この記事が含む Q&A
- ASDのある子ども・思春期の若者は、定型発達の子どもより気分の沈みやすさが強い傾向があるのですか?
- はい、抑うつ症状の程度が全体的に高く、臨床的に重要な水準に達する子どももいました。
- 気分の落ち込みと関係する実行機能のうち、特にどの側面が影響していますか?
- 感情の調整に関わる側面が強く関連し、感情を切り替えたりコントロールする能力の低さが沈みやすさと結びつきやすいことが示されました。
- 保護者のストレスはこの関係にどのように影響しますか?
- 保護者のストレスが高い場合、社会的コミュニケーションの困難さと気分の落ち込みの関連がより強く現れる傾向がみられました。
自閉症のある子どもや思春期の若者は、そうでない子どもたちに比べて、気分の落ち込みや元気が出ない状態が続くことを経験しやすいことが、これまでの多くの研究から知られてきました。
ただし、その状態がどのような要因と結びついているのか、とくに子ども期や思春期の段階で、どのような認知的・行動的な特徴と関連しているのかについては、十分に整理されてきたとは言えませんでした。
今回紹介するのは、アメリカ・アラバマ大学バーミンガム校の心理学部の研究チームが行った研究です。
この研究では、自閉症のある子ども・思春期の若者と、そうでない子ども・思春期の若者を対象に、抑うつ症状(気分の落ち込みや元気のなさがしばらく続く状態)の程度と、それに関係する認知的な特性や社会的な特性を、保護者への質問紙を通じて詳しく調べました。
研究に参加したのは、自閉症のある子ども・思春期の若者62人と、定型発達の子ども・思春期の若者55人です。
年齢はいずれも7歳から13歳で、知的水準や言語理解が一定以上であることが参加条件とされていました。
自閉症の診断については、標準的な診断面接や観察法を組み合わせ、臨床心理士の判断も含めて慎重に確認されています。
まず、この研究で改めて確認されたのは、自閉症のある子ども・思春期の若者において、気分が沈んだ状態が強く現れやすいという点です。
気分の落ち込みに関する得点は、定型発達のグループよりも自閉症のあるグループで明確に高く、一部の子どもは「注意が必要な水準」や「臨床的に重要な水準」に達していました。

次に研究者たちが注目したのが、「実行機能」と呼ばれる認知の働きです。
実行機能とは、自分の行動や感情、考えを調整する力の総称で、衝動を抑える力、気持ちを切り替える力、計画を立てて進める力などが含まれます。
この研究では、実行機能を大きく三つの側面に分けて評価しました。
行動を抑えたり自分を振り返ったりする力、感情を調整する力、そして記憶や計画などの認知的な調整に関わる力です。
結果として、自閉症のある子ども・思春期の若者は、これらすべての側面で、定型発達の子どもたちよりも困難さが大きいことが示されました。
ただし、心が重くなる状態との関係を詳しく分析すると、すべての実行機能が同じように関係しているわけではないことが明らかになりました。
とくに強く関連していたのは、「感情の調整」に関わる側面でした。
気持ちを切り替えることの難しさや、感情をコントロールすることの難しさが大きいほど、気分の落ち込みも強くなる傾向が、自閉症のある子どもだけでなく、定型発達の子どもを含めた全体で確認されました。
一方で、衝動の抑制や計画性といった他の実行機能の側面は、気分の沈みやすさと直接的な関連を示しませんでした。
研究者たちは、この結果について、感情をうまく調整できないことが、否定的な気分や考えから抜け出しにくくする可能性を示していると考えています。
嫌な出来事や不安な気持ちにとらわれ続けることが、心が重い状態につながる経路が、子ども期からすでに存在している可能性が示唆されました。

さらにこの研究では、「社会的なコミュニケーションややりとりの困難さ」にも注目しています。
相手の気持ちを読み取ることや、状況に合ったやりとりをすることの難しさは、自閉症の特徴の一つとして知られていますが、それが気持ちの落ち込みとどう関係しているのかを、定型発達の子どもも含めて検討しました。
分析の結果、社会的なコミュニケーションや相互作用の困難さが大きいほど、気分が沈みやすくなる傾向が、両グループを合わせた分析で確認されました。
人とのやりとりがうまくいかない経験が積み重なることで、孤立感や否定的な感情が高まり、心が重くなる状態につながる可能性が示されています。
一方で、社会的な困難さと気分の落ち込みの関係は、自閉症のある子どもだけ、あるいは定型発達の子どもだけで分析すると、はっきりしない面もありました。
研究者たちは、幅広い特性を含めた全体像で見ることで、この関係がより明確になる可能性を指摘しています。

この研究の特徴的な点として、保護者の心理的なストレスの影響も同時に検討していることが挙げられます。
子どもの状態を評価する質問紙は保護者が記入するため、保護者自身のストレスや心の余裕のなさが、回答に影響している可能性があるからです。
分析の結果、感情の調整の難しさと気分の落ち込みの関係は、保護者のストレスの影響を考慮しても変わらず見られました。
つまり、感情をうまく扱えないことと心が沈んだ状態との結びつきは、単なる報告の偏りではなく、比較的安定した関連であることが示唆されました。
一方で、社会的コミュニケーションの困難さと気分の落ち込みの関係については、保護者のストレスが高い場合に、その関連がより強く現れる傾向が見られました。
これは、家庭全体の心理的な雰囲気や、保護者の負担感が、子どもの心の状態と社会的な困難の関係に影響している可能性を示しています。

研究者たちは、この結果から、子ども本人の特性だけでなく、家庭環境や保護者の心理的負担にも目を向けることの重要性を指摘しています。
この研究は、自閉症のある子どもや思春期の若者における気分の落ち込みが、単に「気分の問題」ではなく、感情の調整や社会的なやりとりの難しさと深く結びついていることを示しました。
また、こうした関係は定型発達の子どもにも共通する側面を持っていることが示唆されています。
研究者たちは、今後の支援や介入を考えるうえで、感情を調整する力や、社会的なコミュニケーションを支える取り組みが、心が沈みやすくなる状態の予防や軽減につながる可能性があると述べています。
同時に、保護者への支援や負担軽減も、間接的に子どもの心の健康を支える要素になりうることを、この研究は示しています。
自閉症や気分の落ち込みを「本人の内面だけの問題」として捉えるのではなく、認知の特性や人との関係、家庭環境を含めた全体像として理解することの大切さを、この研究は伝えています。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2025.1697147)(画像:たーとるうぃず)
家庭全体の心理的な雰囲気や、保護者の負担感が、子どもの心の状態と社会的な困難の関係に影響している可能性
つらい、ものすごくたいへん、まるでそれをアピールして、視聴者数を得ようとしているのではないかと思ってしまう、親の動画をたびたび目にします。
それを見た子どもはどう思うか、私は心配してしまいます。
うちの子のように、話すことができない子にも、たしかに気持ちはあるのですから。
(チャーリー)




























