この記事が含む Q&A
- 賃貸世帯では、住宅費負担が子どもの多動・不注意リスクに影響しますか?
- はい、収入の30%を超えるとリスクが有意に高くなると報告されています。
- 持ち家世帯でも同じ傾向が見られますか?
- いいえ、持ち家世帯では住宅費の割合が高くてもリスクは有意には高くなりませんでした。
- 住まいの安定性や親のストレスは子どもの行動に影響しますか?
- はい、住まいの安定性と親の不安・抑うつが子どもの多動・不注意傾向と関連することが示されています。
新型コロナウイルスの流行は、子どもたちの生活だけでなく、家庭の経済状況にも大きな影響を与えました。
仕事が不安定になり、収入が減り、それでも家賃や住宅ローンは待ってくれない。
こうした状況の中で、「住まいにどれだけお金を取られているか」が、子どもの行動や気持ちのあり方と関係しているのではないか。
この疑問を、アメリカの大学研究者たちがデータに基づいて検証しました。
この研究を行ったのは、セントルイス大学ソーシャルワーク学部、ワシントン大学セントルイス校ブラウン・スクール・オブ・ソーシャルワーク、そしてオクラホマ大学ザロー・スクール・オブ・ソーシャルワークに所属する研究チームです。
いずれも、家庭環境や社会的ストレスが子どもの発達や行動に与える影響を専門的に研究している学術組織です。
研究が注目したのは、子どもの「多動・不注意」と呼ばれる行動の傾向です。
落ち着きがない、注意が続かない、衝動的に行動してしまうといった特徴で、連続的な特性として誰にでも程度の差はあります。
研究者たちは、こうした傾向が、家庭の経済的なストレス、とくに「住宅費の負担」とどのように関係しているのかを調べました。

ここでいう住宅費の負担とは、収入のうちどれくらいの割合が、家賃や住宅ローン、光熱費などの住居関連費用に使われているか、という指標です。
一般的には、収入の30%未満であれば負担が低い状態、30〜50%であれば「住宅費負担あり」、50%を超えると「深刻な住宅費負担」と考えられています。
この研究では、この区分を用いて家庭の状況を整理しています。
分析に使われたのは、アメリカで長年続いている大規模な社会調査である**パネル調査データ(Panel Study of Income Dynamics)**です。
2019年時点の家庭の経済状況と、2021年に評価された子どもの行動特性を結びつけることで、コロナ禍の影響を反映した分析が行われました。
対象となったのは約2600人の子どもで、持ち家世帯と賃貸世帯の両方が含まれています。

まず重要なのは、「持ち家か、賃貸か」で結果が大きく異なった点です。
賃貸住宅に住む家庭では、住宅費の負担が重くなるにつれて、子どもの多動・不注意のリスクがはっきりと高くなっていました。
とくに、収入の30%を超えて住宅費に使っている家庭では、30%未満の家庭と比べて、子どもの多動・不注意の傾向が有意に高くなっていました。
50%を超える深刻な負担の家庭でも、同様にリスクの上昇が確認されています。
一方で、持ち家世帯では、同じような傾向は見られませんでした。
住宅費が収入の半分以上を占めていても、多動・不注意のリスクが有意に高くなることはなかったのです。
研究チームは、この違いについて、「住宅費の額そのもの」よりも、「住まいの安定性」が子どもの行動に影響している可能性があると考えています。

賃貸住宅の場合、家賃の支払いに追われることは、退去や住み替えへの不安と直結しやすくなります。
住環境が不安定になりやすく、親のストレスも高まりやすい状況です。
その結果、家庭内の雰囲気や生活リズムが乱れやすくなり、子どもの注意や行動のコントロールに影響が及ぶ可能性があります。
研究では、親の心理的な負担も重要な要因として示されています。
親の不安や抑うつが強いほど、子どもの多動・不注意の傾向は高くなることが、賃貸世帯・持ち家世帯のどちらでも確認されました。
また、過去に行動上の困りごとがあった子どもは、その後も同様の傾向を示しやすいことも示されています。
この研究の特徴は、親の年齢や学歴、家族構成、収入や資産、子どもの年齢や性別など、多くの要素を統計的に調整したうえで分析している点です。
そのうえで、賃貸世帯においては「住宅費が収入の30%を超えるかどうか」が、子どもの行動リスクを分ける一つの境目になっていることが示されました。
ただし、この研究は診断を行ったものではありません。
医療的な診断名ではなく、日常的な行動の傾向を点数化した指標を用いています。
そのため、ここで示されているのは「多動・不注意になりやすさの度合い」です。

それでもこの研究は、子どもの行動上の困りごとを考えるとき、家庭のしつけや個人の特性だけでなく、住まいと経済状況という生活の基盤を同時に見る必要があることを示しています。
とくに賃貸住宅に住む家庭では、住宅費を収入の30%以下に抑えられるかどうかが、子どもの発達環境を守る一つの要因になりうることが示唆されました。
この論文は、「子どもの多動や不注意は、その子自身の問題だ」と簡単に片づけてしまう見方に、問いを投げかけています。
子どもの行動の背景には、家庭の経済状況や住まいの安定性といった、見えにくい要因が重なっているかもしれない。
その視点を持つことが、理解や支援のあり方を考える出発点になるのかもしれません。
(出典:Research on Child and Adolescent Psychopathology DOI: 10.1007/s10802-025-01413-y)(画像:たーとるうぃず)
生活の不安による親のストレスと子どもの症状の関連。
この理屈は、たしかにありそうです。
(チャーリー)





























