発達障害のニュースと障害者のハンドメイド

文章題が苦手な子が変わった。自閉症の少年が見つけた考える力

time 2025/10/15

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

文章題が苦手な子が変わった。自閉症の少年が見つけた考える力

この記事が含む Q&A

ペテルの文章題で言葉の意味を「見える形で整理する」学び方がどのように役立ちましたか?
問題の動きを線で示し、初めの数・変化・結果の三枠に書き分ける方法が理解と解答の安定につながりました。
ペテルの学びから得られる三つの要点は何ですか?
視覚的支援の有効性、個人に合わせた柔軟な教え方、言葉・絵・数の往復を通じた理解の深化です。
この事例が教育に示す意味は何ですか?
図や絵を用いた考え方が自閉症の子どもにも世界の理解を促し、「考える力」を育てる教育の根幹になり得る、という示唆です。

子どもが算数の問題を解くとき、そこにあるのは単なる数字の計算ではありません。
言葉を読み、場面を思い浮かべ、登場するものの関係をつかんで、そこから式を考えます。
自閉症のある子どもにとって、この流れはとくに難しいことがあります。
言葉の意味をとらえること、場面の変化を理解すること、そしてそれを数の関係に置き換えること。
それぞれの段階で小さな壁があり、つまずくと答えまでたどり着けません。

スペインのカンタブリア大学の研究チームは、そんなひとりの少年の学びの過程を2年間にわたってていねいに追いました。
少年の名前はペテル(仮名)。
重度の自閉症と知的障害をもち、特別支援学校で学んでいました。
研究の目的は、ペテルがどのようにして「数えること」から「考えて解くこと」へ進んでいったのかを明らかにすることでした。

13歳9か月のとき、ペテルは最初の学習に参加しました。
テーマは「たし算」と「ひき算」の文章題。
たとえば「マリアは7個のキャンディーを持っていました。
3個もらいました。いま何個ありますか?」のような問題です。

はじめのうち、ペテルはこうした問題を読むと、まず紙に丸を描いて数えていました。
7個の丸を描き、そこに3個足して、全部を数えます。
あるいは、丸を消して減らすこともありました。

しかし、問題の言葉の中に「ふえる」「へる」といった言葉が出てくると、意味を取り違えてしまうことがよくありました。
「なくす」と書いてあるのに、たし算をしてしまう。
「もらう」とあるのに、ひき算をしてしまう。
そうした混乱が続いていたのです。

研究者たちは、ペテルに「ことばの意味を見える形で整理する」学び方を用意しました。
問題文の中で大切な動きを線で示し、「増える話か」「減る話か」を区別します。

そして、はじめの数・変わった数・結果の数を三つの枠に書き分けるようにしました。
たとえば「8匹の猫がいました。3匹がいなくなりました。いま何匹いますか?」なら、
「最初の数=8」「変化=3減る」「いま=?」というように整理します。

この方法を続けるうちに、ペテルは少しずつ「どんな式にすればよいか」を自分で決められるようになっていきました。
最初は絵や丸を使って数えていたのが、次第に「8−3=5」と書いて答えを出せるようになったのです。

さらに、学んだことを別の場面にも応用できるようになりました。
「10人の子どもがいました。4人来て、3人帰りました。いま何人ですか?」といった二段階の問題も、自分で整理して解くことができました。
授業が終わって8週間たってから行った確認でも、正確に解けていました。

ペテルの正答率は、最初のころの35%から72%に上がり、最終的には100%に達しました。
それは、ただ計算が速くなったということではありません。
「問題をどう考えればいいか」がわかるようになったということでした。

14歳10か月になると、次の段階の学習が始まりました。
こんどは「かけ算」と「わり算」です。
新しい授業では、「数の関係を図にして考える」ことを中心にしました。

たとえば「4つの袋に、それぞれ3個ずつキャンディーが入っています。ぜんぶで何個ですか?」という問題があります。
このときは、1袋の中にあるキャンディーの数が「3」、袋の数が「4」、そして全部の数が「12」という関係になります。
つまり、「1袋に入っている数 × 袋の数 = 全体の数」です。

ペテルは最初、このような関係を丸や線を使って図に描きました。
3個のキャンディーをひと組として、それを4組並べます。
すると、「3が1つぶん」「4がいくつぶん」「12がぜんぶ」という考え方が自然に見えてきます。
このようにして、単に計算するだけでなく、「それぞれの数が何を表しているか」を理解していきました。

わり算のときは、関係が反対になります。
たとえば「18個のキャンディーを3袋に分けると、1袋にいくつ入りますか?」という問題では、
「ぜんぶの数 ÷ 袋の数 = 1袋あたりの数」となります。

ペテルは当初、この二つの関係をよく混同していました。
どちらの問題も「3」と「18」と「?」が出てくるため、違いがわかりにくかったのです。
そのため、「18を3倍して54」としてしまうなど、かけ算のように考えることがありました。

しかし、教師が図を使って「これは“増やす話”ではなく、“分ける話”だよ」と示すと、
ペテルは次第に、「1つぶんを求めるときは分ける」「ぜんぶを求めるときはくり返す」という区別ができるようになりました。

この授業では、先生が最初に見本を見せ、次に一緒に解き、最後にペテルが一人で挑戦しました。
その流れの中で、彼はしだいに自分のやり方を身につけていきました。
授業を重ねるうちに、ペテルは自分から図を描くようになり、
答えを出すだけでなく、「どう考えたか」を絵と式で説明するようになりました。

かけ算とわり算の問題では、最初25%しか正解できませんでしたが、
授業を始めて2回目には75%、その後はほとんどすべての問題を正確に解くようになりました。
そして、授業が終わって5週間たっても、その力を保っていました。

ペテルの学びで特徴的だったのは、「どんなときも絵を描いて考えた」ことでした。

たし算でも、かけ算でも、彼は必ず図を描いて頭の中を整理していました。
丸や四角で人数やものの関係を表し、問題の中の「関係」を見つけていったのです。

研究者たちは、この習慣を「後戻り」ではなく、ペテルにとっての「安心できる考え方」だと捉えました。
彼にとって、絵を描くことは単なる補助ではなく、「考えることそのもの」だったのです。

この姿勢は、自閉症のある人にしばしば見られる「視覚的に考える力」の一例でもありました。
頭の中で数や言葉を並べるよりも、形や図で整理することで、ペテルは世界を理解していました。

研究を行ったチームは、ペテルの成長から次の三つのことを強調しています。

ひとつ目は、「見える形で考える方法が、自閉症の子どもにとって大きな助けになる」ということです。
文章題を読んで理解するのが難しくても、絵や図を使えば「何が起きているか」を整理できます。
視覚的な支援があると、言葉の混乱が減り、考えを落ち着けることができます。

ふたつ目は、「一人ひとりに合わせた柔軟な教え方が欠かせない」ということです。
ペテルの授業では、教師が毎回、前回の様子をもとに教材を少しずつ調整していました。
集中が切れそうなときは短く区切り、難しい語は説明を加え、絵や具体物を使って補いました。
決まった型を押しつけるのではなく、彼の理解のペースに寄り添うことが学びを支えました。

三つ目は、「言葉・絵・数の間を自由に行き来できること」が学びを深めるということです。
ペテルは、絵を描いて状況を理解し、そこから数を選び、式に変えていきました。
この往復の中で、算数が「ただの計算」から「意味のある考え」へと変わっていったのです。

この研究は、ひとりの生徒の事例ではありますが、その中には大きな示唆が込められています。
自閉症のある子どもにとって、算数を学ぶことは単なる知識の習得ではなく、「世界を理解する方法を探すこと」でもあります。
大切なのは、教える側がその子の感じ方や考え方を理解し、そこから橋をかけるように支援することです。

ペテルは、数をかぞえることで世界とつながり、
絵を描くことで思考を整理し、
式を書くことで、自分の理解を人と共有できるようになりました。

彼の学びの道のりは、障害の有無をこえて、子どもが「自分の頭で考えることの喜び」を取り戻していく過程でもありました。
この研究は、ひとりの少年の努力の記録であると同時に、
「考える力をどう育てるか」という教育の根本を静かに問いかけています。

(出典:education sciences DOI:10.3390/educsci15101359 )(画像:たーとるうぃず)

視覚からのほうが理解しやすい、絵や写真で伝えた方がわかる。

まさに、そんなことを証明している研究ですね

自閉症の人は視覚的に考える。学習や日常を助ける7つのツール

(チャーリー)


たーとるうぃず発達障害ニュースを支援する。

たーとるうぃずを「いいね!」をする。フォローする。

その他の最新の記事はこちらから

【ニュース記事での「生成AI画像」の利用について】
「研究内容や体験談をわかりやすく伝える」ための概念イラストや雰囲気イラストとして利用しています。事実報道の写真代替、「本物の写真」かのように見せる利用は一切しておりません。


福祉作業所で障害のある方々がひとつひとつ、心をこめて作り上げた良質なハンドメイド・手作りの品物をご紹介します。発達障害の関連ニュースや発達障害の子どもの4コマ漫画も。
気に入ったものはそのままamazonで簡単にご購入頂けます。

商品を作られた障害のある方がたーとるうぃずやAmazonに商品が掲載されたことで喜ばれている、売れたことを聞いて涙を流されていたと施設の方からご連絡を頂きました。

ご購入された方からは本当に気に入っているとご連絡を頂きました。ニュースや4コマ漫画を見て元気が出たとご連絡を頂きました。たーとるうぃずがますます多くの方に喜ばれるしくみになることを願っています。


NPO法人Next-Creation様からコメント

「たーとるうぃず様で販売して頂いてからは全国各地より注文が入るようになりました。障がい者手帳カバーは販売累計1000個を超える人気商品となりました。製品が売れることでご利用者の工賃 UP にもつながっています。ご利用者のみんなもとても喜んでおります」

テキストのコピーはできません。