この記事が含む Q&A
- 先延ばしと首尾一貫感覚の関係はどう説明されるのですか?
- 自己効力感を介して影響がつながる可能性が示され、先延ばしが強いと自己効力感や首尾一貫感覚が低くなるとされます。
- この研究にはどんな限界がありますか?
- オンライン調査で診断が自己申告、因果関係を直接示せない点などが挙げられます。
- ADHDの支援で具体的に何をすべきと示唆されていますか?
- 自己効力感を高める介入が、先延ばしの悪影響を和らげる可能性があると示唆されています。
大人になってからADHDと診断された人の多くが、「やらなければいけないと分かっているのに、なぜか始められない」「先延ばしが続いて、自分を信じられなくなる」という感覚を抱えています。
そうした日常的な苦しさを、性格や努力不足としてではなく、心理的な仕組みの関係性として丁寧に捉え直した研究が行われました。
研究を行ったのは、ポーランドのシュチェチン大学 心理学研究所です。
対象となったのは、18歳から56歳までのADHDと診断された成人180人でした。
この研究は、ある一時点で参加者に質問紙へ回答してもらい、その結果を分析する質問紙調査による横断研究という方法で行われています。
つまり、時間の経過による変化を追う研究ではなく、「今、この人たちはどのような状態にあるのか」を切り取って、その関係を調べる研究です。
参加者は、病院などを通じてではなく、ADHDの当事者向けオンラインコミュニティや支援グループを通して募集されました。
調査の最初に、「専門家によってADHDと診断されたことがあるか」が確認され、「はい」と答えた人だけが調査に進める仕組みになっていました。
診断書などの提出は求められておらず、診断は自己申告であることが、研究の限界として論文内でも明示されています。

調査はすべてオンラインで行われ、参加者は年齢や性別などの基本情報に加えて、三つの心理尺度に回答しました。
- 「先延ばし」の傾向を測る質問紙
これは、やるべきことをどの程度後回しにしてしまうかを尋ねるもので、決断の先延ばし、行動の先延ばし、生活に支障をきたす先延ばしといった側面も含めて測定されました。 - 「首尾一貫感覚」を測る質問紙
首尾一貫感覚とは、人生や出来事を「理解できる」「対処できる」「意味がある」と感じられるかどうかを表す感覚です。
これは、ストレスの多い状況でも心の健康を保つための、重要な心理的資源とされています。 - 「自己効力感」を測る質問紙
自己効力感とは、「自分は必要な行動をうまく実行できる」「困難があっても対処できる」という感覚のことです。
能力そのものではなく、自分自身への信頼感に近いものだと考えられています。
研究者たちは、これら三つの指標のあいだに、どのような関係があるのかを統計的に調べました。
まず、先延ばしが強い人ほど首尾一貫感覚が低いのか、先延ばしが強い人ほど自己効力感が低いのか、といった単純な関連を確認しています。
そのうえで、この研究の中心となる問いが検討されました。
それは、
自己効力感が、先延ばしと首尾一貫感覚の関係を「つなぐ役割」を果たしているのかどうか
という点です。
この検討には、媒介分析と呼ばれる統計手法が用いられました。
これは、「先延ばしが直接、人生観に影響しているのか」、それとも「先延ばしによって自己効力感が下がり、その結果として人生観が揺らぐのか」を切り分けて考えるための分析方法です。

分析の結果、
- 先延ばしが強い人ほど、自己効力感が低く、首尾一貫感覚も低い傾向
が確認されました。
そして重要なことに、自己効力感を考慮に入れると、先延ばしと首尾一貫感覚の直接的な関係は弱まりました。
つまり、先延ばしによる影響の一部は、「自分にはできるという感覚」が弱まることを通じて、人生を理解し、対処し、意味づける力に影響していることが示されたのです。
統計的には、先延ばしと首尾一貫感覚の関係のおよそ4割が、自己効力感によって説明されていました。
これは、自己効力感が単なる付随的な要素ではなく、重要な心理的な結節点になっていることを意味します。
この研究は、ADHDのある人が感じやすい苦しさを、「意志が弱いから」「性格の問題だから」と切り捨てません。
先延ばしという行動の背景にある心理的な連鎖を明らかにし、その中で、自己効力感という比較的支援しやすい要素が、人生全体の見通しを支えている可能性を示しています。

首尾一貫感覚は、人生経験の積み重ねによって形成されるため、短期間で直接変えるのは簡単ではありません。
しかし、自己効力感は、支援や介入によって育てやすい心理的資源です。
研究者たちは、
- ADHDの支援や治療において、自己効力感を高める取り組みが、先延ばしによる悪影響を和らげる可能性
を示唆しています。
この研究には、オンライン調査であること、診断が自己申告であること、時間的な因果関係を直接示せないことなどの限界もあります。
それでも、ADHDのある大人が感じる生きづらさを、責めるのではなく、理解し直すための視点を与えてくれる研究だと言えるでしょう。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0339965)(画像:たーとるうぃず)
「先延ばしによる影響の一部は、「自分にはできるという感覚」が弱まることを通じて、人生を理解し、対処し、意味づける力に影響している」
だからこそ、支援においては
「自分にはできるという感覚」を高めることで、負の連鎖をまず断ち切ろうとのこと。
具体的なアドバイスですね。
(チャーリー)





























