この記事が含む Q&A
- 自閉症のある参加者は、速さと曲率の関係の傾きが非自閉症の参加者より有意に大きかったですか?
- はい、直線でより速く、角に近づくとより強く減速する傾向が見られました。
- 研究では自閉症と非自閉症のグループで、どのような図形をなぞらせて差を分析しましたか?
- 7種類の「純粋周波数形状」を用いて、動きの速さと曲率を1秒あたり133回の位置データで比較しました。
- この結果は日常動作への支援にどんな示唆を与えますか?
- 運動のリズムやスピード調整の支援が必要になる可能性があり、疲れにくさや書字・ジェスチャー・投球の安定性向上につながる可能性があります。
私たちは、何かを描くとき、無意識のうちに「ゆっくり」と「速く」を使い分けています。
丸い形を描くとき、角のようにカーブが強い部分では自然とスピードが落ち、直線に近い部分では少し速くなります。
この「スピードと曲がり具合の関係」は、長年にわたって運動科学の分野で知られてきた法則に従うことが多いとされています。
では、この法則は自閉症のある人にも、同じように当てはまるのでしょうか。
英国バーミンガム大学などの研究チームは、この問いに正面から取り組みました。
彼らは、自閉症のある成人21名と、年齢・IQ・性別を一致させた非自閉症の成人19名に、タブレット上でさまざまな形をなぞってもらい、その動きを詳細に分析しました。
単なる「丸」だけではありません。
らせん、二重にループした形、花びらのような形、楕円、丸みのある三角形、丸みのある四角形など、曲がり方の性質が異なる7種類の図形を用いました。
これらは「純粋周波数形状」と呼ばれ、複雑な動作を分解したときの基本単位のようなものです。
研究チームは、スタイラスの先端の位置を1秒間に133回という高い精度で記録し、動きの「速さ」と「曲率(どれくらい強く曲がっているか)」の関係を数学的に計算しました。

結果は明確でした。
自閉症のある参加者は、非自閉症の参加者に比べて、「速さと曲率の関係の傾き」が有意に大きかったのです。
つまり、直線部分ではより速く加速し、角に近づくとより強く減速する傾向が見られました。
重要なのは、これは「形が違った」のではないという点です。
描かれた軌跡そのものの曲がり具合には、両群で差はありませんでした。
違っていたのは、あくまで「スピードの変化の仕方」でした。
自閉症のある人は、より高い最大速度まで加速し、より低い最小速度まで減速していました。
言い換えれば、「速いところはより速く」「遅いところはより遅く」動いていたのです。
さらに研究チームは、フーリエ変換という方法を用いて、スピード変化の「周波数構造」も調べました。
楕円を描くときには、理論上、特定の周波数にエネルギーが集中します。
非自閉症の参加者では、そのピークは鋭く、狙った周波数にきれいに集中していました。
一方、自閉症の参加者では、ピークが広がっていました。つまり、スピード変化がより幅広い周波数帯に分布していたのです。
これは、身体が脳からの運動信号をどのように「フィルタリング」しているかの違いを示唆する可能性があります。
聴覚の研究では、自閉症のある人の「聴覚フィルター」がやや広いことが報告されていますが、それと似た現象が運動の領域でも起きているかもしれない、という解釈が示されています。
ただし、この研究は「脳の計画の違い」なのか、「筋肉や関節など身体側の特性の違い」なのかまでは結論づけていません。
中枢神経系の違いか、末梢の生体力学的特性か、あるいは両方か。そこは今後の課題として残されています。
もう一つ興味深い点があります。

理論上の数学モデルが予測する値と、実際に観察された値は、両群とも完全には一致していませんでした。
これは、これまで「生物の運動は普遍的にパワーローに従う」とされてきた考え方に対して、慎重な再検討を促す結果でもあります。
この研究の意義は、単に「違いがあった」ということではありません。
複雑な動作、たとえば筆記体の文字を書くこと、会話中にジェスチャーをすること、ボールを投げること。
これらは一見まったく異なる動作ですが、実はこうした基本的な運動パターンの組み合わせで成り立っています。
今回、自閉症のある人の動きが、角周波数スペクトラム全体にわたって異なる傾向を示したということは、日常のさまざまな動作に共通する「運動スタイル」の違いが存在する可能性を示しています。
直線でより速く、角でより強く減速する。
もしこのパターンが日常動作にも当てはまるなら、動きはよりエネルギーを消費し、より疲れやすくなるかもしれません。
また、スピード調整と正確性は密接に関係しているため、書字や投球などの精度にも影響する可能性があります。
一方で、この「違い」は弱さや欠陥を意味するものではありません。
運動の制御の仕方が異なるという事実を、定量的に示したに過ぎません。

研究チームは、この知見が将来的にスクリーニングツールへ応用できる可能性にも触れています。
とくに、二重ループや単一ループ形状では群間差が大きく、自動化ツールへの組み込み候補になり得ると示唆しています。
ただし、サンプル数は比較的少なく、性別や文化背景による違いの検討もまだ十分ではありません。
また、成人での結果がそのまま子どもに当てはまるとは限りません。今後は発達段階での検証が不可欠です。
それでも、この研究は一つの重要な問いを投げかけています。
自閉症のある人の動きは、単に「不器用」なのではなく、スピードと曲がりの関係という、より根本的なレベルで異なる規則性をもっているのではないか。
もしそうだとすれば、支援の方向性も変わってきます。
ただ練習量を増やすのではなく、運動のリズムやスピード調整そのものに着目した支援が必要になるかもしれません。
私たちは、描かれた線そのものを見ることはできます。
しかし、その線の中でどのように加速し、どのように減速しているかまでは、ふだん意識することはほとんどありません。
今回の研究は、自閉症のある人の動きが「形」ではなく「スピードの変化の仕方」において異なる可能性を示しました。
直線ではより速く、角ではより強く減速する。
その特徴は、筆記、ジェスチャー、ボール投げなど、日常のさまざまな動作に影響しているかもしれません。
もし動きの中でエネルギーを多く使っているのだとすれば、疲れやすさの背景を理解する手がかりになります。
もしスピード調整の幅が大きいのだとすれば、書字の困難や不安定さの理由を説明できるかもしれません。

「努力不足」でも「不注意」でもなく、動きの制御そのものの違い。
その可能性を、今回の研究はデータで示しました。
支援を考えるときに必要なのは、「うまく書けるようにさせる」ことだけではありません。
どうすれば疲れにくくなるのか。
どうすれば無理なくスムーズに動けるのか。
動きのリズムやスピードの調整をどうサポートできるのか。
そうした具体的な支援の方向を考えるための、ひとつの重要な土台になる研究です。
自閉症のある人の動きには、独自の規則性があるかもしれない。
それを正確に理解することが、よりよい支援につながっていきます。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-026-37067-z)(画像:たーとるうぃず)
今まで、気づかれていなかった特性に光があたる。
よりよい支援につながることを期待しています。
(チャーリー)




























