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自閉症と摂食障害。食の問題だけでは説明できない生きづらさ

time 2025/12/30

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

自閉症と摂食障害。食の問題だけでは説明できない生きづらさ

この記事が含む Q&A

摂食障害と自閉的特性の関係はどのように説明されていますか?
自閉的特性が高い人ほど摂食障害の症状が重くなりやすく、それが心理的つらさにつながる経路があると説明されています。
カモフラージュ行動とは何で、摂食障害との関係はどのようですか?
カモフラージュは周囲に伝わらないよう振る舞いを調整する行動で、自閉的特性が高いほど多用し心理的つらさに寄与するという関係が示されています。
この研究が示す支援の示唆は何ですか?
摂食障害の背景には「適応の努力」や「隠し続けた困難」がある可能性があり、治療・支援では症状だけでなくその背景にも目を向けるべきと示唆されています。

摂食障害を経験する人の中には、食べることや体重の問題だけでは説明しきれない「生きづらさ」を長く抱えてきた人が少なくありません。
人との関係がうまく築けない、場の空気を読むことに強い疲れを感じる、自分の本音を隠して振る舞い続けてきた、そうした経験を重ねてきた人もいます。
イタリア・ウディネ大学医学部の研究グループは、こうした背景に注目し、摂食障害と自閉症に関連する特性、そして「カモフラージュ」と呼ばれる行動との関係を詳しく調べました。

この研究のテーマは、摂食障害と、自閉症スペクトラム症に関連する特性(自閉的特性)がどの程度重なり合い、さらにそれが心のつらさとどのようにつながっているのか、という点です。
とくに重要視されたのが「カモフラージュ」という行動でした。
カモフラージュとは、自分の特性や困難さが周囲に伝わらないように、意識的・無意識的に振る舞いを調整することを指します。

研究は、イタリア・ウディネ大学病院の摂食障害専門外来に通う131人を対象に行われました。
参加者は全員、DSM-5にもとづく摂食障害の診断を受けており、多くが成人女性でした。
診断名は、過食症、神経性やせ症、特定不能の摂食障害など、さまざまなタイプが含まれていました。

研究チームは、いくつかの質問紙を用いて参加者の状態を評価しました。
摂食障害の症状の重さや心理的なつらさを測る尺度、自閉症に関連する特性を評価する尺度、共感性を測る尺度、そしてカモフラージュ行動の強さを測る尺度が使われています。こ
れらはすべて、臨床や研究で広く用いられている標準化された質問紙です。

その結果、まず明らかになったのは、摂食障害のある人の中に、自閉的特性が比較的高い人が一定数存在しているという事実でした。
臨床現場向けの基準を用いた場合、約16%の参加者が「自閉症の可能性を考慮すべき水準」に達していました。
より広い基準を用いると、その割合は半数を超えていました。これは、摂食障害と自閉的特性が重なり合う人が決して少なくないことを示しています。

さらに、参加者の約4人に1人が、カモフラージュ行動を強く用いていると評価されました。
これは、場に合わせて振る舞いを調整したり、違和感や困難を隠したりする行動が、日常的に行われていることを意味します。
興味深いことに、このカモフラージュの強さは、摂食障害の診断タイプによる大きな違いは見られませんでした。

分析を進めると、自閉的特性が高い人ほど、学校生活でのつまずきや、精神的・身体的な併存症を経験している割合が高いことが分かりました。
また、抗うつ薬や抗精神病薬を処方された経験とも関連していました。
自閉的特性は、単独で存在するというより、人生全体の困難さと結びついている様子がうかがえます。

一方で、この研究の重要なポイントは、「自閉的特性そのものが、直接、心のつらさを強めているわけではない」という点でした。
統計的な解析を行ったところ、自閉的特性と心理的な不調との関係は、二つの経路を通じて説明できることが示されました。

一つ目の経路は、摂食障害の症状そのものです。
自閉的特性が高い人ほど、摂食障害の症状が重くなりやすく、それが心理的なつらさにつながっていました。
二つ目の経路が、カモフラージュ行動です。
自閉的特性が高い人ほど、カモフラージュを多用し、その結果として心理的な不調が強まっていました。

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この二つの経路は、互いに独立しており、どちらか一方だけで説明できるものではありませんでした。
年齢や体格指数の影響を考慮した後でも、摂食障害の症状とカモフラージュは、ほぼ同じ程度、心理的なつらさに寄与していました。
つまり、「食の問題」と「自分を隠して生きること」が、並行して心の負担を増やしている構造が浮かび上がったのです。

研究チームは、この結果について、摂食障害をもつ一部の人に特有の心理的メカニズムを示している可能性があると述べています。
外から見える症状だけでなく、その背後で続いてきた対人関係の努力や自己調整の負荷に目を向ける必要がある、という示唆です。

また、摂食障害の診断タイプごとに探索的な分析も行われました。
過食症や神経性やせ症などで細かな違いは見られたものの、全体としては共通する傾向が多く、診断名を超えた横断的な視点の重要性が示唆されています。
ただし、サンプル数が限られているため、これらの結果は慎重に解釈する必要があります。

この研究には限界もあります。
調査は一時点で行われたもので、時間の経過による変化までは追えていません。
また、参加者の多くが女性であり、単一の医療機関からのデータである点も考慮が必要です。
それでも、摂食障害と自閉的特性、カモフラージュ行動がどのように絡み合って心理的なつらさを生み出しているのかを、具体的なデータで示した点は大きな意義があります。

この研究が伝えているのは、摂食障害の背景には、単なる食行動の問題を超えた「適応の努力」や「隠し続けてきた困難」が存在する場合がある、という事実です。
支援や治療を考える際にも、症状だけでなく、その人がどのように社会の中で自分を保ってきたのかに目を向けることが、重要なのかもしれません。

摂食障害と自閉的特性、その間にあるカモフラージュという行動。
この三者の関係を丁寧に描き出したこの研究は、見えにくかった「つらさの構造」に光を当てています。

(出典:Nutrients DOI:10.3390/nu18010034)(画像:たーとるうぃず)

自閉症による特性そのものよりも、摂食障害とカモフラージュが大きく困難に影響していたとのこと。

適切な支援を行うのに、こうした正しい理解は必要です。

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(チャーリー)

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