この記事が含む Q&A
- 発達障害が複数重なると、成績への影響はどのように変わりますか?
- 重なるほどすべての教科で成績が低くなるリスクが段階的に高まります。
- どの発達障害が成績に最も強い影響を与えますか?
- 知的障害が最も幅広い教科で影響が顕著に現れることが示されています。
- 学校現場での支援のポイントは何ですか?
- 併存する発達障害を見逃さず、個別の特性に応じた支援と教師の訓練が重要とされています。
学校での成績が思うように伸びない子どもは、決して少なくありません。
その背景として、努力不足や家庭環境だけでなく、発達の特性が関係している可能性があることは、以前から指摘されてきました。
しかし、実際の学校現場では、「どの発達特性が」「どの教科に」「どの程度影響しているのか」、さらに「複数の特性が重なった場合に何が起きるのか」については、十分に整理されてきたとは言えませんでした。
今回紹介する研究は、こうした問いに対して、非常に大規模で丁寧なデータを用いて答えようとしたものです。
スペイン・カタルーニャ州の通常学級に通う5歳から17歳までの子ども約9000人を対象に、発達障害と学校成績の関係を詳細に分析しています。
この研究が特に重要なのは、「発達障害は一つだけとは限らない」という現実を正面から扱っている点です。
知的障害、コミュニケーション障害、自閉症、ADHD、限局性学習症、運動障害といった複数の発達障害が、同時に存在する場合をきちんと考慮したうえで、成績への影響を検討しています。

研究は、カタルーニャ州の77校の一般校で実施されました。
まず、保護者と担任教師が質問票に回答し、情緒面や行動面、学習面での困りごとをスクリーニングします。
その後、問題が示唆された子どもについては、精神科医や神経心理専門職による臨床面接と検査が行われ、DSMに基づいて診断が確定されました。
一方、スクリーニングで問題が見られなかった子どもは、対照群として扱われています。
成績については、学校の公式記録を使用し、第一言語、外国語、算数、図工、体育の各教科が分析対象となりました。
この点も、保護者の主観ではなく、学校成績そのものを用いている点で信頼性が高いといえます。
分析の結果、まず明らかになったのは、どの発達障害であっても、単独で見ると、すべての教科で成績が低くなる傾向があるということでした。
しかし、ここで研究者たちは一歩踏み込みます。
「他の発達障害の影響を取り除いたら、何が残るのか」を詳しく検討したのです。

その結果、最も強く、幅広い教科に影響していたのは知的障害でした。
第一言語や外国語、算数だけでなく、図工や体育においても、成績が低くなるリスクが顕著でした。
知的障害は、思考力や情報処理、適応行動など、学習全般の土台に関わる特性であるため、その影響が教科横断的に現れることは、ある意味で自然な結果といえます。
次に大きな影響を示したのがADHDと限局性学習症でした。
ADHDのある子どもは、言語系教科や算数で特に成績が低くなる傾向が見られましたが、図工や体育でも影響が確認されています。
集中の持続や計画性、指示の理解といった点が、教科を問わず影響する可能性が示唆されています。
限局性学習症についても、読み書きや算数といった中核教科で強い影響が見られました。
さらに興味深いのは、図工や体育といった一見「学習症と関係なさそうな教科」でも、成績が低くなる傾向があった点です。
研究では、こうした結果について、姿勢制御や微細運動など、学習症に伴いやすい見えにくい困難が関係している可能性を示しています。

一方で、自閉症と運動障害については、すべての教科に一様な影響があるわけではありませんでした。
他の発達障害の影響を考慮すると、自閉症と運動障害が有意に関連していたのは、主に図工と体育でした。
社会的なやりとりや感覚刺激の多さ、身体の協調運動といった要素が強く関係する教科に、特に影響が現れていたのです。
コミュニケーション障害については、言語系教科での影響が大きいのは予想どおりでしたが、それに加えて算数や図工、体育にも影響が及んでいました。
言語理解は、多くの教科の基盤となるため、その影響が広がることを示しています。
そして、この研究のもう一つの重要な発見が、「発達障害が重なるほど、成績への影響が大きくなる」という点です。
発達障害が一つ増えるごとに、すべての教科で成績が低くなるリスクが段階的に高まっていました。
これは、どれか一つの診断だけに注目して支援を考えることの限界を、はっきりと示しています。
研究者たちは、この結果から、早期診断の重要性だけでなく、「併存する発達障害を見逃さないこと」の大切さを強調しています。
一つの特性だけに注目していると、別の困難が見過ごされ、適切な支援が遅れる可能性があるからです。

また、この研究は、学校現場の課題にも静かに目を向けています。
教師が多様な学習特性に対応するための十分な支援や訓練を受けていない現状、従来型の指導や評価方法が、発達特性のある子どもに必ずしも合っていない可能性についても示唆しています。
この研究が伝えているのは、「成績が低い=能力が低い」という単純な話ではありません。
子どもたち一人ひとりが、どのような発達の特性を持ち、それがどの教科で、どのように影響しているのか。
そして、それが一つなのか、複数重なっているのか。
そうした背景を丁寧に理解することが、公平な学びの環境をつくるために欠かせない、という静かなメッセージです。
発達障害のある子どもたちの学びを考えるとき、診断名だけでなく、その重なりや組み合わせに目を向けること。
この研究は、その重要性を、数字と現場のデータを通して、はっきりと示しています。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-025-27769-1)(画像:たーとるうぃず)
それぞれの子どもの特性を簡単にカテゴライズせずに、一人一人よく見て、支援をいただきたいと願います。
(チャーリー)


























