この記事が含む Q&A
- 自閉症の子どもの歩行には特徴があるとされますか?
- はい、歩幅や歩行周期、立脚時間のばらつきが定型発達の子どもより高く、歩行の安定性が低い傾向が示されました。
- どのような人を対象に、どのように測定されたのですか?
- 18〜30か月の自閉症児12名と定型発達児9名の男児を、裸足で10メートル歩行させ、モーションキャプチャで運動指標とばらつきを評価しました。
- この研究の意義と今後の課題は何ですか?
- 早期に運動の一貫性を客観的に捉える可能性が示されましたが、対象数が少なく女児は未検討のため、今後は大規模長期追跡が必要です。
教室や公園で歩き始めたばかりの幼い子どもたちを見ていると、その歩き方には実にさまざまな個性があることに気づきます。
まっすぐ安定して歩く子もいれば、少しふらついたり、歩幅が一定しなかったりする子もいます。
こうした「歩き方の違い」は、多くの場合、成長の過程で自然に整っていくものと考えられています。
しかし近年の研究では、自閉症のある子どもでは、この歩き方の発達に特徴的な違いが早い段階から現れる可能性が指摘されています。
スイスのローザンヌ大学病院とローザンヌ大学を中心とする研究チームは、18か月から30か月という、歩行を習得して間もない男児を対象に、自閉症のある幼児と定型発達の幼児の歩行を詳細に比較しました。
この研究は、幼児期のごく早い段階で、自閉症のある子どもにどのような運動の特徴が見られるのかを、客観的な方法で明らかにしようとしたパイロット研究です 。
この研究に参加したのは、自閉症と診断された男児12名と、定型発達の男児9名です。
いずれも18〜30か月で、すでに一人で歩くことができる子どもたちでした。
性別による影響を避けるため、今回は男児のみに限定されています。
自閉症の診断は、DSM-5-TRの基準に基づき、専門の臨床家によって行われ、ゴールドスタンダードとされる評価尺度も用いられました。

研究チームは、大学病院内の専門的なバイオモーションラボを用い、モーションキャプチャシステムによって歩行中の身体の動きを三次元的に記録しました。
子どもたちは裸足で、10メートルの距離を自然なペースで歩きます。
途中で興味を失わないよう、両端にはシャボン玉装置が置かれ、楽しみながら何度も往復できる工夫がされていました。
こうして得られたデータから、歩く速さ、歩幅、歩行周期、地面に足がついている時間など、歩行の細かな指標が抽出されました。
この研究で特に注目されたのは、「平均的にどう歩いているか」だけでなく、「一歩ごとのばらつき」、つまり同じ子どもの中で歩き方がどれくらい安定しているかという点でした。
研究チームは、歩行の各指標について「変動係数」という値を算出し、歩き方の一貫性を評価しました。
変動係数が高いほど、歩行が不安定で、その都度ばらついていることを意味します。
結果を見てみると、平均的な歩行の速さや歩幅といった値については、自閉症のある幼児と定型発達の幼児の間に、大きな統計的差は認められませんでした。
ただし、自閉症のある幼児では、やや歩くスピードが遅く、歩幅が短く、足を地面につけている時間が長い傾向があり、歩行の成熟がわずかに遅れている可能性が示唆されました。
一方で、よりはっきりとした違いが見られたのが、「歩行のばらつき」です。
自閉症のある幼児では、歩幅、歩行周期、立脚時間など多くの指標で、変動係数が定型発達の幼児よりも高くなっていました。
つまり、一歩ごとの歩き方が安定せず、その都度変わりやすい状態にあったのです。
特に歩幅や歩行周期、足を地面につけている時間のばらつきは、統計的にも有意な差として確認されました。

研究チームは、この結果を「運動の一貫性の違い」として捉えています。
歩き始めたばかりの時期には、誰でも歩行のばらつきが大きいものですが、経験を積むにつれて次第に安定していきます。
しかし今回の結果は、自閉症のある幼児では、その安定化のプロセスがやや遅れている可能性を示しています。
さらに研究チームは、歩行の特徴と、認知や運動の発達との関連も探索的に調べました。
定型発達の幼児では、非言語的な認知能力や粗大運動能力が高いほど、歩行のばらつきが小さい傾向が見られました。
つまり、全体的な発達が進んでいる子どもほど、歩き方も安定していたのです。
しかし自閉症のある幼児では、こうした明確な関連はほとんど見られませんでした。
研究チームは、この点について、自閉症の特性の多様性や発達経路のばらつきが影響している可能性を指摘しています。
この研究が示す重要な点のひとつは、「歩けるかどうか」だけでは見えてこない違いが、客観的な測定によって明らかになるということです。
自閉症のある幼児は、歩行開始の時期そのものは定型発達の子どもと大きく変わらない場合が多いものの、歩き方の安定性という面では、早い段階から違いが現れている可能性があります。
研究チームは、こうした運動の不安定さが、その後の発達に影響を及ぼす可能性についても言及しています。
歩行は単なる移動手段ではなく、環境を探索し、人や物と関わるための重要な基盤です。
歩行が不安定であることは、動きにくさだけでなく、周囲との関わり方や経験の積み重ね方にも影響する可能性があります。
ただし、研究チームは同時に、この研究がパイロット研究であり、参加者数が少ない点を慎重に指摘しています。
今後は、より多くの子どもを対象とした研究や、長期的に発達を追跡する研究が必要だとしています。
また、今回の研究は男児のみを対象としているため、女児については別途検討が求められます。

それでもこの研究は、幼児期のごく早い段階で、自閉症のある子どもの運動発達を客観的に捉えることが可能であることを示しました。
研究チームは、こうした方法が将来的に、早期支援や個々の特性に応じた介入を考える上で重要な手がかりになる可能性があると述べています。
歩き方の「上手・下手」ではなく、「どのようにばらつきながら発達しているのか」という視点は、自閉症の理解をより立体的にしてくれます。
今回の研究は、見過ごされがちな幼児期の運動の特徴に光を当て、自閉症の発達をより丁寧に理解するための一歩となるものです。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07173-4)(画像:たーとるうぃず)
うちの子も、ふつうの速度のときはおかしくないように思うのですが、速度を上げると左右対称でなくスキップのような感じになります。
たしかに、歩行に違いは現れるように思います。
(チャーリー)




























