。
この結果は、保護者にとっても大きな意味を持ちます。
運動といっても、必ずしも競技スポーツのように激しい活動を指すわけではありません。
大事なのは「誰かと一緒に取り組む体験」です。
友だちと一緒に体を動かし、支え合いながら活動することで、子どもは自然に安心感や自己調整の力を身につけていきます。
その積み重ねが、心の落ち込みを防ぐ大きな力になるのです。
研究にはいくつかの制約もあります。
調査は一時点でのアンケートに基づくものであり、因果関係を断定できるわけではありません。
つまり、「運動が心を良くする」とはっきり言い切ることはできず、「心の元気な子どもが運動に参加しやすい」という可能性も残されています。
また、回答は子ども自身によるもので、主観的な影響も考えられます。
さらに、どんな運動が特に効果的なのかまでは分かりませんでした。
それでも、この研究が示した「運動―友情―心の扱い方―心の健康」という流れは、支援の現場にとって大きな手がかりです。
学校の体育やクラブ活動、放課後のプログラムなどで、ただ体を動かすだけでなく「友だちと協力する機会」を意識的に設けること。
その中で子どもが安心感や自信を得て、感情の調整や人間関係のスキルを少しずつ育てていくこと。
そうした工夫が、思春期の自閉症の子どもたちの心を守る具体的な方法になりうるのです。
(出典:Frontiers DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1626831)(画像:たーとるうぃず)
「運動―友情―心の扱い方―心の健康」
これは、たしかにあるでしょう。当たり前と言えば当たり前。
そして、きっとそれは「運動」だけではないように思います。
うまくそうした機会を活かしていきたいですね。
(チャーリー)