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ADHD・自閉症の成人調査。強みを見いだす人ほど幸福度が高い

time 2025/10/18

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ADHD・自閉症の成人調査。強みを見いだす人ほど幸福度が高い

この記事が含む Q&A

診断を受け入れることと生活の質にはどのような関係がありますか?
診断を好きになることよりも、診断を受け入れ自分の特性に価値を見いだすことが、生活の質の向上と最も強く結びつきます。
マスキング(隠す行動)はどのような影響があり、環境によって変わりますか?
学校や職場で隠す割合が高い一方、理解的な仲間の前では隠す度合いが低くなり、マスキングが多いと生活の質は低下する傾向があります。
強みを活かす支援は生活の質にどんな効果がありますか?
自分の利点を感じ、強みを活かす支援を受けると生活の満足度が高まり、マスキングを減らすことにも繋がります。

ADHDや自閉症の診断を受けたとき、人はそれをどのように受け止めるのでしょうか。
そして、その受け止め方や、自分を社会に合わせようとする「隠す行動(マスキング)」が、どのように生活の質に関わるのでしょうか。

スウェーデンのカロリンスカ研究所、オランダのフローニンゲン大学、ノルウェーのファフォ社会労働研究所による研究チームは、ADHDや自閉症のある若い大人1,056人を対象に、「診断の受け入れ方」「隠す行動」「診断に感じる利点や困難」「生活の質」との関係を大規模に調べました。
この研究は、従来の「欠点の分析」ではなく、強みや肯定的側面にも注目した点で、神経発達症の研究の中でも画期的なものです。

対象となったのは、18歳から35歳までのノルウェー在住の成人で、803人がADHD、158人が自閉症、95人が両方の診断を受けていました。
女性が全体の79%を占め、平均年齢は28歳でした。
多くが診断を受けてから3〜6年ほど経過しており、不安(57%)やうつ(59%)を併せ持つ人も多く見られました。

参加者はオンライン調査に回答しました。
調査では、「自分の診断に同意しているか」「その診断を好きか」「どのような場面で自分を隠すか」「診断に伴う利点と困難」「生活の満足度」などが問われました。
研究チームはこれらの回答を統計的に分析し、診断の受け止め方と生活の質の関係を明らかにしました。

まず注目されたのは「診断の受け入れ方」です。
おどろくことに、95%の人が「自分の診断に同意している」と答えました。
一方で、「自分の診断を好き」と答えた人はわずか29%でした。
つまり、「自分の状態を正しいと認識している」ことと、「それを好意的に受け入れている」ことは別のプロセスであることが示されました。
認知的な納得と、感情的な受容は異なる段階にあり、後者が進むほど、生活の質が高い傾向が見られました。

次に、「マスキング(隠す行動)」についてです。
多くの人が学校や職場で自分を隠すと答え(83%が同意)、家庭でも57%が「家族の前で本当の自分を出せない」と感じていました。
しかし、同じ診断をもつ仲間の前では、自分を隠す人は21%と大幅に減りました。
この結果は、マスキングが固定的な性格ではなく、「状況に応じた適応戦略」であることを示しています。
周囲が理解的な環境では、安心して本来の自分を出すことができる。
逆に、学校や家庭でさえも「合わせなければならない」と感じている人が多いことは、社会の側の受け入れ度合いを問いかける結果でもあります。

では、自分の診断にどのような「利点」や「困難」を感じているのでしょうか。
回答を集計すると、平均して3〜4個の利点、3〜4個の困難が挙げられました。
もっとも多くの人が挙げた利点は「自分なりの見方ができる」(65%)、「何かを突き詰めようとする探究心がある」(62%)でした。
逆に、「同じ診断の人たちとのつながりを感じる」は28%と少なく、孤立の感覚がうかがえます。

一方、困難の上位は「精神的に疲れる」(94%)、「誤解される」(84%)でした。
「身体的に疲れる」(約40%)、「差別的な扱いを受ける」(33%)と答えた人もいました。
ほとんどの人が、何らかの困難を感じていましたが、同時に少なからぬ人が利点も認めていました。
研究チームは、「利点と困難は排他的ではなく、共に存在しうる」と指摘しています。
困難の認識と、自己肯定は両立するのです。

興味深いのは、「ADHDと自閉症の両方をもつ人」が、他のどちらか単独よりも、利点も困難も多く挙げる傾向にあったことです。
複数の特性を持つことで、感じ取ることの幅が広がるのかもしれません。

そして、この研究の中心的な問い――「何が生活の質を高めるのか」――に対して、明確な答えが得られました。
もっとも強く関係していたのは「利点を感じていること」でした。
診断をどの程度好きか、あるいはどれほど困難を感じているか、どれほどマスキングしているかといった要因よりも、「自分の特性に価値を見いだしていること」が、生活の満足度に最も強く結びついていたのです。

具体的には、「エネルギッシュである」「何かを知りたいという衝動がある」といった利点を感じる人ほど、生活の満足度が高くなっていました。
これは、ADHDの特徴とされる「多動性」や「衝動性」が、状況によっては前向きなエネルギーとして働くことを示しています。
逆に、マスキングの頻度が高い人ほど、生活の質が低くなる傾向がありました。
自分を抑えて他者に合わせ続けることが、長期的に心身の疲弊につながる可能性があるのです。

研究チームは、こうした結果を「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」という心理学的枠組みから説明しています。
ACTでは、「自分を受け入れること(アクセプタンス)」「自分にとって意味のある価値に基づいて生きること(バリューズ)」「避けたい感情を過度に避けないこと(経験的回避の低減)」を中心に据えます。
今回の結果では、「診断を好きと思えること」がアクセプタンス、「利点を感じること」がバリューズ、「マスキングを減らすこと」が経験的回避の低減に対応していました。
つまり、これら三つの要素が整うほど、心理的柔軟性が高まり、生活の質が向上する――という理論と一致するのです。

薬の使用や、診断を受けてからの年数は、生活の質にはほとんど影響していませんでした。
一方で、不安やうつなどの併存症を持つ人は、生活の質が低く、マスキングが多く、診断を好まない傾向がありました。
それでも利点の数には差がなく、「困難を抱えながらも強みを見出す力」は変わらないことが示されています。

この研究にはいくつかの限界もあります。
参加者の多くが女性であり、また成人期に診断を受けた人が中心だったため、子どものころに診断を受けた人や、支援が必要な重度のケースを反映していない可能性があります。
それでも、この大規模調査は、成人期のADHDや自閉症を「一面的な困難」としてではなく、「多層的な経験」として描き出しました。

研究チームは、結論としてこう述べています。
「診断を受け入れ、そこに価値を見出すことは、生活の質の向上に直結する。
医療や支援の現場は、欠点を補うことだけでなく、強みを見いだし、それを伸ばす視点を持つ必要がある。」

実際、ADHDの当事者の中には、「強みを基盤にしたコーチング(strength-based coaching)」を望む人が多いといいます。
また、自分の特性に関する知識をもつことは、将来の職業選択にもプラスに働きます。
「自分の得意を理解することが、よりよい進路や仕事選びにつながる」と研究者たちは指摘しています。

この研究は、神経発達症をめぐる社会の見方にも問いを投げかけています。
「好きになれない診断」や「隠さざるを得ない環境」は、人の内面の問題ではなく、社会の構造の問題でもあります。
周囲が特性を受け入れ、安心して自分らしくいられる場が増えることこそ、生活の質の向上につながるのです。

「自分の診断をどう感じているか」という問いは、単なる心理的な関心事ではありません。
それは、自分をどう理解し、どんな社会で生きていきたいかという、人間の根源的な問いでもあります。
この研究が示したように、診断そのものではなく、「その診断をどう生きるか」が、人生の満足度を大きく左右します。
「自分の見方を大切にする」「知りたいという気持ちを生かす」――そんな小さな肯定の積み重ねが、誰にとっても生きやすい社会をつくる道なのかもしれません。

(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2025.1668780)(画像:たーとるうぃず)

「医療や支援の現場は、欠点を補うことだけでなく、強みを見いだし、それを伸ばす視点を持つ必要がある」

多くの人が「褒められると伸びるタイプ」なのです。

自閉症の診断を肯定的に。強みに基づく評価がもたらす自己理解

(チャーリー)


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