この記事が含む Q&A
- 妊娠中の山火事煙曝露は自閉症リスクに関連する可能性があるのですか?
- 妊娠後期に曝露日数が多いほど自閉症リスクの傾向が高くなるが、平均濃度のみでは関連は見られませんでした。
- 曝露の頻度や波(ウェーブ)がリスクに影響する理由は何ですか?
- 妊娠後期に連日・連続して曝露される回数が多いほどリスクが高まる傾向があり、波の回数が重要な要因と示唆されています。
- 研究の限界や公衆衛生への示唆はどうですか?
- 観察研究で因果関係は断定せず、避難や室内環境の把握など課題があり、妊婦を山火事煙から守る対策が公衆衛生上重要とされています。
妊娠中に吸い込む空気が、子どもの将来にどこまで影響するのか。
とくに、年々増え続ける山火事の煙は、これまで主に呼吸器への影響が注目されてきましたが、胎児の発達への影響については、まだ十分にわかっていませんでした。
今回紹介する研究は、妊娠中の山火事煙への曝露と、子どもの自閉症診断との関連を、長期間にわたる大規模データを用いて調べたものです。
この研究は、カイザー・パーマネンテ南カリフォルニア医療システム(Kaiser Permanente Southern California) と、チュレーン大学公衆衛生・熱帯医学大学院、南カリフォルニア大学 などの研究者によって行われました。
研究の対象となったのは、2006年から2014年にかけて、カリフォルニア州南部で出産した母子約20万人分のデータです。
すべて単胎妊娠で、生後5歳まで医療記録が追跡できたケースが分析に含まれています。
研究者たちは、妊娠期間中に母親がどの程度「山火事由来の微小粒子状物質(PM2.5)」に曝露されたかを、非常に詳細に推定しました。
衛星データ、気象情報、山火事の位置、大気汚染測定データなどを組み合わせ、10キロ四方の解像度で、毎日の山火事煙由来PM2.5濃度を算出しています。
ここで重要なのは、「平均的な濃度」だけでなく、
・山火事煙にさらされた日数
・一定以上の濃度を超えた日数
・煙が連続して発生した「波(ウェーブ)」
といった、曝露の「頻度」や「まとまり」も評価している点です。
自閉症の診断については、医療記録に基づき、国際診断基準に対応するコードが複数回記録された場合のみを対象とし、診断の信頼性にも配慮されています。

分析の結果、まず明らかになったのは、妊娠期間全体の平均的な山火事PM2.5濃度そのものと、自閉症リスクとの間には、明確な関連は見られなかった という点です。
つまり、「平均的にどれくらい煙が濃かったか」だけでは、リスクは説明できませんでした。
一方で、注目すべき結果が示されたのが、妊娠後期です。
この時期に、山火事煙にさらされた「日数」が多いほど、子どもが自閉症と診断されるリスクが高くなる傾向が確認されました。
特に、妊娠中に引っ越しをしていない母子に限定して分析すると、その関連はよりはっきりしました。
たとえば、妊娠後期に山火事煙に
・1〜5日さらされた場合
・6〜10日さらされた場合
・10日を超えてさらされた場合
それぞれで、煙にまったくさらされなかった場合と比べて、自閉症リスクが段階的に高くなる傾向が示されました。
また、単発の曝露だけでなく、2日以上、あるいは3日以上連続して煙にさらされる「山火事ウェーブ」 の回数が増えるほど、リスクが高くなるという結果も得られています。
この傾向は、妊娠全体よりも、やはり妊娠後期で強く見られました。

興味深いのは、山火事PM2.5の「濃度そのもの」よりも、「何日続いたか」「連続していたか」 といった曝露パターンのほうが、リスクと強く結びついていた点です。
これは、短期間でも繰り返し、あるいは連続して高い曝露を受けることが、胎児の発達に影響しやすい可能性を示唆しています。
研究者たちは、この理由について、いくつかの可能性を論文内で慎重に整理しています。
妊娠後期は、胎児の脳において神経の結びつきが急速に進み、構造が大きく変化する時期です。
このタイミングで、山火事煙に含まれる特有の成分や、強い酸化ストレスにさらされることが、影響を受けやすい可能性があると考えられています。
また、山火事は大気汚染だけでなく、避難や生活不安、精神的ストレスを伴う出来事でもあります。
論文では、こうした妊娠中のストレスが、自閉症リスクと関係する可能性についても触れられていますが、今回の研究では直接測定できていない点として、限界も正直に述べられています。
この研究は観察研究であり、「山火事煙が自閉症を引き起こす」と断定するものではありません。
一方で、平均濃度では見えなかった関連が、曝露日数や連続性という視点で浮かび上がったこと、妊娠後期という特定の時期に結果が集中していたことから、偶然の結果とは考えにくいパターンが示されたと研究者たちは述べています。
研究の強みとしては、
・約20万人という非常に大規模なコホート
・医療記録に基づく診断情報
・最新の山火事煙推定モデルの使用
が挙げられています。

一方で、山火事時の一時的な避難や、室内空気清浄機の使用状況などが把握できていない点、他の環境要因を完全には調整できていない点など、今後の研究課題も明確にされています。
論文の結論として研究者たちは、
妊娠中、特に妊娠後期における山火事煙への曝露が、自閉症リスクと関連している可能性がある
という慎重な表現にとどめています。
そして、気候変動により山火事が増加すると予測される中で、
妊婦、とくに妊娠後期の人々を、山火事煙からどう守るかという視点が、公衆衛生上重要になる可能性があると指摘しています。
生まれる前の環境が、どのように子どもの発達と重なり合っていくのか。
この研究は、その複雑な関係の一端を、静かに、しかし具体的なデータによって示したものと言えそうです。
(出典:Environmental Science & Technology DOI:10.1021/acs.est.5c08256)(画像:たーとるうぃず)
突飛な話に思えましたが、
汚染物質+強いストレスに妊娠後期にさらされる。
そう言われれば、たしかに簡単に否定はできません。
(チャーリー)





























