
この記事が含む Q&A
- 発達性協調運動障害(DCD)について知っていますか?
- DCDは子どもの運動の調整や協調に困難を伴う発達障害です。
- DCDの診断を早めるためにはどうしたらよいですか?
- 医師や保健師による早期の運動チェックと段階的な診断体制の整備が必要です。
- 子どもたちが自信を持って学校生活を送れるためにできることは何ですか?
- 個別支援や合理的配慮を取り入れ、笑顔で参加できる場を増やすことです。
靴ひもがうまく結べない、きれいな字が書けない、体育の授業でまっすぐ立っていられない──。
こうした子どもの困りごとは、つい「不器用だな」「がんばりが足りないのでは」と見なされがちです。
しかし、実はこうした特徴の背景には「発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)」という、発達の特性が関係していることがあります。
イギリスではおよそ20人に1人、約5%の子どもに見られるとされており、ADHDと同じくらい身近な状態です。
最近のイギリスの調査では、この障害が子どもたちの生活にどれほど深く影響しているのか、改めて明らかになりました。
家庭での生活、学校での学び、そして将来の進路や職業まで、多岐にわたる困難が浮かび上がっています。
複数の英国大学、ヨーク・セント・ジョン大学を中心に、オックスフォード・ブルックス大学やマンチェスター・メトロポリタン大学の研究者らによる研究チームが、イギリス国内の240人以上の保護者を対象に調査を行いました。
その結果、DCDのある子どもを育てる家庭が直面している現実が、はっきりと見えてきました。
まず、大きな問題のひとつが「診断までの時間」です。DCDの症状がある子どもは多いのに、その特性が知られておらず、適切な支援につながるまでに平均で3年近くかかっていました。
さらに、明らかにDCDの兆候が見られるにもかかわらず、まだ診断プロセスにすら入っていない子どもも5人に1人という割合で存在していました。
診断が下ると、親たちの多くはそれを歓迎しています。
実に93%が「子どもの困難の原因がはっきりした」と答え、理解と納得につながったといいます。
しかし、実際の支援に結びつくかというと、それはまた別の話です。
「家庭では役に立つけれど、学校では何も変わらない」と感じている保護者が多く、そのもどかしさが伝わってきます。
DCDにともなう運動の困難は、日常生活のさまざまな場面に影響を与えます。
たとえば、食事、着替え、ハサミの使用、そして文字を書くことなど、毎日の基本的な行動のひとつひとつに苦労があります。
ただの「ちょっとした不便」ではなく、それが積み重なることで、疲労やいら立ち、そしてときには仲間外れなどの社会的な孤立につながってしまいます。
運動量にも影響があります。
この調査に参加した子どもたちのうち、推奨される運動量(イギリスでは1日60分以上の身体活動が推奨されています)を満たしていたのは、わずか36%でした。
親たちは、スポーツや体を動かすことから早い段階で離れてしまうことが、将来的な健康習慣に悪影響を与えるのではないかと心配しています。
こうした身体的な困難に加えて、心理的な影響も深刻です。
調査では、保護者の90%が「子どものメンタルヘルスに不安がある」と答えました。
DCDのある子どもは、同年代の子どもたちに比べて、不安感や自尊心の低さ、孤独感を抱える割合が高いことがわかっています。
ある親は、子どもが「どうせ選ばれないのに、なんでやるの?」と聞いてきたと語っています。
また、「自分はこの世界に必要ない」「自分はバカなんだ」と思い込んでしまう子もおり、こうした言葉に心を痛める保護者の声が数多く寄せられています。
DCDは成長とともに自然に消えるものではありません。
大人になっても影響が続く「生涯にわたる状態」です。
ただし、適切なサポートがあれば、子どもたちは自分の特性に合わせた工夫を身につけ、自信をもって生活することが可能です。
作業療法(OT)や理学療法(PT)など、個別に合わせた療育支援や、学校内での合理的配慮が、その子の自己肯定感や自立度、生活の質を大きく向上させるのです。
ところが現実には、学校現場ではDCDへの対応が不十分です。
たとえば、教員の81%は「子どもの運動に問題がある」と認識しているにもかかわらず、個別の学習支援計画を作成しているケースは60%に満たない状況です。
支援のあり方もまちまちです。
なかにはパソコンやタブレットなどの補助機器を使えたり、サポートスタッフがついたりする子もいますが、多くの子どもたちはほとんど支援のないまま困難に直面しています。
とくに体育の授業では支援が届きにくく、保護者の43%が「体育の時間に支援がなかった」と答えており、DCDを理解していない教師に苦しむ例も見られました。
こうした状況が、学業や将来に与える影響は大きく、保護者の8割が「子どもの教育に悪影響がある」、また同じく8割が「将来の就職に不利になるのでは」と不安を抱いています。
療育による支援は効果的です。
作業療法や理学療法は、実際に「子どもの生活が大きく改善した」という声も多く寄せられました。
しかし、それらにたどりつくまでには多くのハードルがあります。
待機期間が長かったり、保険適用外で高額な自己負担が生じたりするケースが少なくなく、なかには年間で数十万円単位の費用を払っている家庭もありました。それでも「支援が十分ではない」と答えた家庭は78%にものぼっています。
子どもだけでなく、保護者自身の生活にも影響が及んでいます。
68%の親が「常に精神的な負担を感じている」と答えており、半数近くが「家族としての活動が制限されている」と話しています。
このような現状を変えていくには、社会全体での取り組みが必要です。
調査報告では、5つの重要な改善点が提示されました。
1. 認知の向上
DCDはADHDや自閉スペクトラム症などと同様に、一般的な発達の特性です。しかし、まだまだ知られておらず、誤解も多くあります。子どもを取り巻く地域社会、学校、医療関係者など、幅広い層への啓発が不可欠です。
2. 診断体制の整備
初期の運動のつまずきを、医師や保健師が早く発見できるように、段階的でわかりやすい診断の手順や紹介ルートを整備する必要があります。日本でも、乳幼児健診などでチェック体制の見直しが求められます。
3. 教育の現場での理解と対応
すべての教員がDCDについて基本的な知識と、現場で活かせる支援方法を学ぶ機会が必要です。個別の配慮をどう取り入れるかを考える研修も、今後の必須課題です。
4. メンタルヘルスとの連携
運動の困難と心の健康は、密接につながっています。身体の特性と心理的なケアを切り離さずに、一体として支援していく仕組みづくりが求められます。
5. 早期支援の実現
診断を待たずに支援が始められる体制が必要です。困難が見えた段階ですぐにアプローチすることが、長期的な心身の健康を守る鍵となります。
DCDのある子どもたちは、明るく、力があり、さまざまな可能性を秘めています。
ただ、たとえば試験のときに「答えはわかっているのに、制限時間内に書ききれない」ことで、本来の力を示せないことがあります。
その結果、点数では評価されず、「できない子」というレッテルを貼られてしまうことがあるのです。
これでは、本人の自信や未来への意欲が損なわれてしまいます。
「このまま放っておかれれば、子どもたちは静かに苦しみ続けるしかない」──。
ある保護者の言葉は、私たちに大切な問いを投げかけています。
DCDの子どもたちが、安心して自分らしく育っていけるように。私たち大人の理解と行動が、いま問われているのです。
(出典:THE CONVERSATION)(画像:たーとるうぃず)
「運動が下手、苦手」
それに関しては、笑いものにしても許される、そんな感じの風潮はもうなくなってほしいと思います。
私には少しも面白くもなく笑えない「お笑い番組」でも、いい大人たちがそんなことをしているのが目に入ります。
学校での体育が嫌いな子どもがどれだけいることか。
「下手でも不器用でも、一緒に笑いながら、みんなで楽しめる」
学校での運動、成長する機会はそうあってほしいと願います。
(チャーリー)