
この記事が含む Q&A
- モンテッソーリ教育は自閉症の子どもにも効果がありますか?
- 現時点では研究が3件のみで地域偏りがあり、手指の動きやセルフケア、認知課題の改善が報告される一方、普遍的な効果はまだ確定していません。
- どんな場面でモンテッソーリ教具の活用が効果的ですか?
- 家庭と学校が連携し、日常生活の練習教具や感覚教具を短いセッションで繰り返すことが、集中力や自立の基盤づくりにつながると示唆されています。
- 欧米での研究が少ないのはなぜですか?
- 欧米では長く一般児向けとして普及してきたため、障害児を対象とした厳密なランダム化研究が少なく、他の支援プログラムが主流だったことが理由です。
モンテッソーリ教育は、20世紀初頭にイタリアの医師マリア・モンテッソーリが考案した教育法です。
もともとは知的障害のある子どもたちのために開発されましたが、その後、世界中の幼稚園や学校で広く使われるようになりました。
特徴は、子どもが自分で選び、自分のペースで活動できる環境を整えることにあります。
教室には「感覚教具」「日常生活の練習教具」「数や文字の学びのための教具」など、目的が明確な教材が用意され、子どもは興味を持ったものを自ら選び、繰り返し取り組むことができます。
この方法では、大人は「教える人」ではなく「見守り、必要なときにそっと助ける人」という立場です。
教具は子どもが自分で間違いに気づけるよう工夫されており、「やらされる」のではなく「できた」という達成感を積み重ねられます。
活動は短く集中しやすく、生活の自立や集中力、順序立てて考える力など、学びの土台を育てることを目的としています。
今回紹介するのは、イタリアのペルージャ大学の研究チーム国際的な系統的レビューです。
心理学や教育学分野の主要なデータベースを使って、2024年10月までに発表された英語の論文を世界中から探し出し、厳しい条件を満たした研究だけを選びました。
その条件とは、対象が自閉症や知的障害のある子ども・若者であること、モンテッソーリの教具を使った体系的な教育プログラムを行っていること、無作為に分けられた対照群と比較していることなどです。
最初に集まった論文は7165件。
しかし重複や条件に合わないものを除くと、残ったのはわずか3件だけでした。
しかも、その3件はすべてトルコとパキスタンで行われたもので、欧米の研究は1件も含まれていません。
これは、欧米ではモンテッソーリ教育が長年「一般児向けの教育法」として普及してきたため、障害児を対象にしたランダム化比較試験のような厳密な量的研究がほとんど行われてこなかったことが一因です。
また、欧米の特別支援教育ではTEACCHやABAなど他の支援プログラムが主流となっており、モンテッソーリを障害児に特化して検証する動きが相対的に少なかった背景もあります。
一方、トルコやパキスタンでは特別支援教育の中で新しいアプローチを試す取り組みが活発であり、その過程で条件を満たす実証研究が実施されたと考えられます。
1つ目の研究はトルコで行われ、軽度の知的障害がある20〜22歳の若者24人が参加しました。
12人は8週間、モンテッソーリ教育を受け、残りの12人は従来の教育を受けました。
日常生活の練習や感覚を育てる教具を使い、母親も自宅での活動を支援しました。
運動能力や視覚認知のテストでは、モンテッソーリ教育も従来教育も同程度の効果を示し、とくに左足のバランスを除けば多くの項目で改善が見られました。
研究者は、モンテッソーリ教育は古典的な教育法と同等の選択肢になり得ると結論づけています。
2つ目もトルコの研究で、自閉症とダウン症の男子20人(12〜16歳)が対象でした。
モンテッソーリ教育を受けた10人と、従来教育を受けた10人を比較すると、手指の素早さや跳躍力など一部の運動スキルでモンテッソーリ群に有意な改善が見られました。
ただし、すべての能力が伸びたわけではなく、握力や柔軟性では差が出ませんでした。
3つ目はパキスタンで行われ、軽度知的障害のある6〜13歳の子どもたちが対象です。
視覚・聴覚・触覚などの感覚を育てる活動を中心に、50〜60分のセッションを2回行いました。
結果は、分類や系列化、色や形の認識などの認知課題や、着替えや食事といったセルフケア能力に有意な向上が見られました。
短時間でも、教具を使った体系的な活動が独立した学びにつながることを示しています。
こうして見えてきた良い点は、モンテッソーリ教育が運動スキルや生活能力、認知やコミュニケーションの向上に役立つ可能性があることです。
とくに、跳躍力や手指の素早さ、認知課題での改善が報告されており、家庭と学校が連携して取り組める柔軟さも魅力です。
また、従来の教育法と比べても遜色ない結果を出しており、選択肢の幅を広げる方法になり得ます。
一方で、課題もはっきりしています。
まず、研究数が極端に少なく、証拠が限られていること。
サンプルの規模も小さく、性別や年齢、障害のタイプに偏りがあること。
さらに、どの教具をどの順番でどれくらい使ったのかが十分に記されていない研究も多く、再現性が低いという問題があります。
評価方法も統一されておらず、結果を横並びで比較することが難しいのです。
そして、実施地域が限られているため、異なる文化や教育制度の国で同じ効果が得られるかは未検証です。
このレビューが示すのは、モンテッソーリ教育は万能ではないが、適切な条件下で特定の力を伸ばせる可能性があるということです。
とくに、手先や体の使い方を伸ばしたい、集中して一つの活動をやり遂げる経験を増やしたい、家庭と学校で同じやり方を続けたいという場合には試してみる価値があります。
しかし、「必ず効果がある」「どの子にも同じように効く」とは言えません。
今後は、より多くの国や条件で、どの特性の子にどの活動が合うのかを細かく検証していく必要があります。
親として覚えておきたいのは、焦らず、しかし計画的に進める姿勢です。
モンテッソーリ教育は、子どもが自分でできることを一つずつ増やしていくための環境づくりです。
今回の研究は、その静かな力を支える科学的な裏づけの第一歩といえるでしょう。
(出典:education sciences DOI:10.3390/educsci15081031)(画像:たーとるうぃず)
かっこいい、カタカナやアルファベットの名前のものがたくさんありますが、
「すべての子どもに、絶対にものすごい効果がある」
そんなものはきっとありません。それぞれ、一長一短、プラスとマイナスの面があるはずです。
そして、子どもも親も、みんなみんな違うのですから。
ずっと続くマラソンのようなものです。
無理せず(お金も当然含めて)、続けられる、自分たちにとってベターな方法で取り組むのが現実的だと思います。
ベストの追求はやめたほうがいいです。見つかるかわかりません。
これまでより、より良い(ベター)ものを見つけ、それでベストを尽くそうとするしかありません。
(チャーリー)