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発達障害の子どもの8割以上に運動の困難。大規模研究が明らかに

time 2025/09/29

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発達障害の子どもの8割以上に運動の困難。大規模研究が明らかに

この記事が含む Q&A

COMBINEとは何を目的とする研究プロジェクトですか?
神経発達症を横断して「運動の特徴」を調べる大規模な国際データベース型研究です。
研究結果から子どもたちの運動困難はどの程度顕著でしたか?
全体の77%がレッドゾーン、8%がアンバーゾーン、グリーンゾーンは15%でした。
診断ごとの特徴や性別の傾向にはどのようなものがありましたか?
DCDは手先の器用さと全体の運動スコアが低く、ADHDは全体・バランスは比較的高いが8割以上が困難、ASDはエイミング&キャッチングが低く、出生時に女性だと投げる動作が低めの傾向が見られました。

ボールを投げると、なかなか相手に届かない。受け取ろうとしても、手からこぼれてしまう。
鉛筆を握って字を書くのに時間がかかる。
バランスをとるのが苦手で、よく転んでしまう。
こうした姿は、学校や家庭で日常的に見られるものかもしれません。

「ちょっと不器用なだけ」「運動が苦手な子はたくさんいる」と思われがちなこれらの特徴ですが、実は自閉症やADHDといった発達障害と深く関係していることがわかってきました。
ことばや注意の特徴に比べて、運動の問題は見過ごされることが多く、十分な評価や支援につながっていないのが現実です。

この課題に光を当てるため、アメリカのルイジアナ州立大学、テキサス大学アーリントン校、ミシガン大学の研究チームが中心となり、「COMBINE(コンバイン)」という大規模研究が始まりました。
COMBINEは「Consortium for Motor Behavior in Neurodivergence」の略で、さまざまな神経発達症を横断して「運動の特徴」を調べる国際的な共同データベースです。
今回発表された論文は、その最初の成果をまとめたものです。

研究に参加したのは262人の子どもや若者たちです。
3歳から16歳までの幅広い年齢層で、自閉症、ADHD、発達性協調運動障害(DCD)、小児期発症の発語失行(CAS)の診断を持つ人たち、あるいは複数の診断を持つ人たちも含まれていました。
診断の重なりは少なくなく、56人は二つ以上の診断を持っていました。

研究チームは「MABC-2(運動評価バッテリー第2版)」という世界的に使われている運動検査を用いました。
この検査は、次の三つの領域を測定します。

  • 手先の器用さ(マニュアル・デクステリティ):小さなビーズをつかんだり、ペグを穴に入れたりするような細かい動作を評価します。
  • 投げたり受けたりする動作(エイミング&キャッチング):ボールを的に投げる、ボールを受け取るといった動作を通して「狙いを定める力」と「反応の素早さ」を調べます。
  • バランス:片足立ち、線の上を歩くなど、全身の安定性を測定します。

これらの成績を総合して、全体の運動スコアも算出されます。

結果は衝撃的でした。参加者のうち 77%が「レッドゾーン」 に入り、発達性協調運動障害の可能性が高いとされました。
さらに 8%が「アンバーゾーン」(要観察)で、「問題なし」とされた「グリーンゾーン」に入ったのはわずか15% だったのです。

つまり、診断の種類にかかわらず、発達障害のある子どもの多くが運動に大きな困難を抱えていることが明らかになりました。

診断ごとに見ていくと、違いも浮かび上がってきました。

  • DCDの診断がある子どもは、全体の運動スコアと手先の器用さが特に低く、細かい動作に大きな課題を抱えていました。
  • ADHDの診断がある子どもは、全体スコアやバランスで比較的高い値を示しましたが、それでも8割以上が運動の困難を抱えていました。
    つまり「平均的には良い」ように見えても、個別に見れば多くが支援を必要としていたのです。
  • 自閉症の診断がある子どもは、投げたり受けたりする動作(エイミング&キャッチング)でとくに低い成績でした。
    これは「視覚と運動を結びつける力(視覚運動統合)」に関わる困難が影響していると考えられます。

さらに性別による違いも見られました。
出生時に女性とされた子どもは、男性に比べて投げたり受けたりする動作で成績が低い傾向がありました。
一方で、年齢による大きな差は見られませんでした。
これは今回の研究対象が子どもから思春期までに限られていたためかもしれません。

研究チームは「診断名にとらわれすぎることの危険性」を指摘します。
自閉症だから社会性に困難がある、ADHDだから注意が続かない――こうしたイメージは広く知られていますが、「運動」については診断の境界を超えて広く存在していることが示されたのです。
そのうえで、診断ごとに特定の領域に弱さが出やすい「運動の指紋(モーター・シグネチャー)」のような特徴が見えてきました。

この考え方は、教育や支援にとって非常に重要です。
たとえば、手先の器用さに課題がある子どもは字を書くのに苦労し、学習の達成感を得にくくなるかもしれません。
投げたり受けたりする動作が苦手であれば、体育や遊びで友達との関わりが減り、孤立につながることもあります。
バランスが不安定なら、日常生活の安全にも影響が出ます。

つまり、運動の困難を丁寧に評価し、早期に支援することは、学業の成績や自尊感情、そして社会的なつながりを守るために欠かせないのです。

今回の研究はまだ予備的な段階にあります。
対象は子どもから思春期までに限られており、成人期にかけて運動の特徴がどう変わるかは今後の課題です。
また、脳性まひや知的障害、ディスレクシアといった他の神経発達症は今回のデータに含まれていません。
COMBINEのデータベースはこれから拡張され続け、さらに多様な人々の情報が集まっていく予定です。

それでも、今回の成果は大きな意味を持っています。
診断の壁を超えて「運動の困難は普遍的に存在する」という事実が示されたからです。

そして、その困難の表れ方には診断ごとの特徴がありました。
これらを組み合わせることで、一人ひとりに合った支援のあり方が見えてきます。

自閉症やADHDといった診断を持つ子どもたちは、ことばや行動の特徴だけでなく、体の動きにも特有の課題を抱えています。
けれども、その課題は「診断のおまけ」ではなく、日常生活を大きく左右する要素です。
字を書く、遊ぶ、友達と関わる、学ぶ。そのすべての土台に運動はあります。

COMBINEの研究は、そうした現実を私たちに突きつけています。
そして「診断名に頼るのではなく、子ども一人ひとりの得意と不得意を見極める」というシンプルで力強いメッセージを投げかけています。
運動の課題を理解し、支援につなげることは、学びや心の健康を支えるだけでなく、子どもたちが社会とつながる力を取り戻すことにもつながるのです。

(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07042-0)(画像:たーとるうぃず)

運動が苦手。

それだけではすまない、広い影響があること、

困難を少しでも軽減できるよう支援を行う必要があること

知っておかなければなりません。

発達性協調運動障害とは?英国の調査で浮き彫りになった課題

(チャーリー)


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