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自閉症の若者に見られる友情の課題と心の理論の重要な役割

time 2025/09/26

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自閉症の若者に見られる友情の課題と心の理論の重要な役割

この記事が含む Q&A

自閉症の若者の友だち関係の質を左右する要因は何ですか?
心の理論とソーシャルスキルの結びつきを高めることが重要で、それを日常の場面へどう活かすかを練習する支援が有効です。
自閉症と非自閉の若者では友だち関係のメカニズムにどんな違いがありますか?
自閉症では心の理論→ソーシャルスキル→友だち関係の質という間接的な経路が重要で、非自閉では問題行動が関係性に影響する点が顕著です。
支援のポイントはどうあるべきですか?
心の理論を鍛えるだけでなく、それをソーシャルスキルに転換する訓練を組み合わせ、ロールプレイ等で具体的な場面に結びつける教育・家庭の実践が重要です。

自閉症の若者が思春期から大人への入り口にさしかかるとき、多くの人にとって大きな課題となるのが「友だちとの関係」です。
友だちは一緒に過ごす時間を楽しくするだけでなく、精神的な安心感や自己肯定感を支える存在でもあります。

では、自閉症の若者にとって、友だちとの関係の質を左右する要因とは何でしょうか。

香港大学の心理学部による最新の研究は、この問いに答えるために、自閉症の若者と非自閉の若者を比べ、心の理論やソーシャルスキル、問題行動がどのように関わるのかを丁寧に調べました。

ここで言う「心の理論」とは、他人の心の中を想像する力のことです。
たとえば「友だちが怒っているのは、自分の言葉に傷ついたからかもしれない」「相手が今黙っているのは、恥ずかしいからかもしれない」といったように、表面の行動の裏にある気持ちや考えを推測する力を指します。
人は日常生活で自然にこの力を使って相手の立場に立ち、会話を調整したり、気遣いをしたりしています。
つまり「心の理論」は、円滑な人間関係の基盤となる力なのです。

研究に参加したのは、自閉症の若者104名(平均年齢18.6歳)と、非自閉の若者192名(平均年齢16.7歳)です。
参加者は香港や中国本土の広州、深圳、仏山、珠海の中学、高校、大学、そして特別支援学校から集められました。
すべての自閉症群の参加者は、専門家による正式な診断を受けており、さらに自閉スペクトラム指数(AQ)でも30点以上を示しました。

研究では、本人が「友だち関係の質」について自己評価し、保護者がソーシャルスキルや問題行動を評価しました。
また、研究者は実験課題を通じて、心の理論を直接測定しました。
ここで使われた課題は、「皮肉」や「嘘」、他者の複雑な信念を理解することが求められる高度なテストで、日常生活で求められる“心の読み取り”の力を評価するものでした。

この研究で用いられた「友だち関係の質」は、5つの要素に分けられました。

「一緒に過ごす楽しさ(コンパニオンシップ)」
「助け合い(ヘルプ)」「安心感(セキュリティ)」
「心理的な近さ(クロースネス)」
「けんか・対立(コンフリクト)」

です。
これらは、親しい友人関係をどのように感じているかを示す大切な指標となります。

分析の結果、自閉症の若者は非自閉の若者に比べて、「一緒に過ごす楽しさ」「助け合い」「安心感」「心理的な近さ」が低く、「けんか・対立」は多いと答える傾向が見られました。

心の理論の課題でも成績が低めであり、保護者による評価では、コミュニケーションや協力、共感、自己コントロールといったソーシャルスキルが弱いとされ、同時に多動や不注意、内在化問題などの行動の困難も多く見られました。

しかしここで重要なのは、知能や基本的なコミュニケーション力の差を統計的に取り除いても、この結果が変わらなかったことです。
つまり、自閉症の若者における友だち関係の難しさは、単に「言語能力が低いから」という理由では説明できないことが確認されました。

さらに研究チームは、統計的なモデル(構造方程式モデリング)を用いて、心の理論、ソーシャルスキル、問題行動、友だち関係の間にある複雑なつながりを分析しました。

その結果、心の理論は両群においてソーシャルスキルを高める効果を持っていましたが、その影響は自閉症群で特に強く表れました。
つまり、自閉症の若者にとって、心の理論の力が高いほどソーシャルスキルが伸びやすい傾向があったのです。

そして、自閉症群では「心の理論→ソーシャルスキル→友だち関係の質」という間接的なつながりが見つかりました。

心の理論が直接的に友だち関係の質を改善するのではなく、ソーシャルスキルを通じて間接的に良い影響を与えていたのです。
一方で、非自閉群では「問題行動→友だち関係の質」への負の影響が顕著であり、心の理論の効果は限定的でした。

この違いは非常に示唆的です。
自閉症の若者にとって、心の理論そのものを伸ばすことも大事ですが、それ以上に重要なのは「その力を日常のソーシャルスキルにどうつなげるか」という点です。

たとえば、相手の気持ちを推測できても、それを会話や行動に結びつけられなければ、友だち関係は深まりにくいかもしれません。
逆に、ソーシャルスキルを練習する中で「こういうときは相手がこう思っているのかもしれない」と気づく機会が増えれば、心の理論の力も実生活に生かされやすくなるでしょう。

研究はまた、非自閉の若者では、問題行動が友だち関係に強く影響することを示しました。
攻撃的なふるまいや不注意といった行動は、他者からの受け入れを難しくし、関係を悪化させる要因になります。

これは、ソーシャルスキルが十分にあっても、行動面での困難があると友だち関係の質は下がることを意味しています。

この研究の意義は、自閉症と非自閉の若者で、友だち関係を形づくる「メカニズム」が異なることを明らかにした点にあります。
自閉症の若者にとっては、心の理論とソーシャルスキルの結びつきを強めることが重要であり、非自閉の若者にとっては、問題行動の抑制が関係の維持に直結します。

香港大学の研究チームは、この知見をもとに、自閉症の若者を対象にした支援では、心の理論を単に鍛えるだけでなく、それをソーシャルスキルに転化させるトレーニングを組み合わせることが有効だと強調しています。

具体的には、ロールプレイや場面を想定した練習を通じて、「相手の気持ちをどう行動に結びつけるか」を体験できるようにすることです。
また、学校や家庭での支援においても、単なる知識の習得ではなく、実際の行動に橋渡しする工夫が求められます。

友だちとの関係は、若者の精神的な健康や社会的な適応に大きな影響を与えます。
孤独感の減少、抑うつの軽減、仲間からの受け入れ、自己肯定感の向上など、多くのプラスの効果がこれまでの研究でも示されています。
この研究は、自閉症の若者がそうした恩恵を受けられるようにするために、支援の焦点をどこに置くべきかを明らかにしたと言えます。

つまり、「心の理論を伸ばす」ことはゴールではなくスタート地点です。
その力をどうソーシャルスキルに結びつけ、友だち関係をより良くするのかが、今後の教育や支援の大きな課題となります。
そして、非自閉の若者においても、問題行動へのサポートが友人関係の質を保つために欠かせないことが強調されました。

この研究は、友だち関係の形成が自閉症と非自閉の若者でどのように異なるかを解き明かし、どのような支援が効果的であるかを考える上で貴重な指針を示しています。
学校現場や家庭での配慮に直結する知見であり、自閉症の若者の社会的な成長を支えるための新しい視点を提供しています。

(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders Article DOI: 10.1007/s10803-025-07039-9)(画像:たーとるうぃず)

友だちはいるといい。

だけれども、べつに友達がいなくても大丈夫。

私は、そう思ってほしいと思います。それが自立だと思います。

本当に友だちと思える人は、人生においてそんなにたくさんいないと思います。

顔見知りはたくさんいても。

結局は「愛と勇気だけが友だち」という覚悟が自分を守り、「友だちはいないといけない」強迫観念で作った関係でない、本当の友だちとつながることにもなります。

運動が思春期の自閉症の子を守る。友情と気持ちを整える力

(チャーリー)


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