
この記事が含む Q&A
- 自閉スペクトラム症は男の子と女の子で症状の現れ方が違うのですか?
- はい、男の子は樹状突起が短く情報伝達が難しく、女の子は逆に長く複雑になる傾向があります。
- なぜ女の子は社会的交流を避けるのですか?
- 脳内のセロトニン受容体密度が低いため、気持ちを落ち着ける力が弱まり、社会的な不安が高まることが一因です。
- 男女の違いを理解した支援はどのように役立ちますか?
- 個別の脳の特徴に合わせたサポートが可能となり、より効果的な社会参加と交流促進につながります。
自閉スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションの難しさやこだわり行動、感覚の過敏さなどを持つ発達障害です。
最近では、この障害を持つ子どもは米国では36人に1人といわれ、非常に身近な問題になっています。
とくに、男の子のほうが診断されることが多い一方で、女の子の場合は症状が目立たないこともあり、見逃されやすいと言われています。
なぜ男の子と女の子では、症状の現れ方が違うのでしょうか?
ポルトガルのコインブラ大学の研究チームは、この疑問に対して詳しく調査しました。
研究では、自閉スペクトラム症の特性を持つ遺伝子を導入したASDマウス(以降「ASDマウス」)を使い、オスとメスの脳が具体的にどのように違うのか、細胞レベルから詳細に調べました。
研究チームがまず注目したのは、脳の神経細胞の形やつながり方です。
その結果、オスのASDマウスの脳細胞は、細胞から伸びる突起(樹状突起)が短く、複雑さが低下していました。
このため、近くにある他の細胞との情報伝達がうまくいかなくなっていました。
一方で、メスのASDマウスの脳細胞は逆に樹状突起が長く複雑になり、遠くにある細胞との情報伝達が難しくなっていることがわかりました。
次に研究チームは、脳内の物質である「セロトニン」と「グルタミン酸」に注目しました。
セロトニンは私たちが落ち着きを感じたり、気分を安定させる働きをします。
一方でグルタミン酸は神経細胞を興奮させる働きがあります。
この研究では、とくにメスのASDマウスがセロトニンを受け取る受容体の密度が低く、グルタミン酸の濃度が高くなっていました。
つまり、メスの脳内では、気持ちを落ち着ける力が弱まり、神経が興奮しやすくなっていたのです。
こうした脳の仕組みの変化が、実際の社会的な行動にどのような影響を与えるかを調べるため、研究チームはマウスに社会的なテストを行いました。
そのテストでは、初めて会う新しい相手と交流させ、どのくらい積極的に関わろうとするかを観察しました。
結果として、メスのASDマウスは新しい相手を避ける傾向が強く、不安な様子を見せました。
一方で、オスのASDマウスは新しい相手に対する関心が薄く、積極的に接しようとはしませんでした。
さらに研究チームは、脳内のセロトニンやその材料となるトリプトファンという物質の濃度を調べました。
すると、これらの物質が多いほど、マウスは社会的な行動がうまくできるという関係が明らかになりました。
これは、セロトニンやトリプトファンが社会的な行動を支える重要な役割を果たしていることを示しています。
研究チームはさらに、脳内の異なる領域間(皮質、扁桃体、海馬)のつながりも調べました。
その結果、メスのマウスでは神経線維が少なくなり、脳の遠くの領域との連携が弱まっていました。
一方、オスのマウスでは神経線維の数は変わらないものの、密度が低下し、脳全体で情報のやりとりが効率的にできなくなっていることがわかりました。
これらの結果は、自閉スペクトラム症における男女差が、単に行動の違いにとどまらず、脳の構造や働きそのものが性別で異なることを示しています。
女の子では、不安が強まり社会的な交流を避ける傾向が強くなり、男の子では新しい相手への関心が薄れてしまう傾向が強いことが考えられます。
私たちがこれらの結果から学ぶべきことは、男女それぞれの特性に応じたサポートを提供することが重要であるということです。
自閉スペクトラム症は今や非常に身近な問題です。
正しく理解し、一人ひとりが自分らしく社会に関われるよう支えることが大切です。
研究がさらに進むことで、男女それぞれに適した支援方法が確立され、誰もが安心して人とつながれる社会が実現することを願っています。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
「女の子では、不安が強まり社会的な交流を避ける傾向が強くなり、男の子では新しい相手への関心が薄れてしまう傾向が強い」
社会的な困難の理由が、男女で異なるのですね。
正しく理解され、効果的な支援につながることを期待しています。
(チャーリー)