
- ミニバスケットボールトレーニングはASDの子どもにどのような具体的な効果をもたらすのか?
- 運動がASDの脳の働きに与える影響はどのように評価されているのか?
- 他者との交流を通じた活動はASDの子どもたちにどの程度の成長を促すのか?
自閉スペクトラム症(ASD)を抱える子どもたちの行動や脳の働きに、ミニバスケットボールトレーニングが予想以上の効果を発揮するかもしれません。
この興味深い研究結果を、中国の研究チームが発表しました。
12週間のトレーニングがASDの子どもたちにどのような変化をもたらしたのでしょうか。
ASD(自閉スペクトラム症)は、幼少期に発症する神経発達障害で、他人とのコミュニケーションや社会的な相互作用が苦手、特定の行動を繰り返すなどの特徴があります。
この障害の原因は完全には解明されておらず、治療法も確立されていません。
世界的には、約36人に1人がASDの特性を持つと言われており、とくに幼い子どもたちに診断されるケースが増えています。
ASDの子どもたちは、日常生活の中で「同じ行動を繰り返す」や「環境の変化を嫌う」といった行動パターンを示しやすく、これが生活や学習に大きな影響を与えます。
このような課題に対し、運動が役立つ可能性があることが注目されています。
今回の研究では、3歳から6歳までのASDの男の子28人を対象に調査が行われました。
このうち15人が「ミニバスケットボールトレーニングプログラム(MBTP)」に参加し、残りの13人は通常の生活を続けました。
MBTPは、週5回、1回40分のセッションを12週間にわたって実施されるプログラムです。
このプログラムでは、バスケットボールを使ったシンプルな動き(たとえばキャッチやドリブル、パス)を練習するだけでなく、チームでのゲームや協力的な活動も取り入れられています。
これにより、体を動かす楽しさだけでなく、他者との協力や交流の機会も提供されます。
MBTPに参加した子どもたちは、「自分を傷つける行動」や「同じ行動を繰り返す」など、ASDの特徴的な反復行動が目に見えて改善されました。
これは、プログラムに含まれる活動が、ASDの子どもたちにとっての刺激となり、行動の柔軟性を引き出すきっかけになったと考えられます。
また、運動による行動の変化が脳の働きにも影響を与えていることが、研究によって確認されました。
たんに「楽しい運動」ではなく、脳の機能を活性化する要素が含まれている点で、このプログラムはとくに注目されています。
ASDの子どもたちに特有の脳の特徴として、「サリエンスネットワーク」「デフォルトモードネットワーク」「中央実行ネットワーク」という3つのネットワークの異常が指摘されています。
- サリエンスネットワーク(Salience Network, SN)
外部環境や内部感覚から重要な情報を選び出し、それに注意を向ける役割を担います。ASDではこのネットワークが正常に機能せず、注意の切り替えが難しくなることがあります。 - デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network, DMN)
何もしていないときや内面的な思考に集中しているときに活性化します。ASDの子どもでは、このネットワークの異常が自己認識や他者の感情理解の困難さに関連しているとされています。 - 中央実行ネットワーク(Central Executive Network, CEN)
複雑なタスクの計画や注意の維持に重要なネットワークです。ASDの子どもたちは柔軟な思考や行動の切り替えが苦手で、このネットワークの異常が影響している可能性があります。
研究では、MBTPがこれらの脳内ネットワークの動的な接続性を改善することが明らかになりました。
たとえば、ボールをキャッチしたり、パスをする際には瞬時の判断や集中力が求められます。
また、チームプレイでは他者とのコミュニケーションや協力が不可欠です。
こうした一連の動きや活動が、脳内での情報処理を促進し、ネットワークの働きを改善するのではないかと考えられています。
この研究成果は、家庭や教育現場での新しい療育方法としての可能性を示しています。
ASDを持つ子どもたちの保護者にとって、子どもが楽しく取り組めるプログラムがあることは、大きな安心材料です。
また、学校や特別支援教育の現場でも、他の子どもたちとの交流を通じて成長できる機会として役立てられるでしょう。
さらに、このプログラムは、運動が脳の働きに与える影響を科学的に裏付けるものであり、今後のさらなる研究や新しいアプローチの基盤となる可能性があります。
このような取り組みは、ASDの子どもたちとその家族に明るい未来をもたらすものです。
ミニバスケットボールがもたらす効果をきっかけに、多くの家庭が新たな希望を持ち、子どもたちの可能性を最大限に引き出す支援が広がることが期待されます。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
楽しく体を動かすだけでも、メリットは大きいはずですが、
「他者との協力や交流の機会」
が、さらなるメリットをもたらす。
想像できます。
自閉症の若者向けバスケットボールプログラム。受容と帰属の手段
(チャーリー)