この記事が含む Q&A
- 自閉症のある女性と自殺念慮の関係は、カモフラージュが不安を高め、その不安が自殺念慮につながる経路として説明されていますか?
- はい。カモフラージュの多さが不安を高め、それが自殺念慮へ至る経路が統計的に示されています。
- 自殺念慮に関係する主要な要因は何ですか?
- 不安の強さ、うつ病の診断、アシミレーション型のカモフラージュが有意に関連していました。
- 減らすための支援として、どのような方向性が重要とされていますか?
- 安心できる環境づくり・不安を軽減する支援・無理をしなくてよい関係性を増やすことが重要と示されています。
自閉症のある女性は、社会の中で「目立たないようにする」「周囲に合わせる」ために、さまざまな工夫を重ねながら生きています。
その工夫は、一見すると適応的で前向きな努力のようにも見えます。
しかし今回の研究は、その裏側で、強い不安や、そして「生きていたくない」「消えてしまいたい」といった思いが、静かに積み重なっていく可能性を示しています。
とくに重要なポイントは、「カモフラージュ(カモフラージング)」と呼ばれる行動と、不安、そして自殺念慮とのあいだに、密接なつながりが見られたことです。
この研究を行ったのは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の分子医学・慢性疾患研究センターを中心とする研究チームです。
多くの自閉症研究は、これまで男性を中心に行われてきました。
そのため、女性の自閉症のあり方は、十分に理解されてこなかった側面があります。
近年、「女性の自閉症表現型」という考え方が注目されています。
これは、自閉症の核となる特性は男女で共通していても、表れ方が質的に異なる可能性がある、という視点です。
たとえば自閉症のある女性は、社会的な関係を持ちたいという動機が比較的高かったり、興味の対象が年齢相応に見えやすかったりすることがあります。
その結果、困りごとが目立ちにくく、診断が遅れたり、そもそも診断されなかったりすることがあります。

こうした背景の中で、多くの自閉症のある女性が用いているのが、「カモフラージュ」です。
カモフラージュとは、自分の自閉症特性が目立たないようにするために、意識的・無意識的に行う社会的な戦略のことです。
論文では、カモフラージュを大きく三つのタイプに分けています。
一つ目は、アシミレーション。
周囲の人の話し方、表情、振る舞いなどを観察し、それを取り入れて「溶け込む」方法です。
二つ目は、コンペンセーション。
苦手な部分を補うために、あらかじめ会話の型を準備したり、ルールを作ったりする方法です。
三つ目は、マスキング。
不安、混乱、疲労といった内側の状態を隠し、平静を装うことです。
これらは、社会で生きるための工夫として機能する一方で、大きなエネルギーを必要とします。
研究には、18歳以上の女性471人が参加しました。
そのうち72人が自閉症の診断を受けている女性、399人が自閉症ではない女性です。
参加者は、
- カモフラージュの程度
- 不安の強さ
- 自殺念慮の有無
について質問紙で回答しました。

結果として、自閉症のある女性は、自閉症ではない女性に比べて、
- カモフラージュの得点が高い
- 不安の得点が高い
- 自殺念慮を示す割合が高い
という特徴がありました。
とくに注目すべきなのは、自閉症のある女性の約7割が、「自殺について考えたことがある」と回答していた点です。
では、自殺念慮にもっとも強く関係していた要因は何だったのでしょうか。
統計解析の結果、次の三つが有意に関連していました。
- 不安の強さ
- うつ病の診断があること
- アシミレーション型のカモフラージュ
一方で、「自閉症であること」そのものは、不安やうつを考慮に入れると、自殺念慮と直接的な関連を示しませんでした。
これは重要な示唆です。
つまり、自殺念慮のリスクを高めているのは、「自閉症という診断名」よりも、「強い不安や抑うつ状態」、そして「無理をして周囲に合わせ続けること」だと考えられるのです。
さらに研究チームは、「不安が、カモフラージュと自殺念慮のあいだをつなぐ役割をしているか」を検討しました。
その結果、
カモフラージュが多い
→ 不安が高まる
→ 自殺念慮が強まる
という経路が統計的に確認されました。

つまり、カモフラージュそのものが直接的に自殺念慮を生むというよりも、カモフラージュによって不安が高まり、その不安が自殺念慮につながっていく、という構造が示されたのです。
なぜカモフラージュは、不安を高めるのでしょうか。
論文では、カモフラージュは「疲れる」「ストレスが大きい」「常に自分を監視しているような感覚を伴う」と報告されています。
自分らしさを抑え込み、間違えないように気を張り続ける生活は、慢性的な緊張状態を生みます。
その結果、
- 孤立感
- 理解されていない感覚
- 燃え尽き
- 自己喪失感
といった体験につながる可能性があります。
こうした体験が積み重なると、「このつらさから逃れたい」という思いが強まり、自殺念慮に近づいていくと考えられます。
この研究が示しているのは、「自閉症のある女性がつらいのは、努力が足りないからではない」ということです。
むしろ、
- 周囲に合わせ続けなければならない社会環境
- 不安を抱えやすい状況
- 支援につながりにくい構造
こうした要因が重なった結果として、心の負担が大きくなっているのです。

研究者たちは、支援の方向性として、不安へのアプローチの重要性を強調しています。
自殺念慮を減らすためには、
- カモフラージュをやめさせることではなく、
- 安心できる環境をつくること
- 不安を軽減する支援を行うこと
- 無理をしなくてもよい関係性を増やすこと
が重要だと示唆しています。
この研究は、女性、とくに自閉症のある女性の心のしんどさを、「個人の弱さ」ではなく、「構造的な問題」として捉え直す視点を与えてくれます。
「合わせ続けること」が前提になっている社会のあり方そのものが、問い直されているのかもしれません。
そして、不安を減らし、「そのままでいていい」と感じられる場所が増えることが、生きづらさを和らげる第一歩になる可能性を、この研究は静かに示しています。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1685845)
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(チャーリー)





























