この記事が含む Q&A
- 自閉症のある子どもは、いつテレビを見始める傾向があるのですか?
- 自閉症のある子どもは平均して生後4か月ごろから見始めます。
- 自閉症のある子どもの1日におけるテレビ視聴時間はどのくらいですか?
- 自閉症のある子どもは1日平均7時間以上視聴することが多く、9時間を超える例もありました。
- この研究が示そうとしている主な解釈は何ですか?
- テレビが自閉症を引き起こすかは結論づけず、感覚調整の手段や「変わらない世界」を提供する装置として捉えられる可能性がある点です。
自閉症のある子どもは、小さいころからテレビを見すぎているのではないか。
臨床の現場で、親からそうした声が聞かれることは珍しくありません。
「テレビをつけると落ち着く」「家事をする間、見せていた」「自分のせいなのではないか」。
説明を受けても、心のどこかに罪悪感が残ってしまう。
そうした親の感覚そのものを、数のデータとして丁寧にすくい上げようとした研究があります。
この研究を行ったのは、チュニジア・モナスティール大学の児童青年精神医学部門を中心とする研究グループです。
チュニジアという特定の文化・生活環境の中で、自閉症のある幼児がどのようにテレビに触れているのかを、同年代の定型発達の子どもたちと比較しました。
対象となったのは、1歳から4歳までの自閉症のある子ども150人と、年齢をそろえた定型発達の子ども150人です。
自閉症の診断は、児童精神科医が子どもの様子ややりとり、発達の経過などを総合的に見たうえで行われました。
国際的に使われている診断の基準や、行動の特徴を評価する尺度を組み合わせて、慎重に判断しています。
一方、比較のために参加した子どもたちについては、自閉症の可能性がないかどうかを確認するための、広く使われている質問票が用いられました。

研究者たちが最も注目したのは、「どれくらい見ているか」だけではありません。
「いつから見始めたのか」
「どんな番組を、どんなふうに見ているのか」
「大人はそばにいるのか」
そうした生活の細部です。
まず、テレビ視聴の開始時期に、はっきりとした差が見られました。
自閉症のある子どもたちは、平均して生後4か月ごろからテレビを見始めていました。
一方、定型発達の子どもたちは、平均14か月ごろからでした。
半年や数か月の違いではありません。
生後まもない時期から、すでに環境が違っていたことになります。
1日の視聴時間の差は、さらに大きなものでした。
自閉症のある子どもたちは、1日平均7時間以上テレビを見ていました。
中には9時間を超える例もありました。
それに対して、定型発達の子どもたちの平均は1時間未満でした。

視聴のタイミングにも違いがありました。
自閉症のある子どもたちは、時間帯を問わず一日中テレビがついているケースが多く、
定型発達の子どもたちは、夕方や夜に、親と一緒に見ることが中心でした。
「つけっぱなし」という表現が当てはまるのは、圧倒的に自閉症のある子どもたちのほうでした。
見ている内容にも、明確な傾向がありました。
自閉症のある子どもたちは、同じ映像や音楽が何度も繰り返される、非常に反復的な子ども向け音楽ビデオを好んでいました。
同じメロディ、同じ動き、同じ構成。
一日に何度も同じ映像が流れるチャンネルが、主な視聴先でした。
それに対して、定型発達の子どもたちは、アニメーションや家族向け番組など、内容に変化のある番組を見ていました。

視聴のしかたも印象的です。
自閉症のある子どもたちは、テレビのすぐ前に立ち、1メートル以内の距離で画面を見続けることが多くありました。
視線は画面に固定され、ときに周辺視で見たり、まばたきを繰り返したり、首を傾けたりする様子も観察されています。
大人に話しかけたり、反応を求めたりすることはほとんどありませんでした。
そして、決定的な違いがありました。
自閉症のある子どもたちは、9割以上が「ひとりで」テレビを見ていました。
一方、定型発達の子どもたちは、ほぼ全員が大人やきょうだいと一緒に見ていました。

親がテレビをつける理由についても、調査されています。
自閉症のある子どもの親は、
「落ち着かせるため」
「食事をさせやすくするため」
「家事をするため」
といった実用的な理由を多く挙げていました。
テレビは娯楽というより、生活を回すための手段になっていたことがうかがえます。
研究者たちは、これらの結果をもとに、いくつかの解釈を示しています。
重要なのは、この研究が「テレビが自閉症を引き起こす」と結論づけていない点です。
因果関係は証明できないことを、論文中でも明確に述べています。

むしろ、逆の見方も成り立ちます。
社会的なやりとりが難しい子どもにとって、
予測可能で、刺激が一定で、要求される反応の少ないテレビは、非常に魅力的な環境だったのかもしれません。
繰り返し同じ刺激を受け取ることで、不安が下がり、安心できた可能性もあります。
研究者たちは、テレビを「単なる娯楽」ではなく、
自閉症のある子どもにとっての感覚調整の手段、
あるいは「変わらない世界」を提供する装置として捉えています。
その一方で、大人との共同視聴がほとんど行われていないことが、
社会的なやりとりの機会をさらに減らしている可能性にも触れています。
この研究には限界もあります。
データは保護者の記憶にもとづくものであり、過去の出来事を正確に思い出しているとは限りません。
また、診断にADOSなどの標準化検査が使われていない点も、研究者自身が課題として挙げています。

それでも、この研究が持つ意味は小さくありません。
自閉症のある子どもとテレビの関係を、
「よい」「悪い」で切り分けるのではなく、
どのような環境が、どのように重なっていたのかを、具体的な数字で示したからです。
親の行動を責める研究ではありません。
むしろ、日々の生活の中で、親がどんな工夫をし、どんな選択を迫られていたのかを、静かに浮かび上がらせています。
テレビを見ること自体が問題なのではない。
いつ、どれくらい、どんな形で、誰と見るのか。
その問いを、感情ではなくデータとして共有するための研究でした。
自閉症のある子どもと環境との関係は、単純ではありません。
この研究は、その複雑さを、丁寧に示した一つの記録と言えそうです。
(出典:Discover Mental Health DOI: 10.1007/s44192-025-00318-y)(画像:たーとるうぃず)
うちの子は、小さな頃から今でも、ほとんどテレビに関心を示すことはありません。
ただ、iPhoneやiPadを見つけると必ず、裏返しだったら表にして、画面にタッチをして画面をつけます。
つけるだけでほとんど見ることもないのですが。
(チャーリー)





























