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親が仕事で接する化学物質。自閉症の子の行動や認知との関連

time 2025/08/09

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親が仕事で接する化学物質。自閉症の子の行動や認知との関連

この記事が含む Q&A

妊娠前後の親の職場での化学物質曝露は、ASD児の症状の重さに影響しますか?
はい。母親のフェノール曝露でCSSが平均1.84ポイント上昇、父親のエチレンオキシド曝露で1.25ポイント上昇、父親のプラスチック・ポリマー曝露で0.83ポイント上昇など、複数の曝露が有意に関連します。
どの曝露が行動・認知・適応スキルに影響を与えますか?
主に父親の自動車・機械用流体・フェノール・プラスチック曝露がABCの悪化と関連し、父親のプラスチック曝露は認知機能全般の低下と強く関連します。
研究はどのような対策や今後の方向性を示していますか?
親の職場環境での曝露低減がASD児のリスク低減に寄与する可能性を指摘し、曝露の組み合わせ効果を含めたさらなる調査が必要とされています。

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会性やコミュニケーションの難しさ、そして行動や興味のかたよりを特徴とする発達のあり方です。
しかし、その症状の現れ方や重さは人によって大きく異なります。
ASDの成り立ちには遺伝的な要因と環境的な要因の両方が関わると考えられています。

その中で、妊娠中や妊娠前の親が職場で化学物質にさらされることが、子どものASDの症状や発達にどのような影響を与えるのかについては、これまで十分に調べられてきませんでした。

これまでの研究では、親の仕事での化学物質曝露とASD診断との関連が指摘されたことはありましたが、ASDの重症度や、併せてみられる行動上の特徴、認知や適応スキルとの関係までは踏み込んで検討されていませんでした。

今回紹介するのは、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームが共同で行った調査です。
この研究は、その空白を埋めることを目的として実施されました。

対象となったのは、カリフォルニア州で行われたCHARGE研究に参加した532人のASDのある子どもとその親です。
子どもは2歳から5歳の間で、妊娠前3か月から出産までの期間における両親の職業上の化学物質曝露が詳しく調べられました。
そのうえで、ASDの重症度、行動面の特徴、認知機能、そして日常生活を送るうえでの適応スキルとの関連が分析されました。

職業上の曝露は、16種類の化学物質や化学物質群について評価されました。

具体的には、溶剤(塗料化学物質や脱脂剤を含む)、フェノール、プラスチック・ポリマー、金属、農薬、医薬品、エチレンオキシド、麻酔ガス、自動車・機械用流体、切削・機械加工液、消毒剤や洗浄剤、放射線などです。

曝露の頻度(週あたりの回数)、強度(濃度や扱い方)、勤務時間をもとに累積曝露スコアが計算されました。
このスコアは、曝露がない場合を0とし、高いほど長時間かつ高濃度で化学物質にさらされていたことを意味します。
評価は、経験豊富な産業衛生士2名が独立して行い、その後合意を得る方法がとられました。

子どものASDの重症度は、ADOS-2という専門的な観察評価から算出される「較正重症度スコア(CSS)」で測定されました。
これは年齢や発達水準の影響を受けにくく、ASDの中核的な症状の程度を比較的純粋に示す指標です。

また、併せてみられる問題行動は「アバレント・ビヘイビア・チェックリスト(ABC)」で、認知機能は「マレン早期学習尺度(MSEL)」で、日常生活や社会性を含む適応スキルは「ヴィネランド適応行動尺度(VABS)」で評価されました。
ABCは易刺激性、社会的引きこもり、常同行動、多動、不適切な発話の5つの下位尺度を持ち、MSELは表出言語、受容言語、視覚認知、巧緻動作の4領域と総合スコアで構成されます。
VABSはコミュニケーション、社会化、日常生活スキル、運動スキルの4領域と総合スコアを算出します。

解析の結果、いくつかの化学物質曝露がASD重症度と有意に関連していました。

母親のフェノール曝露はCSSスコアを平均1.84ポイント上昇させ、父親のエチレンオキシド曝露は1.25ポイントの上昇、父親のプラスチック・ポリマー曝露は0.83ポイントの上昇と関連しました。

また、母親か父親のいずれかが医薬品に曝露していた場合は0.46ポイント、フェノール曝露では1.28ポイントの上昇がみられました。
CSSは4から10までの範囲をとるため、これらの差は臨床的にも無視できない大きさと考えられます。

行動面では、父親の自動車・機械用流体やフェノール、プラスチック曝露などが、易刺激性、多動、常同行動のスコア上昇と関連しました。

とくに両親ともに医薬品に曝露していた場合、多動スコアの大きな上昇が見られました。
逆に、母親の麻酔ガスや金属への曝露、父親の農薬やフェノール曝露などは、一部の行動スコア低下(改善)と関連する結果もありました。

認知機能では、父親のプラスチック曝露が強くかつ一貫して、表出言語、受容言語、視覚認知、巧緻動作のすべての下位尺度と総合スコアの低下と関連しました。
その影響の大きさはおよそ1標準偏差にも達し、学習や日常生活への適応に深刻な影響を及ぼしうることが示唆されました。

母親の医薬品曝露は例外的に、言語スキルの向上と関連する結果が出ています。
その他、父親のエチレンオキシドや麻酔ガス曝露は、特に表出言語スコアの低下と関連しました。

適応スキルでは、父親のプラスチック曝露がコミュニケーション、社会化、運動スキル、そして総合スコアの低下と関連しました。
また、父親の切削・機械加工液曝露は、日常生活スキルと運動スキルの低下と結びついていました。
両親いずれかのエチレンオキシド曝露も、コミュニケーションや日常生活スキルの低下と関連しました。

プラスチック・ポリマー曝露は、この研究で最も一貫して悪影響を示した曝露の一つでした。
プラスチックやポリマーにはフタル酸エステル、ポリエチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル(PVC)などが含まれ、職場だけでなく日常生活の多くの製品にも存在します。

これらの化学物質や微細なプラスチック粒子は胎盤や血液脳関門を通過し、内分泌かく乱、酸化ストレス、炎症、神経発達関連遺伝子の発現変化などを引き起こすことが知られています。その結果、言語や学習、社会的行動、注意機能に影響し、ASDやADHDのリスクに関わる可能性があります。

 

まとめ:親の職業上の化学物質曝露とASD児への影響
分類 曝露物質 曝露者 主な影響 影響の大きさ・特徴
ASD重症度(CSSスコア) フェノール 母親 CSS上昇 ▼+1.84ポイント
エチレンオキシド 父親 CSS上昇 ▼+1.25ポイント
プラスチック・ポリマー 父親 CSS上昇 ▼+0.83ポイント
医薬品 母または父 CSS上昇 ▼+0.46ポイント
フェノール 母または父 CSS上昇 ▼+1.28ポイント
行動(ABCスコア) 自動車・機械用流体 父親 易刺激性・多動・常同行動の増加 ▼悪化
フェノール 父親 易刺激性・多動・常同行動の増加 ▼悪化
プラスチック・ポリマー 父親 易刺激性・多動・常同行動の増加 ▼悪化
医薬品 両親とも 多動スコア大幅上昇 ▼悪化
麻酔ガス 母親 一部行動スコア低下(改善) ▲改善
金属 母親 一部行動スコア低下(改善) ▲改善
農薬 父親 一部行動スコア低下(改善) ▲改善
フェノール 父親 一部行動スコア低下(改善) ▲改善
認知機能(MSEL) プラスチック・ポリマー 父親 表出言語・受容言語・視覚認知・巧緻動作・総合スコア低下 ▼約−1SD(悪化)
医薬品 母親 言語スキル向上(例外的) ▲改善
エチレンオキシド 父親 表出言語スコア低下 ▼悪化
麻酔ガス 父親 表出言語スコア低下 ▼悪化
適応スキル(VABS) プラスチック・ポリマー 父親 コミュニケーション・社会化・運動スキル・総合スコア低下 ▼悪化
切削・機械加工液 父親 日常生活スキル・運動スキル低下 ▼悪化
エチレンオキシド 母または父 コミュニケーション・日常生活スキル低下 ▼悪化

 

今回の研究は、親の職業上の化学物質曝露がASD児の症状の重さや発達の様々な側面に影響する可能性を示しています。
ただし、曝露と影響の関係は化学物質の種類や量、曝露のタイミングによって異なり、すべてが悪影響というわけではありません。

一部には、特定の曝露が行動スコアの改善と関連する例もありました。
それでも、プラスチック・ポリマーやフェノール、エチレンオキシド、自動車整備関連化学物質などは、複数の領域にわたり悪影響を示す傾向があり、特に注意が必要とされます。

研究チームは、これらの結果を踏まえ、妊娠前後の親の職場環境における化学物質曝露の低減が、ASD児の症状や発達に関するリスク低減につながる可能性を指摘しています。
また、複数の化学物質が同時に存在する職場では、曝露の組み合わせが影響を強める可能性もあり、今後さらに詳細な調査が必要とされています。

今回の研究は、親の職業上の化学物質曝露がASD児の症状の重さや発達の様々な側面に影響する可能性を示しています。
ただし、曝露と影響の関係は化学物質の種類や量、曝露のタイミングによって異なり、すべてが悪影響というわけではありません。

一部には、特定の曝露が行動スコアの改善と関連する例もありました。
それでも、プラスチック・ポリマーやフェノール、エチレンオキシド、自動車整備関連化学物質などは、複数の領域にわたり悪影響を示す傾向があり、特に注意が必要とされます。

研究チームは、これらの結果を踏まえ、妊娠前後の親の職場環境における化学物質曝露の低減が、ASD児の症状や発達に関するリスク低減につながる可能性を指摘しています。
また、複数の化学物質が同時に存在する職場では、曝露の組み合わせが影響を強める可能性もあり、今後さらに詳細な調査が必要とされています。

(出典:International Journal of Hygiene and Environmental Health DOI: 10.1016/j.ijheh.2025.114613)(画像:たーとるうぃず)

米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チーム。

さらなる調査が必要とのことですが、確かなところの研究結果なので無視できません。

また、すべてが悪化ではなく、「改善」が見られるところは興味深いですね。

遺伝と環境が絡み合う自閉症の複雑な原因と早期診断の重要性

(チャーリー)


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