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ADHDと自閉症に共通する感覚困難。異なる「不安」との関係

time 2025/09/28

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ADHDと自閉症に共通する感覚困難。異なる「不安」との関係

この記事が含む Q&A

ADHDと自閉症の特性はどのように感覚処理に影響するのですか?
両方とも視覚の処理に影響しますが仕組みは同じではなく、ADHDでは不安が関係して感覚処理の困難が多動性・衝動性と結びつくことが示されています。
研究で用いた課題や方法はどのようなものですか?
視覚的方向弁別課題を用い、基準線と傾きを比較して線の角度を見分ける力を測定しました。
日常生活への示唆は何ですか?
不安を和らげる支援と感覚に配慮した環境づくりが有効で、背景となる要因はADHDと自閉症で異なる点が考慮されます。

ADHDや自閉症は、ことばや行動の特徴だけでなく、感覚の処理にも違いがあることが知られています。
たとえば音に敏感すぎたり、逆に鈍感だったりすることがあり、日常生活の困りごとにつながります。
しかし、そうした感覚の研究は自閉症に比べるとADHDではまだ少なく、両方を同じ枠組みで比べる研究はほとんどありませんでした。

今回、イギリスのシェフィールド大学の研究チームは、ADHDと自閉症の特性が「視覚的に線の角度を見分ける力」とどう関係しているのかを詳しく調べました。そして不安がその関係にどのように影響しているのかも検討しました。
研究では103人の成人が参加しました。
参加者は診断を受けている人ではなく、一般の人たちの中でADHDや自閉症の特性を持っている人もいればそうでない人も含まれています。

研究チームが使ったのは「視覚的方向弁別課題」と呼ばれるテストです。
人間が線の角度をどのくらい正確に区別できるかを測る方法です。

具体的には、参加者はコンピュータ画面に向かって座り、あごを固定する台に乗せて、頭が動かないようにしました。
そうすることで、目の高さや距離が一定になり、見え方の差が出ないようにしています。
画面にはまず「基準となる線(グレーティングと呼ばれる縞模様の線)」が映し出されます。
これは350ミリ秒、つまりほんの一瞬だけ表示されます。
そのあと、真ん中に「+」のような注視点が500ミリ秒表示され、続いて「少し角度を変えた線」が出てきます。これも350ミリ秒表示されます。

参加者は、2つ目の線が最初の線よりも「右に回っているのか、左に回っているのか」を、キーボードの矢印キーで答えました。
左に回っていると思ったら左矢印、右なら右矢印を押します。

課題では、線が「縦(0度)」のときと「斜め(45度)」のときの2種類がありました。
縦の線に対してちょっと傾ける場合と、斜めの線に対してちょっと傾ける場合とで、どれくらい見分けやすいかを比べたのです。
人は一般的に、縦や横の線は区別しやすく、斜めは区別しにくいことが知られていて、この差は「斜め効果」と呼ばれています。

線の傾きの大きさは一定ではなく、参加者の答えに応じて自動的に変化しました。
たとえば、正解が続くと次の問題はもっと難しくなり(角度の差が小さくなる)、間違えると少し簡単になる(角度の差が大きくなる)という仕組みです。
この方法を「ステアケース法」と呼び、参加者の能力の限界に近いレベルで課題を出すことができます。
最初は5度くらいの差から始めて、だんだんと細かく調整され、最小では0.001度というごくわずかな角度差まで出題されました。

また、画面のまわりから余計な手がかりが入らないように、モニターに円形の穴をつけて、線が中心だけに見えるよう工夫されました。
さらに、光に慣れると見え方が変わるため、課題を始める前には30分ほど暗い部屋で過ごしてもらい、目を暗さに順応させました。

このように細かく条件を整えたうえで、縦と斜めの線を何度も提示し、参加者がどれくらい正確に見分けられるかを統計的に測定しました。

同時に、参加者にはいくつかの質問票にも答えてもらいました。
ADHDの特性を測るためには「成人用ADHD自己記入式スケール(ASRS)」、自閉症の特性を測るためには「ブロード自閉症表現質問票(BAPQ)」が使われました。
また、不安については「パニック不安」「社会不安」「全般性不安」を測る質問票が用いられました。
さらに「感覚の過敏・鈍感」を自己評価する質問票(グラスゴー感覚質問票)も行われました。

こうして、実際の課題での成績と、自己申告による特性や不安との関係を分析したのです。

結果として、ADHDと自閉症の特性が強い人ほど、線の角度を正しく見分けるのが難しいことがわかりました。

つまり、どちらの特性も「視覚の処理がうまくいかない」という共通点を示したのです。
ただし、詳しく見ると違いもありました。
ADHDの中では「多動性・衝動性」と呼ばれる特性が特に強く関連していました。
一方で自閉症では「人づきあいに距離を置く傾向」や「ことばの使い方の特徴」がそれぞれ部分的に関係していました。

さらに重要なのは「不安」の役割です。

分析の結果、ADHDの多動性と視覚の困難との関係は、不安によって大きく説明できることが明らかになりました。
とくに「パニック不安」や「全般性不安」が高い人では、線の角度を見分ける力が弱まり、それがADHDの多動性とつながっていたのです。
つまり「不安があると感覚の処理もうまくいかなくなり、その結果として落ち着きのなさや衝動性が強くなる」という関係が見えてきました。

一方で自閉症の特性では、不安が介在する証拠は見られませんでした。
これは、ADHDと自閉症が似ている部分を持ちながらも、感覚処理の仕組みではちがった経路をたどっていることを示しています。

研究チームはまた、参加者の多くが臨床的な基準に近い特性を示していたことにも注目しています。
たとえば、自閉症の特性を測る質問票では、多くの人が「臨床の境界値」を超えていましたし、ADHDの質問票でも過半数が基準以上のスコアを示しました。

これは「診断されていないけれど特性は強い」人たちが少なくないことを示しており、特性と感覚の関係を理解するうえで重要です。

こうした知見は、日常生活における困りごとの理解にもつながります。
たとえば教室や職場で「集中できない」「イライラして落ち着かない」といった行動の背景には、感覚の処理の困難と不安の両方が影響している可能性があるのです。
たんに「性格」や「努力不足」ととらえるのではなく、感覚や不安との複雑な関わりを理解することが必要だと研究者たちは指摘しています。

この研究は一般成人を対象にしたものですが、ADHDや自閉症の特性は連続的に存在しており、誰もがその一部を持っています。
今回の結果は、診断を受けていない人の中でも特性の強さによって感覚の処理が変わることを示しており、より広い理解を促すものです。
また、不安がADHDの感覚処理に特に強く関わることがわかったことで、支援の方向性も見えてきます。
たとえば、感覚に配慮する環境づくりと同時に、不安をやわらげる支援を行うことが有効かもしれません。

一方で研究には限界もあります。
不安以外の要因、たとえば睡眠の質や抑うつの影響は調べていません。
また、自閉症については不安以外の併存状態が関係している可能性も考えられます。
今後はより多くの要因を含めた研究が必要だとされています。

まとめると、この研究は「ADHDと自閉症の特性はどちらも感覚処理に影響するが、その仕組みは同じではない」ことを示しました。

ADHDでは不安が大きな役割を果たし、自閉症では別の経路が関わっていると考えられます。
これは、表面上似た困りごとでも、その背景にある要因が違うことを理解する手がかりになります。
そして、支援のあり方を考えるときに「不安を和らげる」「感覚に配慮する」といった視点を取り入れることが大切だと伝えています。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1632880)(画像:たーとるうぃず)

  • ADHDと自閉症の特性が強い人ほど、「線の角度」を見分ける力が弱かった。
  • ADHDの多動性・衝動性は、不安が強いほど感覚処理の困難さが増すことと結びついていた。
  • 自閉症の特性も感覚処理と関係。しかし、不安が仲立ちする関係は見られず、ADHDとは異なる。

つまり自閉症だけでなく、仕組みは違えどADHDでも、感覚に影響する。
ということです。

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(チャーリー)


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