この記事が含む Q&A
- オノマトペの意味理解は自閉症のある人でも定型発達の人とほぼ同じと結論づけられるのでしょうか?
- はい、31個の触覚オノマトペと布の感触実験で意味の理解はほぼ同様でした。
- 実際にオノマトペを使う場合、自閉症のある人と定型発達の人で表現の傾向に違いが見られるのでしょうか?
- はい、個人レベルで差が大きく、自閉症のある人は選ぶ言葉がばらつき少なく1語で表現することが多い傾向がありました。
- 今後の教育や支援においてオノマトペはどのように活用され得るのでしょうか?
- 感覚と表現の結びつきが多様である点を踏まえ、オノマトペを感覚を共有する柔軟な道具として支援に活用できる可能性があります。
自閉症のある人は、言葉の意味を理解する力は十分にあっても、感覚体験を言葉にするときの表現の仕方が少し違うのかもしれません。
今回、日本語の「オノマトペ」に注目した研究が行われました。オノマトペとは、「サラサラ」「フワフワ」「ベタベタ」のように、音の響きによって感覚や状態を表す言葉のことです。
日本語には非常に多くのオノマトペがあり、触った感じや気持ちのニュアンスを細かく伝えるときに日常的に使われています。
この研究では、自閉症のある人がこうした言葉をどのように理解し、どのように使っているのかを調べました。
その結果、興味深い特徴が見えてきました。
研究を行ったのは、大阪大学大学院情報科学研究科、情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター(CiNet)、東京大学大学院総合文化研究科、早稲田大学人間科学学術院などの研究チームです。
研究者たちは、日本語のオノマトペが「感覚体験と言葉の結びつき」を調べるうえでとてもよい材料になると考えました。
オノマトペは、単なる意味だけではなく、音の響きが感覚や感情と結びついているからです。
たとえば「ツルツル」という言葉を聞くと、多くの人はなめらかな表面を思い浮かべます。
「チクチク」は、刺すような感覚を思い出します。このように、音の形と感覚のイメージが結びつく現象は「音象徴」と呼ばれています。
しかしこれまでの研究では、自閉症のある人はこうした音象徴への感度が弱い可能性があることが示されていました。
たとえば、有名な「ブーバ/キキ効果」と呼ばれる現象があります。
丸い形には「ブーバ」のような音、尖った形には「キキ」のような音が合うと感じる傾向が多くの人に見られますが、自閉症のある人ではこの結びつきが弱いことが報告されています。

そこで研究者たちは、自閉症のある人がオノマトペをどのように理解し、実際に使うのかを詳しく調べることにしました。
研究は二つの実験で行われました。
最初の実験では、31個の日本語の触覚オノマトペを使いました。
たとえば
・サラサラ
・ツルツル
・ザラザラ
・ネバネバ
・チクチク
などです。
参加者は、それぞれの言葉について
・やわらかいか、かたいか
・乾いているか、湿っているか
・なめらかか、粗いか
・暖かいか、冷たいか
といった触覚の特徴や、
・気持ちよいか
・興奮する感じか
などの感情の特徴を評価しました。
参加したのは自閉症のある成人 37人、定型発達の成人 37人です。

分析の結果、意外なことがわかりました。
自閉症のある人と定型発達の人は、オノマトペの意味をほぼ同じように理解していたのです。
たとえば「ザラザラ」は粗い、「ツルツル」はなめらかといった評価は、両グループでほとんど違いがありませんでした。
また、31個のオノマトペを意味の近さで配置した分析でも、両グループの構造は非常によく一致していました。
つまり、自閉症のある人は、オノマトペの意味を理解する力自体は、定型発達の人とほぼ同じだったのです。
しかし研究者たちは、ここで一つの疑問を持ちました。
言葉の意味を理解できることと、その言葉を実際に使うことは同じではありません。
そこで第二の実験が行われました。
今度は、参加者に実際に布を触ってもらいました。
綿
サテン
デニム
フリース
レザー
など、触り心地の違う15種類の布です。
参加者は箱の中に手を入れて布を触り、その感触を表すのに合うオノマトペを選びました。
このとき、同じ布でも複数の言葉を選ぶことができます。
たとえばフリースなら
フワフワ
モサモサ
フサフサ
などが考えられます。
分析すると、グループ全体としては、自閉症のある人と定型発達の人で大きな違いは見られませんでした。
つまり、どの布にどんなオノマトペが対応するかという全体的な傾向は、両グループでよく似ていたのです。

しかし、個人レベルで見ると違いが現れました。
定型発達の人は、似たようなオノマトペを選ぶ傾向がありました。
たとえばフリースなら、多くの人が同じような言葉の組み合わせを選びました。
しかし自閉症のある人は、選び方が人によってかなりバラバラでした。
また、選ぶ言葉の数も少ない傾向がありました。
平均すると
定型発達の人
1つの布につき 約3.4語
自閉症のある人
約2.0語
でした。
さらに、定型発達の人は複数のオノマトペを組み合わせて表現することが多かったのに対し、自閉症のある人は一つの言葉だけを選ぶことが多く見られました。
つまり、自閉症のある人は
言葉の意味は理解している
しかし、感覚体験を言葉で表すときのパターンが人によって大きく異なる
という特徴が見られたのです。

研究者たちは、この違いを認知スタイルの違いで説明できる可能性を指摘しています。
自閉症のある人は、全体よりも細部に注意を向けやすい傾向があることが知られています。
たとえば布を触ったとき
定型発達の人は
柔らかさ
暖かさ
なめらかさ
など複数の特徴をまとめて感じ取り、それを共有された言葉で表現する傾向があります。
一方、自閉症のある人は
ある一つの特徴に強く注目する
可能性があります。
そのため、同じ布でも、人によって注目する特徴が違い、選ぶオノマトペもばらばらになるのかもしれません。
研究者たちは、この結果は「言葉の知識の問題」ではなく、「感覚と言葉の結びつけ方」の違いを示している可能性があると述べています。
つまり、自閉症のある人は
言葉の意味を知らないわけではない
感覚を理解できないわけでもない
しかし
感覚体験を言葉にまとめる方法が、人それぞれに独特になりやすい
という可能性があります。
これは、コミュニケーションの違いとして現れることがあるかもしれません。
同じ体験をしていても、表現の仕方が他の人と一致しにくいからです。

一方で、この研究は、オノマトペが感覚を伝えるための柔軟な道具になる可能性も示しています。
オノマトペは、感覚のニュアンスを細かく表現できる言葉です。
そのため、感覚の違いを共有するための言語として役立つ可能性があります。
研究者たちは、将来の研究として、自閉症のある子どもがオノマトペをどのように理解し使うのかを調べることが重要だと述べています。
オノマトペは子どもの言語発達にも大きく関わる言葉だからです。
今回の研究は、自閉症の言語の特徴を新しい角度から示しました。
自閉症のある人は、言葉の意味を理解する力が弱いわけではありません。
むしろ、感覚体験を言葉にする方法が、より個性的で多様なのかもしれません。
そしてその違いは、単なる「誤り」ではなく、感覚の捉え方や表現の仕方の違いとして理解する必要があるのかもしれません。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-026-07267-7)(画像:たーとるうぃず)
- 感覚体験を言葉にまとめる方法が、人それぞれに独特になりやすい
- 同じ体験をしていても、表現の仕方が他の人と一致しにくい
たしかに想像できます。
広く知られて、コミュニケーションにおいての誤解がなくなることを期待します。
(チャーリー)




























