この記事が含む Q&A
- いじめが起きる背景にはどんな要因が関係しますか?
- 環境や学校文化・他者の理解不足が大きく影響し、本人の特性だけに原因を求めないことが重要です。
- いじめは被害者の心の健康にどんな影響を与えますか?
- 不安・抑うつ・自尊心の低下・孤独感の強化など、長期的な影響につながることがあります。
- いじめを防ぐための効果的な取り組みは何ですか?
- 理解を広げる教育・多様性を受け入れる環境づくり・仲間の交流促進・支援体制の整備と連携・声を上げやすい環境づくりが重要です。
自閉症のある人が日々向き合っている「いじめ」の問題は、これまで多くの国や地域で語られてきました。
しかし、最新の国際共同研究が示したのは、その問題が想像以上に深く、長く、そして複雑であるという現実です。
今回のレビュー研究は、バーレーンのアラビア湾大学、アラブ首長国連邦のシャルジャ大学、エジプトのタンタ大学、オーストラリアのチャールズ・スタート大学やボンド大学、南アフリカのヨハネスブルグ大学といった複数の国際的な教育・研究機関の協力によって進められました。
異なる文化圏にまたがる研究者たちが力を合わせることで、世界レベルでの「自閉症といじめ」の全体像を立体的に捉えることができたのです。

研究チームは、PRISMAという国際的に広く使われるレビュー手法に従い、2024年12月までに発表された関連研究を徹底的に検索しました。
検索にはPubMed、Google Scholar、EBSCO、PsychINFOといった主要な学術データベースが使われ、最初に集まった論文は1123件にも及びました。
そこから重複を除き、さらに複数の研究者が独立して精査し、「自閉症のある人を対象としていること」「いじめが主要テーマであること」といった厳密な基準に合うものだけを選び抜き、最終的に74本の研究が分析対象となりました。
こうして世界中の研究を統合した結果、明らかになったのは、自閉症のある人が同年代の子どもよりもはるかにいじめを受けやすいという事実です。
いじめの経験率は研究によってさまざまですが、20%から90%という大きな幅がある一方、多くの研究が「一般の子どもより著しく高い」という点で一致していました。
ある研究では、自閉症のある子どもが同じ年齢の子より3倍いじめられやすいという報告もありました。

いじめの種類は「言葉によるからかい」がもっとも多く、次に「仲間外れ」「噂を広められる」といった社会的ないじめが続きます。
持ち物を隠されたり、無視されるといった行動も含まれます。
また、身体的ないじめの報告も少なくありません。さらに近年はサイバーいじめの報告も増え、自閉症のある若者がSNSやメッセージアプリ上で攻撃を受けるケースも示されていました。
いじめが起きやすい背景には、自閉症のある人のコミュニケーションスタイルが誤解されやすいという側面があります。
表情や声の調子、相手との距離感などが独特であるため、本人には悪意がなくても周囲から「感じが悪い」「変わっている」と受け取られてしまうことがあります。
しかし、研究チームは「いじめが起きる原因を本人の特性だけに求めるのは誤りである」とはっきり述べています。
いじめは社会の側が生み出すものであり、環境や学校文化、他者の理解不足が大きく影響しています。
本レビューが示した重要な点のひとつは、いじめが心の健康に深刻な影響を与えるということです。
いじめの被害は不安、抑うつ、自尊心の低下、強い孤独感、自殺念慮などと強く結びついていました。
また、学校に行けなくなったり、社会とのつながりを保てなくなったりするケースも多く、影響は子どもの時期にとどまらず、大人になっても続くことがあります。

それでは、いじめを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。
研究では「理解」と「環境づくり」がとても重要だと強調されています。
自閉症に関する正しい知識が広がることで、特性が誤解されたり「からかいの対象」にされる機会は減ります。
また、クラスや学校全体が多様性を受け入れる文化を育てれば、孤立しやすい状況は改善されます。
研究の中には、仲間同士の交流を意図的に増やしたことで、いじめが大幅に減ったという報告もありました。
一方で、本人が安心して助けを求められるスキルを学ぶ取り組みも効果が示されています。
ただし、これらの取り組みは「本人が頑張れば解決する」というものではありません。
本人に努力だけを求めるのではなく、周囲の環境や人々の理解がともに変わることが必要です。
また、家庭、学校、医療・福祉の専門家が連携し、いじめの兆候を見逃さない体制づくりも欠かせません。
教師が変化に気づき、相談先につなげられる仕組みがあると、深刻化を防ぎやすくなります。
法律や制度の整備も重要で、いじめを受けても安心して声を上げられる環境が求められます。

研究チームは最後に、「いじめは自閉症のある人の問題ではなく、社会がつくり出す構造の問題である」と結論づけています。
自閉症のある人が困難を感じるのは、その人が欠けているからではなく、社会が「ひとつの基準」を前提にしているためです。
その基準を広げ、多様な行動やコミュニケーションのスタイルが自然に共存できる社会になれば、いじめは着実に減らすことができます。
今回の研究は、世界中の研究を集めたからこそ見えてきた「いじめの構造」と「心への影響」を示すものです。
自閉症のある子どもや大人が、自分らしく安心して暮らせる社会をつくるためには、特別な支援よりもまず、「違いをそのまま認め、受け入れる文化」を育てることが大切であると、研究は語っています。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2025.1653663)(画像:たーとるうぃず)
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