この記事が含む Q&A
- ARやVRを使った訓練はADHDの子どもにどんな社会的スキルの向上を目指していますか?
- 相手と目を合わせることや会話を始める・続ける、表情の理解などの社会的コミュニケーション能力の改善を目的としています。
- VR/ARの特徴としてどんな利点が報告されていますか?
- 安全な仮想場面で練習でき、即時フィードバックで行動を修正でき、参加意欲や継続率が高いと報告されています。
- 現時点の課題は何ですか?
- 研究の規模や長期効果の検証がまだ十分でなく、ARとVRの最適な組み合わせははっきりしていません。
ADHD(注意欠如・多動症)のある子どもについて語られるとき、よく注目されるのは「集中できない」「落ち着いていられない」といった特徴です。
しかし、ADHDのある子どもが直面する困難はそれだけではありません。
多くの子どもが、友達との関係やコミュニケーションの場面でも難しさを感じています。
たとえば、会話の順番を待つこと、相手の気持ちを読み取ること、グループの中で協力して活動することなどです。
こうした社会的なスキルは、学校生活や友人関係を築くうえでとても重要です。
しかしADHDのある子どもたちは、衝動的に行動してしまったり、注意がそれたりすることで、こうしたやりとりがうまくいかないことがあります。
こうした社会的な課題を支援する新しい方法として、近年注目されているのがVR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった技術です。
キプロス健康社会科学大学の研究者たちは、ADHDの子どもに対するARとVRを使った支援について、これまでに行われた研究をまとめて分析しました。
この研究は、複数の研究を整理して全体の傾向を探る「ナラティブ・システマティックレビュー」という方法で行われています。
研究者たちは2015年から2025年までに発表された関連研究を調べ、最終的に28本の研究を分析しました。
参加していたのは主に6歳から14歳のADHDの子どもたちで、学校や臨床の場で行われたさまざまな実験研究が含まれていました。

分析の結果、ARやVRを使った支援にはいくつかの共通した特徴があることが見えてきました。
まず多くの研究で確認されていたのが、社会的コミュニケーションの改善です。
VRやARのプログラムを体験した子どもたちは、次のような能力の向上が報告されていました。
相手と目を合わせること
会話を始めること
会話を続けること
相手の表情や社会的サインを理解すること
こうしたスキルは、友人関係を築くうえで欠かせない能力です。
多くのVRプログラムでは、子どもたちは仮想空間の中で社会的な場面を体験します。
たとえば、友達と会話する場面や、グループ活動に参加する場面などです。
子どもたちはその中でロールプレイを行いながら、社会的な行動を練習します。
このとき重要なのが、すぐにフィードバックが返ってくることです。
適切な行動をすると報酬が与えられ、うまくいかなかった場合には改善のヒントが提示されます。
こうした仕組みによって、子どもたちは試行錯誤を繰り返しながら社会的スキルを学ぶことができます。
研究では、ARやVRのトレーニングが注意力や実行機能にも影響を与える可能性が示されました。
ADHDのある子どもは、注意を持続させたり、衝動を抑えたり、行動を計画したりする能力に困難を抱えることがあります。
こうした能力は「実行機能」と呼ばれ、社会的な行動にも深く関係しています。
VRのトレーニングでは、注意を集中させるミニゲームや課題が含まれることがあります。
こうした課題を繰り返すことで、注意の持続や問題解決能力、認知の柔軟性などが向上する可能性があると報告されています。
さらに、ARやVRのもう一つの特徴として、子どもたちの参加意欲の高さが挙げられます。
従来の社会スキルトレーニングでは、子どもが集中を保つことが難しい場合があります。
しかしVRやARでは、ゲームのような体験や映像・音による刺激、インタラクティブな操作があるため、子どもたちが興味を持ちやすくなります。
実際にいくつかの研究では、VRを使ったプログラムの方が従来の授業形式よりも参加率や継続率が高かったと報告されています。

また、こうした変化は研究室の中だけでなく、家庭や学校でも観察されています。
いくつかの研究では、親や教師に子どもの変化を評価してもらいました。
その結果、子どもが家庭や学校で自分から会話を始めることが増えたり、グループ活動に参加する姿が増えたりするなどの変化が報告されました。
つまり、仮想環境で練習した行動が、実際の生活にも広がる可能性があるということです。
研究では、ARとVRの違いについても分析されています。
ARは、現実の世界にデジタル情報を重ねる技術です。
スマートフォンやタブレットを通して、表情のヒントや行動のガイドなどが表示されることがあります。
この方法の特徴は、現実の環境の中で学習できることです。
一方、VRは完全な仮想空間を作り出します。
そこでは教室や遊び場などの状況を再現することができ、同じ社会的場面を何度も安全に練習することができます。
さらに最近では、ARとVRを組み合わせた支援も登場しています。
たとえば、まずVRで社会的スキルを練習し、そのあとARを使って現実の場面で応用するという方法です。
こうした方法は、学習と実生活の橋渡しをする可能性があると考えられています。
ただし研究者たちは、この分野にはまだ課題も多いと指摘しています。
今回分析された研究は、参加人数やトレーニングの期間、評価方法などがそれぞれ異なっていました。
また、長期間の効果を調べた研究もまだ多くありません。
そのため、どの方法が最も効果的なのかについては、まだはっきりした結論は出ていません。

それでも、研究全体から見えてくることがあります。
ARやVRは、ADHDの子どもたちが社会的スキルを学ぶための新しい環境を提供する可能性があるということです。
仮想空間では、子どもたちは安心して失敗することができます。
そして何度も練習することで、少しずつ新しい行動を身につけていきます。
社会的なスキルは、教科書の知識だけで学べるものではありません。
実際の状況の中で試しながら、少しずつ身についていくものです。
VRやARは、その練習の場を新しい形で提供しているのかもしれません。
研究者たちは今後の課題として、より大規模な研究や長期的な追跡調査、評価方法の標準化などの必要性を指摘しています。
そして特に、ARとVRを組み合わせた支援の可能性が、これからの研究の重要なテーマになると述べています。
テクノロジーは、子どもの発達を支える新しい道具になりつつあります。
そしてそれは単に新しい機械を使うということではありません。
子どもが安心して人と関わり、友達とつながり、自分の力を発揮できるようにする。
そのための新しい方法を、私たちは少しずつ見つけ始めているのかもしれません。
(出典:Frontiers in Virtual Reality DOI: 10.3389/frvir.2026.1737227)(画像:たーとるうぃず)
まずVRで社会的スキルを練習し、そのあとARを使って現実の場面で応用する
安全な環境で学びを重ね、リアルワールドにサポートを受けながらチャレンジする。
納得の利用方法ですね。
(チャーリー)




























