
この記事が含む Q&A
- アダプティブ・ヨガはASDとIDの子どもたちに効果がありますか?
- 研究によれば、感情や注意の問題に改善が見られる傾向があります。
- 家庭でヨガを続けることは子どもにとって安全ですか?
- はい、子どもに無理のない範囲で行われる限り、安全とされています。
- どのような具体的な変化が保護者から報告されていますか?
- 夜眠れるようになったり、落ち着きや目を見て話すことが増えたと報告されています。
自閉スペクトラム症(ASD)と知的障害(ID)をあわせもつ子どもたちは、こころの発達にさまざまな困難をかかえています。
こうした子どもたちの中には、不安やかんしゃく、こだわり行動などによって、日常生活に支障をきたす場合もあります。
さらに、言葉によるやりとりが苦手だったり、感情のコントロールが難しかったりと、学びの場や家庭での関わりにも多くの工夫が必要とされます。
近年、こうした子どもたちのために、ヨガを応用した新しい支援のかたちが注目されています。
ヨガはもともと身体とこころの調和をめざす実践ですが、その柔軟性ゆえに、個々の能力にあわせて工夫することが可能です。
インドの研究チームは、このような「アダプティブ・ヨガ」を用いて、ASDとIDをもつ子どもたちの心理的な健康にどのような影響があるのかを、科学的に検証しました。
この研究は、インドのS-VYASA大学とNIEPMD(複数障害者の自立支援を担う国立機関)との共同プロジェクトとして行われ、対象となったのは7歳から12歳の男女6名です。
全員がASDとIDの診断を受け、かつ軽度の重症度とされている子どもたちで、保護者とともに研究に参加しました。
なお、6名のうち2名は言葉を話さず、残る4名も言葉によるやりとりがきわめて限られていました。
研究の方法は「単一事例実験デザイン(SCED)」という形式が用いられました。
これは、ひとりひとりの変化をくわしく追いながら、介入(この場合はヨガ)が行動や能力にどのような変化をもたらすかを科学的に調べる方法です。
3つのフェーズで構成されており、まず最初は「介入なしの期間(ベースライン)」が設けられ、次にヨガの先生と保護者が一緒におこなう「施設内でのヨガ介入期間」、その後は家庭に戻って保護者だけとヨガを続ける「家庭でのヨガ継続期間」となっていました。
ヨガの実践は1回あたり45~60分、週5回のペースで180日間続けられました。
最初の120日は施設で、残る60日は家庭で行われ、途中で介入の内容が記録された計画書を保護者に引き継ぐかたちで進められました。
また、家庭フェーズ中にも2週間に1度、ヨガの先生が家庭訪問して調整を行いました。
使用されたヨガのプログラムは、インド古来の『パタンジャリ・ヨーガ・スートラ』に基づいており、子ども一人ひとりの状態にあわせて調整されました。
とくに「スカム・スティラム(快適で安定した状態)」という考え方を重視し、ポーズの形にとらわれるのではなく、その子が気持ちよく無理なく動けるように工夫されています。
また、ヨガの実践は単なる運動ではありません。
動きと呼吸、そして注意(アウェアネス)を一体として進めることで、感覚の統合や情緒の安定をうながすものとされています。
この研究でも、動作のパターンを保護者と一緒に形作ったり、呼吸を自然に整えたり、短い音や数を唱えながら集中をうながしたりといった工夫が随所に盛り込まれました。
実際の評価には、「インド自閉症評価スケール(ISAA)」と「インド精神遅滞児童行動評価尺度(BASIC-MR)」という2つの標準的な尺度が使われました。
前者は社会性や感情反応、言語、行動、感覚、認知の6領域を、後者はスキル面(言語、読み書き、数、生活動作など)と問題行動(破壊、癇癪、自傷、多動など)を評価します。
評価は2週間ごとに実施され、全期間で合計26回の評価が行われました。
研究者たちは、各フェーズの前後でこれらのスコアにどのような変化があったかをグラフや統計を使って分析しました。
その結果、以下のような傾向が明らかになりました。
- 「多動・注意欠如」の項目では、6人中5人において明らかな改善
- 「自傷行動」「癇癪」「奇異な行動」なども多くの子どもで減少傾向
反対に、「言語」や「読み書き」のようなスキルに関しては、一部の子どもで改善が見られたものの、すべての子どもにおいて有意な変化が見られたわけではありません。
統計的な効果量も検討され、「Cohen’s d」や「NAP(Nonoverlap of All Pairs)」という指標を用いたところ、全体の44%の指標で「有意な効果」、25%で「中程度の効果」が確認されました。
一方で、12%はむしろ逆効果となっており、すべての指標でプラスの変化があったわけではないことも注記されています。
また、保護者からは「ヨガを続けているあいだは落ち着いていた」「目を見て話すようになった」「夜ぐっすり眠れるようになった」といった具体的な変化が報告されました。
とくに日々のヨガセッションを通じて、子どもと保護者のあいだに安心感が生まれたことは、心理的な安全基地としての意味でも大きかったと考えられます。
一方で、この研究には限界もあります。
たとえば、家庭でのヨガ継続の実施状況については明確な記録がなかったため、効果の持続性については今後の検討課題とされています。
また、参加者数も6名と少数であり、より大きなサンプルでの追試が期待されています。
それでも、この研究はアダプティブ・ヨガというアプローチが、ASDとIDをもつ子どもたちのこころの健康に一定の影響を与えうることを、科学的に示したはじめての本格的な取り組みとして高く評価されます。
柔軟で丁寧な対応ができるヨガという手段が、特別な支援を必要とする子どもたちにとっても、有望な支援策のひとつとなるかもしれません。
研究チームは、「機能の向上をめざすなら、かたちにこだわらず、その子にとって快適で安全なやり方がもっとも大切」と繰り返し述べています。
そして、保護者との共同実践を通じて、家庭のなかでも自然に続けられる方法を見つけることが、今後の支援の鍵になると考えられています。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
親と子が一緒に、無理なく、楽しく、体を動かせば、理屈なしにいいはずです。
一緒に体を動かしましょう。
(チャーリー)