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発達障害・知的障害と「歩き始め」との関係性。大規模研究

time 2025/05/09

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発達障害・知的障害と「歩き始め」との関係性。大規模研究

この記事が含む Q&A

子どもの歩き始め時期は遺伝的要素に影響されるのでしょうか?
はい、研究により11の遺伝子領域が歩き始めに関与していることが示されています。
歩き始めが遅い子どもにはどんな発達の傾向が見られるのでしょうか?
遅い遺伝的傾向の子どもは、将来的に学力や認知能力が高い傾向があります。
自閉症や知的障害と歩き始めの遅れには関連性があるのですか?
研究で、60%以上の関連遺伝子が自閉症や知的障害と関係していることが明らかになっています。

「歩き始め」は赤ちゃんの成長の中でも、とくに印象的なできごとのひとつです。
いつ歩き出すかは、親にとっても大きな関心ごとですし、子どもの健康や発達を考えるうえでのひとつの目安にもなっています。
今回、ヨーロッパ系の赤ちゃん7万人以上を対象にして、「歩き始めの時期」がどのような遺伝の影響を受けているかを調べた研究が発表されました。

この研究は、イギリスのサリー大学のアンジェリカ・ロナルドらを中心とする国際共同研究チームによって行われたもので、『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』誌に掲載されました。
研究チームには、ノルウェー、オランダ、イギリスなどの機関からも研究者が参加しており、ヨーロッパにおける4つの大規模な出生コホート(ノルウェーのMoBa、オランダのNTR、Lifelines、イギリスのNSHD)から得られたデータが使われました。

調査の対象となったのは、合計で70,560人にのぼるヨーロッパ系の乳幼児です。

親による報告をもとに、「何か月でひとり歩きを始めたか」という情報を集め、それをもとにゲノム全体を対象とした関連解析(GWAS)が行われました。
研究者たちは、この「歩き始めの時期」に影響する遺伝子を特定するため、数百万の一塩基多型(SNP)と呼ばれる遺伝的な変異を精査しました。
その結果、歩き始めの時期に関与していると考えられる11の主要な遺伝子領域(遺伝子座)が明らかになったのです。

この研究で明らかになったのは、「歩き始め」は単なる偶然や環境だけでなく、たくさんの遺伝的な要素に支えられているということです。
具体的には、歩き始めの早さに関係する11の遺伝子の場所が見つかりました。ま
た、これらの遺伝子の働きは、赤ちゃんの脳の成長や運動をつかさどる部分とも関係があることもわかってきました。

さらに興味深いのは、「歩き始め」とADHD(注意欠如・多動症)との間にも、遺伝的なつながりがあるという点です。

研究では、ADHDの傾向を持つ子どもは、平均して少し早く歩き始める可能性があることが示されました。
これは、活発でよく動き回る子どもほど、自然と歩く練習をする時間が増え、結果として早く歩くようになるという考え方にもつながります。ADHDに関連する遺伝子は、運動能力や注意の制御に関わる脳の領域と関連していることも報告されており、行動特性と身体発達の関連性を示す重要な手がかりとなっています。

逆に、歩き始めが少し遅い子どもは、脳の特定の場所がよりゆっくり育っている可能性がありますが、それが必ずしも悪いこととは限りません。
実際に、歩き始めが遅い遺伝的な傾向を持つ子どもほど、将来の学力や認知能力が高くなる傾向も見られたのです。
このように、「早い」「遅い」だけで一喜一憂するのではなく、その子らしい発達のかたちとして見守ることが大切だとわかります。

また、今回見つかった遺伝子の中には、自閉症や知的障害と関係のある遺伝子もいくつか含まれていました。
ADHDや自閉症、知的障害と「歩き始め」との関連について、わかりやすく整理すると次のようになります:

  1. ADHDの傾向を持つ子どもは、平均してやや早く歩き始める遺伝的傾向があることがわかりました。
  2. 歩き始めに関係する遺伝子のうち、およそ15%は自閉症と関連があるとされるものでした。
  3. 知的障害と関連づけられている遺伝子も複数あり、その割合は全体の約28%に達しました。

これらの結果は、歩き始めの時期が、神経発達と深く結びついている可能性を示しています。
たとえば、50の関連遺伝子のうち7つ(約15%)が自閉症との関係が確認されており、また13の遺伝子(約28%)が知的障害と関連していました。
これらの割合は、一般の遺伝子と比較しても明らかに高く、歩き始めという動作の背景に、神経発達と密接につながる遺伝的要因が関与していることを示しています。
たとえば、RBL2という遺伝子は、まれな発達障害と関係があることが知られており、この遺伝子に異常があると、歩き出しの遅れだけでなく、言葉の遅れや筋緊張の低下、場合によってはけいれんなどが見られることがあります。

ただし、歩く時期が遅いからといって必ず自閉症や知的障害であるとは限りません。

研究者たちも、「歩き始め」はあくまでヒントのひとつとして見るべきであり、決めつけではないと強調しています。
発達は多様で、遺伝子の影響も複雑です。
一見すると同じように遅れているように見える子どもでも、その背景や理由はまったく異なることがあるのです。

この研究では、「歩き始めの遺伝スコア」と呼ばれる数値を使って、別のグループの赤ちゃんでも歩き始めの時期を予測できることが確認されました。
この予測スコアが高い赤ちゃんは、脳の運動をつかさどる場所(たとえば小脳や視床など)の体積が大きいこともわかりました。
つまり、歩き始めの時期は、脳の形や大きさともつながっているのです。

脳の発達に関するさらに詳しい分析では、この歩き始めの遺伝スコアが、新生児の脳のしわの多さ(ジャイリフィケーション)とも関係していることが見つかりました。
脳のしわは神経細胞のネットワークの密度や複雑さに関係しており、知的機能ともつながっていると考えられています。
とくに、体の動きを感じ取ったり計画したりする脳の領域で、このしわの複雑さが高いほど、遺伝的に歩き始めが遅くなる傾向があることがわかりました。

私たち大人は、つい「早く歩いた方がいい」「遅いと心配」と思いがちですが、今回の研究はそんな考え方を見直すきっかけを与えてくれます。
子ども一人ひとりに合った発達のペースがあること、そしてその背後には複雑で興味深い遺伝や脳のしくみがあることを、この研究は教えてくれました。

この発見は、今後の育児や教育、発達支援においても活用できる可能性があります。
たとえば、歩き始めの時期と他の行動特徴の関係を早期に把握することで、必要に応じてサポートの手を早めに差し伸べることができるかもしれません。
もちろん、それは子どもを型にはめるためではなく、よりその子らしく育つための環境を整える手助けとなることを目指すものです。

「歩く」という何気ない行動が、実はたくさんの要素に支えられ、そして将来の特徴ともつながっている。
そう思うと、赤ちゃんの一歩一歩には、とても大きな意味が込められているように感じられます。

(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)

重度の自閉症で知的障害もある、うちの子について言えば、歩き始めるのは少し遅かったです。

児童発達支援センター、特別支援学校(小中高)、そして現在の生活介護支援施設でも、ずーっと「歩く」ことには力を入れてきたので、今では「歩く」ことは大得意です。

にこにこ笑顔でずっと歩いてくれます。一緒に散歩をしていると私もうれしくなります。

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(チャーリー)


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