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立つ・歩く・支える力を育てる。知的障害の子どもの体の中の努力

time 2025/10/19

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立つ・歩く・支える力を育てる。知的障害の子どもの体の中の努力

この記事が含む Q&A

知的障害のある子どもの姿勢の安定には、感じ取る情報を使い分ける力の難しさ、重心を動かせる範囲の狭さ、歩くときの不安定さといった点に違いが見られますか?
はい、感じ取る力の使い分けの難しさと重心動揺の範囲の狭さ、歩行時の安定の難しさが共通して指摘されています。
研究はどのように検証していますか?
複数の研究を統合して全体の傾向を分析する方法で、年齢層を5〜19歳に設定し、複数の評価指標で姿勢の安定を評価しています。
支援にはどんな取り組みが有効と示されていますか?
感じ取る力の使い分けを安全な範囲で段階的に練習させ、座る→立つ→動かすといった段階的練習や、運動量を増やす環境づくり、小さな成功体験を積み重ねる支援が有効と提案されています。

転ばないように立つこと、まっすぐ歩くこと、方向を変えること。
わたしたちが日々の生活の中で何気なくしているこれらの動作には、実はとても複雑な体の働きがあります。

目でまわりの様子を見て、耳の奥で体の傾きを感じ、足の裏で床の固さを確かめる。
それらの情報を一瞬でまとめ、筋肉に「どう動くか」を伝える。
この連携がうまくいくことで、私たちは姿勢を保ち、転ばずに動くことができます。

けれども、知的障害のある子どもや若者の中には、この「体を安定させる力」がうまく働きにくい人がいます。
転びやすい、姿勢がぐらつきやすい、動作がぎこちない。
それは単なる運動の苦手さではなく、体が感じ取る情報をまとめて使う力が少し違っているからかもしれません。

今回、中国の浙江育英職業技術学院と浙江師範大学の研究チームは、
世界中の研究を集めて、知的障害のある子どもや若者の「姿勢の安定」がどのように違うのかを整理しました。
一つの研究だけではなく、多くの研究をまとめて全体の傾向を見る方法を使いました。
それによって、共通して見えてくる特徴を明らかにしようとしたのです。

研究の対象となったのは、5歳から19歳までの子どもと若者たちです。
同じ年ごろの発達に問題のない子どもと比べて、どんな点で違いがあるかを調べました。

研究チームは、姿勢の安定を「一つの点数」で測るのではなく、
いくつかの働きに分けて考えました。
たとえば、
①体が感じ取る情報をうまく使い分ける力、
②体の重心をどのくらい動かせるかという範囲、
③動く前に体の姿勢を整える力、
④歩くときに姿勢を保つ力、
といった具合です。

このように分けて調べることで、「どの部分で難しさが生まれやすいのか」がよりはっきり見えてきます。

まず、最も違いが大きかったのは「感じ取る情報を使い分ける力」でした。
人は、目・耳・足の裏など、いくつもの感覚を使って姿勢を保ちます。
たとえば、目を閉じても立っていられるのは、
耳の奥や足の裏からの感覚をうまく使って体の傾きを知ることができるからです。

しかし、研究にまとめられた多くのデータでは、
知的障害のある子どもたちはこの使い分けが難しく、
立っているときに体が揺れやすい傾向がありました。
目を開けていても閉じていても、体の中心が安定しにくく、
床の固さや周りの様子が変わると、バランスを保つことがより難しくなります。
つまり、感じ取る力そのものが弱いというよりも、
「どの感覚を、どのくらい使うか」を調整するのが難しいのです。

次に見られたのは、「重心を動かせる範囲」が狭いという点でした。
人は、立ったまま体を前や横に少し傾けても、すぐには倒れません。
体の中心を少し動かしても、足や体幹の筋肉が支えてくれるからです。
しかし、知的障害のある子どもたちは、その範囲が小さく、
少し重心を動かしただけでも姿勢を保つのが難しくなりやすいことがわかりました。
これでは、何かを避けようとしたり、急に立ち上がったりするような動作で、
体を支えきれなくなってしまうことがあります。

歩くときの安定にも違いが見られました。
研究では、立ち上がって歩き、方向を変えてまた座るという動作を計測する検査が使われました。
その結果、知的障害のある子どもたちは、動作全体に時間がかかり、
歩くリズムや体の傾きの調整がうまくいきにくいことがわかりました。
歩くという動作は、足を出すタイミング、体の傾き、力の入れ方が同時に働くものです。
そのどれかがずれると、全体の動きが不安定になります。
研究チームは、知的障害のある子どもたちはこの同時の調整が難しく、
体を支えるために必要以上の力を使ってしまう場合があると指摘しています。

一方で、「動く前に姿勢を整える力」については、
研究によって結果がそろいませんでした。
片足立ちのような動作では差が見られにくく、
体を動かす前に一瞬で姿勢を変えるような課題では差が大きく出る傾向がありました。
つまり、どんな検査を使うか、どんな動作をさせるかによって結果が変わるのです。
このことは、実際に学校や施設で子どもの動きを見るときに、
一つの検査だけで判断しないことの大切さを示しています。

研究チームは、全体的な姿勢の評価でも同じ傾向を確認しました。
複数のテストをまとめた「姿勢の総合点」では、
知的障害のある子どもたちは、どの研究でも平均して低い結果を示しました。
これは、体のどこか一部分の問題ではなく、
体の感覚、筋肉の使い方、動作の計画といった複数の仕組みが関係していることを示しています。

では、こうした結果はどう役立つのでしょうか。
研究チームは、「姿勢の安定を助ける支援を考えるとき、
どの部分を重点的に練習すべきかを決める手がかりになる」と述べています。

たとえば、感じ取る力の使い分けが難しい子どもには、
床の固さや目の使い方を少しずつ変えながら、
安全な範囲で練習する方法が考えられます。

重心を動かす範囲が狭い子どもには、
座る→立つ→体を少し前後左右に動かすといった段階的な練習が合いやすいでしょう。

歩くときの不安定さが目立つ場合は、
テンポを一定に保つ工夫をしたり、
足を出す位置の目印を使うといった練習が有効かもしれません。

研究ではまた、体幹を安定させる練習や、
自分の体の位置を感じ取る力を育てる運動が、
姿勢の安定に役立つ可能性があると示されています。

ただし、これは「難しい運動をたくさんする」という意味ではありません。
むしろ、小さな成功を積み重ねていくことが重要です。
「できた」と感じられる体験が、次の意欲を生み出します。

さらに、この研究は「体を動かす量」との関係にも触れています。
日ごろから体を動かす時間が長いほど、
姿勢の安定が育ちやすい傾向があります。

しかし、知的障害のある子どもたちは、
運動する機会が少ない環境にいることが多く、
自信を失った経験や、成功体験の少なさが活動量を減らしてしまうことがあります。

だからこそ、家族や支援者が一緒に体を動かす時間をつくり、
楽しみながら体を使える環境を整えることが大切です。
成功を感じる小さな体験の積み重ねが、
体の安定だけでなく、心の安定にもつながっていきます。

研究チームは、この結果をもとに、
「姿勢の安定がうまくいかない理由を一言で説明することはできない」と強調しています。

体の感覚の使い方、筋肉の力、動作の順序、環境への反応、
それらが少しずつ重なって、全体の難しさにつながっているのです。
そして、そうした仕組みを一つずつ理解していくことで、
支援の方法をよりきめ細かくすることができます。

この研究にはいくつかの限界もあります。
多くの研究が一度きりの測定にとどまり、
時間の経過による変化までは追えていません。
また、知的障害の程度や、他の障害との重なりによる違いまでは
十分に分けて分析されていません。

それでも、これまで断片的だった情報を整理し、
「どのような場面で姿勢の安定が難しくなりやすいか」を明確にしたことは、
大きな意味があります。

研究をまとめた浙江のチームは、
「姿勢の安定」という言葉の中には、
多くの小さな力が関わっていることを改めて強調しました。
感じ取る、支える、動かす、そのどれもが協力しあって成り立っています。

そして、支援や教育の場では、
子どもたちが自分のペースでその力を育てられるように、
安心して動ける環境をつくることが何より大切だと述べています。

「立つ」「歩く」「振り返る」。
それは生きることそのものです。

一人ひとりが、無理のない形で体の感覚を信じられるように。
姿勢の小さな安定が、心の大きな自信につながるように。
今回の研究は、そのための土台となる知識を静かに示しています。

(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-20515-7)(画像:たーとるうぃず)

うちの子についても、多くあてはまります。

だからこそ、小さなころから、腹筋や手押し車(先生や親が足を持つ)などの運動、

そして、ずっと歩いてきました。

じっと座って待つようなことにしても、そうした筋力、体幹を鍛えることが必要です。と言われたことを思い出します。

発達障害の子どもの8割以上に運動の困難。大規模研究が明らかに

(チャーリー)


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