この記事が含む Q&A
- 親主導型介入とはどんな支援ですか?
- 専門家の技術を家庭で日常的に実践し、親が支援の担い手になる取り組みです。
- 三つの転換点は何ですか?
- 自分をケアすることの重要性に気づくこと、家庭環境を整えること、介入のタイミングを見極めることです。
- 研究からの要点は何ですか?
- 親の心理的健康や生活状況、子どもへの理解が介入の成功に大きく関係します。
子どもが自閉症や発達の遅れをもつとわかったとき、多くの親は「どうすればこの子を助けられるのか」と必死に考えます。
専門家による療育や支援はもちろん大切ですが、近年とても注目されている方法があります。
それは、親自身が支援の担い手になる「親主導型介入」と呼ばれる取り組みです。
親主導型介入とは、専門家から子どもへの関わり方を学び、家庭のなかで日常的に実践していく支援の方法です。
子どもは家庭で多くの時間を過ごします。
そのため、親が適切な関わり方を身につけることで、子どもの発達を日常生活の中で支えることができると考えられています。
こうした支援は、自閉症を含む神経発達症の子どもに対して、コミュニケーション、社会的関わり、生活スキル、行動面などさまざまな発達を促す可能性があるとされています。
しかし、これまでの研究の多くは「親がどんな技術を学んだか」「子どもがどのように変化したか」という結果に焦点を当ててきました。
一方で、親自身の内面ではどのような変化が起きているのかについては、あまり詳しく調べられてきませんでした。

そこで香港大学の研究チームは、親主導型介入を受けた保護者がどのような心理的変化を経験するのかを詳しく調べました。
研究では、香港で実施された世界保健機関(WHO)の「ケアギバー・スキルトレーニング」を受けた保護者22人を対象に、フォーカスグループ形式のインタビューを行い、その経験を分析しました。
その結果、親たちの中で起きていた大きな「転換点」が三つ見えてきました。
一つ目の転換は、「自分自身をケアすること」の重要性に気づくことでした。
多くの親は、子どものためにすべてを捧げようとしていました。
子どもの発達や問題行動を改善することに意識が集中し、自分自身の疲れや感情にはほとんど注意を向けていなかったと語っています。
しかしトレーニングの中で、自分の感情や身体状態に意識を向ける練習をすると、親たちははじめて自分の疲労やストレスに気づくようになりました。
ある母親は、自分を「木」にたとえて説明しました。
木が弱ってしまえば、葉を広げて他のものを守ることはできません。
親自身が健康でなければ、子どもを支えることもできないのです。
自分を大切にすることは、子どもを大切にすることでもあります。
親が落ち着いていると、子どもも安心します。逆に、親が怒ったり焦ったりすると、子どもの感情も不安定になります。
実際、多くの保護者が「自分の感情が子どもに直接影響している」と気づいたと語りました。
以前は子どもが感情的になると親も怒ってしまい、さらに状況が悪化することがありました。
しかし、自分の感情を落ち着かせる方法を学ぶことで、親子の関係は大きく変わっていきました。
瞑想や休憩を取り入れたり、怒りが強くなったときはパートナーと役割を交代したりするなど、親たちはさまざまな方法を試していました。
また、自分自身を認めるという変化もありました。
子どものケアに追われる生活の中で、親としての役割が自分のすべてになってしまい、「自分自身」を見失っていたと感じる人もいました。
しかし、自分をねぎらうことや小さな成功を喜ぶことを学ぶことで、「私は親であるだけでなく、一人の人間でもある」という感覚を取り戻していきました。

二つ目の転換は、「家庭環境を変えること」でした。
トレーニングでは、子どもと遊ぶための専用スペースを作ることが勧められました。
小さな机や椅子を用意し、親と子どもが同じ目線で関わることができる環境を整えるのです。
一見すると単純な変化ですが、多くの親にとってこれは大きな気づきでした。
以前は、大人の机やソファをそのまま使っていました。
しかし、子どもの高さに合わせた家具を用意すると、子どもは親の顔を見やすくなり、やり取りが増えたといいます。
さらに、この場所は「遊びの時間」の象徴になりました。
子どもはその机を見ると「お母さんと遊ぶ時間だ」と理解するようになり、自分から近づいてくるようになったのです。
つまり、環境そのものが行動のきっかけになるということです。
三つ目の転換は、「介入するタイミングを見極めること」でした。
多くの親は、最初は子どもに多くの指示を出していました。
早口で説明したり、たくさん質問したり、正しい遊び方を教えようとしたりしていました。
しかし、その結果、子どもは混乱してしまうことがありました。
トレーニングでは、まず「待つ」「観察する」「子どもの世界に入る」という関わり方が教えられました。
子どもが何に興味を持っているのかを見て、その遊びに親が参加するのです。
この方法を試すと、多くの親が驚きました。
子どもに主導権を渡すことで、むしろ関わりが増えたからです。
例えば、同じ遊びを何度も繰り返すことがあります。
以前なら「もっと別の遊びをしよう」と思っていたかもしれません。
しかし、その同じ遊びの中に小さな変化を加えることで、子どもは新しいことを学んでいきます。
親たちは「無理に教えなくても学びは起こる」と気づき、以前よりもリラックスして子どもと関われるようになったと語っています。

また、この過程で親たちは子どもへの共感も深めていきました。
子どもにも感情があり、意図があり、自分なりの理解の仕方があります。
ある母親は、定型発達の兄と同じやり方を自閉症の弟にも求めてしまっていたことに気づきました。
しかし、子どもの立場から考えると、理解できない指示に怒られている状況だったのです。
子どもの視点を理解することで、親子関係は大きく改善しました。
この研究は、親主導型介入の成功が「技術」だけで決まるわけではないことを示しています。
親自身の心の状態、家庭環境、そして子どもへの理解が大きく関係しているのです。
研究者たちは、介入プログラムを考えるときには、親の心理的健康や生活状況にも目を向ける必要があると指摘しています。
親が安心して子どもと関われる状態を作ることが、子どもの発達にもつながるからです。
この研究は香港大学社会科学部の研究チームによって行われました。

子どもへの支援を考えるとき、私たちはつい「子どもに何を教えるか」に目を向けがちです。
しかし、この研究が示しているのは少し違う視点です。
子どもが変わる前に、親の中で小さな「突破」が起きている。
自分を大切にすること。
環境を整えること。
子どもの世界に入ること。
そうした変化が積み重なることで、親子の関係は少しずつ変わり、子どもが学ぶ機会も増えていくのです。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2026.1754567)(画像:たーとるうぃず)
終わりなきマラソンのようなものです。
続けられない「無理」はしないようにしてください。
(チャーリー)




























