この記事が含む Q&A
- 遺伝的な摂りやすい体質と自閉症の診断リスクには関連が見られることがあるのでしょうか?
- 遺伝的傾向と自閉症リスクを結びつける試みはあったものの、全体としては強い結論は出ず、因果を断定していません。
- グルテンフリー・カゼインフリーの食事で自閉症が治る・大きく改善することはあるのでしょうか?
- 本研究は治癒を断定せず、差は限定的で慎重な解釈が必要としています。
- 食事が自閉症の子どもの免疫状態に影響を与える可能性について、どんな点が分かっていますか?
- 免疫指標の一部に変化が見られたものの全体像は不明で、免疫状態の変化が直接症状改善につながるとは言えません。
自閉症と食事の関係については、これまで多くの関心が集まってきました。
特定の食品を控えると落ち着いた、胃腸の調子がよくなった、行動が変わった。
そうした経験が語られる一方で、それが自閉症そのものとどのようにつながっているのかは、はっきりしないままでした。
その理由は、食事の影響を科学的に切り分けることが非常に難しいからです。
家庭環境や生活習慣、自閉症による食の偏りなど、多くの要因が重なってしまいます。
今回紹介する研究は、こうした混乱をできるだけ避けるために、まず「遺伝」に注目しました。
研究者たちが調べたのは、「実際に何を食べたか」ではありません。「ある食品を多く摂りやすい体質に関係する遺伝的傾向」と、自閉症の診断との関係です。
人によって、特定の食品を好みやすい、摂取量が多くなりやすいといった傾向があります。
これは育った環境だけで決まるものではなく、わずかではありますが遺伝の影響も受けています。
この研究では、その遺伝的な影響の部分だけを使い、食事と自閉症の関係を検討しています。
つまり、「食べた量」ではなく、「食べやすい体質」を手がかりにしている研究です。

研究者たちは、199種類の食品や栄養習慣について、それぞれ「遺伝的に摂りやすい傾向があるかどうか」を設定しました。
全粒粉パスタやチーズスプレッド、バナナといった具体的な食品も含まれています。
また、ケトン体の値が高くなりやすい体質や、食物アレルギーを起こしやすい体質も、同じように遺伝的傾向として扱われました。
これらは一度にまとめて評価されたのではなく、1つずつ独立して、自閉症との関係が調べられています。
このとき研究者たちが立てている問いは、非常に限定的です。
「この食品を食べたら自閉症になるのか」という問いではありません。
「この食品を多く摂りやすい体質に関係する遺伝的特徴をもつ人は、そうでない人と比べて、自閉症の診断を受ける確率が違うのか」という問いです。
解析の結果、ほとんどの食品や栄養要因については、自閉症との明確な関係は見つかりませんでした。
これは、多くの食品について、自閉症リスクと直接結びつく証拠は示されなかったことを意味します。
その中で、統計的に意味のある関連が示された食品は、ごく一部でした。
全粒粉パスタとチーズスプレッドについては、遺伝的に摂取量が多くなりやすい傾向をもつ人ほど、自閉症の診断を受ける確率が高いという結果が示されました。
一方で、バナナについては、摂取傾向が高い遺伝的特徴をもつ人ほど、自閉症リスクが低いという、逆方向の関連が示されました。

ただし、研究者たちはこれらの結果を強く限定しています。
これは短期間の食事変更の影響を示したものではなく、生涯にわたる摂取傾向と結びついた遺伝的素因の影響を推定したものです。
また、推定値の幅は大きく、不確実性が高いことも示されています。
そのため、特定の食品を避ければ自閉症を防げる、あるいは積極的に摂ればよい、という結論にはなりません。
研究者たちは次に、もしこの関連が存在するとしたら、体の中で何が関係しているのかを調べました。
その結果、チーズスプレッドと自閉症リスクの関係の一部は、免疫の働きと関連している可能性が示されました。
特定の免疫細胞の性質や、エプスタイン・バーウイルスに対するIgG抗体の状態が、この関係の一部を媒介している可能性が示されています。
ただし、これらは関係の一部にとどまり、すべてを説明できるわけではありません。
この研究は、遺伝解析だけで終わっていません。
研究グループは、実際に自閉症と診断された2〜7歳の子ども78人を対象に、実際の診療の中で、すでに行われていた食事の違いを、あとから比較する研究も行いました。
子どもたちは、グルテンフリー・カゼインフリー食を行っていたグループと、通常の食事を続けていたグループに分けられ、半年以上の経過が比較されています。

ADOS-2やCARSといった評価尺度を用いて、自閉症の中核的な特徴の変化を比べたところ、グルテンフリー・カゼインフリー食を行っていたかどうかによって、統計的に明確な改善差があったとは言えませんでした。
つまり、この研究の範囲では、「この食事によって自閉症の症状がはっきり改善した」と断定できる結果は得られていません。
ただし、評価の数値そのものを詳しく見ると、平均的には、グルテンフリー・カゼインフリー食を行っていた子どもたちのほうが、通常の食事を続けていた子どもたちよりも、やや大きな改善を示していました。
この違いは、統計的に意味のある差とまでは言えないものの、完全に同じ変化だったわけでもありません。
そのため研究者たちは、この結果を「効果がない」とも「効果がある」とも結論づけず、今回のデータだけでは判断できないとして、慎重に解釈しています。

一方で、自閉症の症状そのものではなく、体の反応を示す指標を見ると、よりはっきりした変化が確認されました。
グルテンフリー・カゼインフリー食を行っていた子どもたちでは、牛乳や小麦に対する特異的IgG抗体の値が、統計的に見て有意に低下していました。
この結果は、自閉症の症状が直接変化したことを示すものではありません。
しかし、この食事が、自閉症のある子どもたちにおいて、食物に対する免疫反応のあり方には確かな変化をもたらしていた可能性を示しています。
研究者たちは、この免疫指標の変化を、今回の臨床データの中で最も明確に確認できた結果の一つとして位置づけています。

この研究は、食事が自閉症の原因であるとか、治療になると結論づけるものではありません。
むしろ、食事と自閉症の関係を考えるとき、遺伝的な体質、免疫の状態、身体の反応が複雑に重なっている可能性を示しています。
食事は自閉症そのものを変える方法ではありませんが、身体の状態に影響を与える一つの要素として、慎重に検討される価値がある。
そのことを、遺伝と臨床の両面から示した研究だと言えます。
(出典:Frontiers in Nutrition DOI: 10.3389/fnut.2025.1716044)(画像:たーとるうぃず)
この研究が示すことができたのは、
・食事が自閉症のある子どもたちの身体の反応、とくに免疫のあり方に影響を与えている可能性
です。
「グルテンフリー・カゼインフリー食などで自閉症が治る」というような話ではありません。
誤解なきように。
「自閉症の治療法」その怪しい方法と利益相反。米科学健康評議会
(チャーリー)





























