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自閉症の人が「ふれあい」を避ける理由。モノとの接触との区別

time 2025/05/20

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自閉症の人が「ふれあい」を避ける理由。モノとの接触との区別

この記事が含む Q&A

自閉症の人たちはふれあいを「つらい」または「不快」と感じるのはなぜですか?
脳が「誰とふれあっているか」を正しく認識できず、「社会的意味づけ」が困難だからです。
研究によると、自閉症モデルのマウスは社会的ふれあいを「ただの触覚」として処理し、特別な反応を示さないのはなぜですか?
脳の神経活動が「誰と触れているか」の識別に関与する部分で正常な反応を示さないためです。
ふれあいに対する価値観や好みの差を理解することは、どう役立ちますか?
その人の感じ方や脳の働きに合わせたより適切な交流方法を導きやすくなります。

私たち人間にとって、「さわる」「触れ合う」という行為は、ただの動作ではありません。
手を握る、肩に触れる、抱きしめる――こうしたふれあいは、感情や思いやりを伝える手段でもあります。
赤ちゃんが母親の肌にふれながら安心するように、人は生まれながらにして、ふれあいを通じて「つながり」を感じています。

ところが、自閉スペクトラム症(ASD)と診断される人たちの中には、ふれあいを「つらい」「不快」と感じる人が少なくありません。
たとえば、手をつなぐのを嫌がる、誰かに突然触られると驚いてしまう――こうした反応は、自閉症のある人の中でよく見られる特徴の一つです。

では、なぜふれあいを「心地よい」と感じる人が多い中で、自閉症の人たちはそれを避けようとするのでしょうか。
今回、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームがこの問いに正面から向き合いました。

この研究は、マウスを使って「社会的ふれあい」が脳の中でどのように処理されるのか、そして自閉症モデルのマウスではその処理がどう異なるのかを、非常に詳細に調べたものです。

自閉症の人たちがふれあいを避けるのは、「単に嫌がっている」のではなく、「脳がふれあいをどう捉えるか」が根本的に違っているかもしれない。
今回の研究は、そうした視点を脳の神経活動という科学的な根拠で支える、画期的な内容となっています。
研究チームは「社会的ふれあいの神経的な意味づけと、自閉症モデルでの変化」について明らかにしました。

研究に使われたのは、通常のマウスと「Fmr1遺伝子」を欠損させたマウスです。
後者は、「フラジャイルX症候群」と呼ばれる遺伝性の知的障害や自閉症の原因となる疾患のモデルとして広く使われており、人の自閉症と似た行動特性を持つことで知られています。

まず研究チームは、通常のマウスに「他のマウスと触れ合う」という社会的な接触と、「物体と触れる」という非社会的な接触の両方を体験させました。
そしてそれぞれの状況で、脳内の神経がどのように反応しているかを、非常に高精度な神経記録装置を用いて観察しました。

すると、通常のマウスでは「他のマウスと触れる」とき、脳の中で特定のパターンが活性化していました。
このパターンは、非社会的な接触とは明確に異なるものでした。
つまり、「誰かとふれあっている」と脳が判断したときにだけ働く、特別な神経活動が存在していたのです。

一方で、自閉症モデルのマウスではどうだったのでしょうか。
同じように他のマウスとふれあっても、そのときに脳が示す神経活動は、通常のマウスのような「社会的ふれあい専用」の反応を示さなかったのです。
むしろ、「物と触れた」ときとほぼ同じような脳の反応が見られました。

これが意味するのは、「自閉症のある脳では、『相手が誰か』を区別する神経的な処理がうまくいっていない可能性がある」ということです。

さらに興味深いことに、ふれあいに対する「好み」にも違いがありました。
通常のマウスは、時間が経つにつれて「物との接触は避けたい」「でも他のマウスとのふれあいは好ましい」といった行動の変化を見せていました。
ところが自閉症モデルのマウスでは、「他のマウスとのふれあい」も「物との接触」と同じように避ける傾向が強かったのです。

つまり、「ふれあい=嫌なもの」と認識されているような行動が見られたのです。

この違いが生まれる背景には、脳の中にある「vS1(一次体性感覚野)」と呼ばれる領域が関わっていました。
ここは、皮膚感覚や触覚を処理する場所として知られており、「さわった感覚」を脳に伝える重要な部分です。

通常のマウスでは、他のマウスに触れたとき、vS1の中でも「社会的ふれあいに特化した神経」が反応していました。
ところが、自閉症モデルのマウスでは、そうした神経の選択性が失われていたのです。
つまり、「何かに触った」ということは脳が感知しているけれど、それが「誰かとのふれあいなのか、ただの物との接触なのか」を区別することができていないのです。

この研究は、社会的なふれあいが「ただの感覚」ではなく、「誰とふれあっているか」によって脳の処理の仕方が根本的に変わることを示しています。
そして、そのような「社会的な意味づけ」がうまくいかないことが、自閉症の人たちがふれあいを避ける理由の一つかもしれないという新しい視点を与えてくれました。

また、研究チームは脳内の他の領域、たとえば線条体や扁桃体といった「感情」や「動機づけ」に関係する部分も調べました。
ここでも、自閉症モデルのマウスでは「ふれあいに対する好み」を形成するための神経活動が弱まっていることが明らかになりました。

私たちは、子どもがぬいぐるみを抱いて安心する姿、大切な人と手をつないで歩く時間、誰かにそっと背中をさすられる優しさ――こうした日常的な場面を通じて、「ふれあい」に価値を見出しています。

しかし、今回の研究が示したように、「ふれあい」がすべての人にとって同じ意味を持つわけではありません。
とくに自閉症のある人たちにとっては、私たちが当たり前のように感じる「ふれあいの心地よさ」が、そもそも脳の中で「社会的なもの」として認識されていない可能性があるのです。

これは、「嫌がっているから触らないようにしよう」といった単純な対応ではなく、「その人の感じ方そのものが違っているかもしれない」という、より深い理解につながります。

私たちが自閉症について理解を深めるとき、行動の「見え方」だけでなく、その背景にある「感じ方」や「脳の働き方」まで想像できるかどうかが、大きな意味を持ちます。

今回の研究は、まさにそうした視点を私たちに与えてくれました。

「ふれあい」とは何か。それは単なる皮膚同士の接触ではなく、「相手を感じ、つながる」という脳の中の営みです。
その営みのあり方が人によって異なることを理解することで、私たちはより深く、自閉症のある人たちの世界を知ることができるかもしれません。

(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)

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(チャーリー)


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