
この記事が含む Q&A
- ニューロフィードバックとは何ですか?
- 脳波をリアルタイムで計測し、子どもが見たり聞いたりできる形で自己調整を練習する訓練です。
- ADHDに対するニューロフィードバックの効果はどの程度ですか?
- 抑制制御とワーキングメモリを改善し、1260分以上の訓練後に効果が現れ、6〜12か月後もある程度持続する可能性があります。
- 他の治療法と組み合わせると効果は高まりますか?
- 薬や認知訓練と併用することで効果が高まる可能性があり、家庭や学校と連携して長く継続することが重要です。
ADHD(注意欠如・多動症)の子どもは、忘れ物やうっかりミスが多い、気が散りやすい、じっとしていられないといった特徴を持つことがあります。
世界ではおよそ10人に1人の子どもがADHDだといわれていますが、その半分くらいの子どもに「実行機能(やるべきことを頭の中で整理して、計画を立てて実行する力)」の弱さがあります。
この「実行機能」には、大きく分けて3つの要素があります。
- 「抑制制御(よくせいせいぎょ)」といって、やりたいことや思いついたことをすぐに行動に移さず、一旦ブレーキをかける力です。
- 「ワーキングメモリ(作業記憶)」と呼ばれる、一時的に情報を頭の中に置いておく力です。たとえば、口頭で聞いた指示を覚えながら行動するのはこの力を使います。
- 「認知的柔軟性(にんちてきじゅうなんせい)」といって、状況に合わせて考え方ややり方を切り替える力です。
これらの力は勉強だけでなく、感情のコントロールや友達との関係にも深く関わります。
うまく働かないと、学習の遅れや行動のトラブル、長期的なストレスや不安にもつながることがあります。
ADHDの治療では薬がよく使われますが、薬以外の方法にも関心が高まっています。
そこで注目されているのが「ニューロフィードバック」です。
ニューロフィードバックは、脳の活動をリアルタイムで計測し、その情報を子ども自身が見たり聞いたりできる形にして伝えることで、脳の働きを自分で整える練習をする方法です。
実際の流れをイメージしてみましょう。
まず、子どもの頭に小さなセンサーを装着します。
これは脳波をキャッチするためのもので、痛みもなく、帽子をかぶるような感覚です。
このセンサーが脳から出ている電気信号(脳波)を測定し、その状態をコンピュータに送ります。
コンピュータの画面にはゲームやアニメーションが映し出されます。
たとえば、キャラクターが障害物を避けながら進むゲームや、熱気球が空にゆっくりと上昇していく映像です。
脳の状態が「望ましい状態」に近づくと、キャラクターはスムーズに進み、気球はどんどん上がっていきます。
逆に、集中が途切れたり、余計な脳波が強まったりすると、キャラクターが止まってしまったり、気球が下降してしまいます。
子どもは繰り返しの練習を通じて、「キャラクターを動かす」や「気球を上げる」コツを自然に身につけ、それが脳の自己調整能力を高めることにつながります。
この方法は、脳の状態を意識的にコントロールする訓練、つまり「脳の筋トレ」のようなものです。
筋肉を鍛えるのに時間と繰り返しが必要なように、脳の働きを変えるためにも、一定期間の継続的な練習が欠かせません。
今回紹介するのは、中国・北京の首都体育学院(Capital University of Physical Education and Sports)を中心に、福建師範大学(Fujian Normal University)やイギリス・バーミンガム大学(University of Birmingham)の研究者たちによる国際共同研究です。
2000年から2024年の間に発表された研究を集めて分析し、ADHDの子どもに対するニューロフィードバックの効果を検証しました。
集められた研究は全部で17件、合計939人の子どもが参加していました。
半分がニューロフィードバックを受け、もう半分は受けなかったり、別の方法を試したりしていました。
分析の結果、ニューロフィードバックを受けた子どもは、そうでない子どもに比べて「抑制制御」と「ワーキングメモリ」がはっきり改善していました。
効果の大きさを数値で見ると、ニューロフィードバックを受けた子どもは、受ける前にクラスでちょうど真ん中くらいの位置だったとすると、訓練後には上位およそ15〜20%の位置まで成績や能力が向上する程度の改善が期待できるレベルでした。
ただし、効果を出すためには訓練時間が重要でした。
総訓練時間が1260分(1回30分×週3回でおよそ14週間)未満の短期間ではあまり変化がありませんでしたが、それ以上続けた場合は効果がはっきり出ました。
つまり、ある程度の長さをかけてじっくり取り組むことが必要です。
さらに、訓練を終えてから6〜12か月後にも効果が残っているかを調べたところ、「ワーキングメモリ」はかなり維持され、「抑制制御」も少し残っていました。特にワーキングメモリの改善は長続きする可能性が高いと考えられます。
ニューロフィードバックにはいくつかの方法があります。
たとえば「シータ・ベータ比(TBR)訓練」では、脳波の中でシータ波を減らし、ベータ波を増やすように練習します。
これは集中力や衝動のコントロールに関係しています。
また、「スローコルチカルポテンシャル(SCP)訓練」は、脳のゆっくりとした電位変化を調整して、注意や行動のコントロールを高めます。
こうした方法は、脳が新しい働き方を覚える力(神経可塑性)を高めることを狙っています。
この研究ではニューロフィードバック単独でも効果がありましたが、他の方法と組み合わせるとさらに効果が高まる可能性があります。
たとえば、認知訓練(頭の使い方を鍛える練習)と組み合わせると、ニューロフィードバックが得意なワーキングメモリの改善と、認知訓練が得意な抑制制御の改善を同時に狙えます。
薬との併用でも、症状の軽減や機能の向上が見られることがあります。
まとめると、この研究は次のことを示しています。
* ニューロフィードバックはADHDの子どもの「抑制制御」と「ワーキングメモリ」を改善できる
* 効果を出すには1260分以上の訓練が必要
* 効果は半年から1年程度続く可能性がある
* ワーキングメモリのほうが長く効果が残りやすい
* 他の治療法と組み合わせることで効果が高まりやすい
ニューロフィードバックは、薬に頼らずに脳の働きを整える一つの方法として有望です。
ただし、効果を感じるまでには時間がかかるため、家庭や学校と連携しながら継続的に取り組むことが大切です。
親にとっては「焦らず、じっくり」が合言葉になりそうです。
(出典:Nature DOI: 10.1038/s41598-025-94242-4)(画像:たーとるうぃず)
困難を軽減する、薬だけに頼らない、別の安全な方法。
実用化が期待されますね。
(チャーリー)