
この記事が含む Q&A
- アスペクト・ヒルズ・シャイア・スクールはどのような目的に基づいて設計されていますか?
- 自閉症の子どもたちのニーズを支え、安心して学び、心の安定を促すことを目的としています。
- 自閉症にやさしいデザインの特徴は何ですか?
- 予測可能性、安全性、構造性を重視し、見通しの良い廊下やリスクを軽減する素材の使用などが挙げられます。
オーストラリア・シドニーの郊外に新たに開校した「アスペクト・ヒルズ・シャイア・スクール」は、自閉症の子どもたちのために設計された小学校です。
幼稚園生から小学6年生までの最大72人の児童を受け入れるこの学校が開かれました。
生徒の学びと心の安定を支えるために、「目的を持った学校設計」が重視されています。
この学校を運営する「アスペクト」は、自閉症に特化した教育プログラムを提供する非営利団体で、今回の開校でニューサウスウェールズ州と南オーストラリア州での学校数は10校目となりました。
アスペクト・ヒルズ・シャイア・スクールは2階建てで、自閉症に配慮した教室が12室、多目的ホール、感覚的な刺激を受けられる屋外エリア、生活スキルを学べるキッチン、テクノロジールーム、図書室などが完備されています。
校長のシェーン・モリスが新校舎を紹介し、子どもたちの学びを支えるために施された工夫について語ります。
アスペクトの教育部門ディレクター、マリアン・ゴスリングによると、すべてのアスペクト校は、「自閉症の子どもたちのニーズを真に支える学習環境をつくる」という明確な目的のもとに設計されているとのことです。
そのため、校舎のすべての構成要素が、「快適さ」「自立」「集中」を促す視点から検討されています。
ゴスリングは、今回の新校舎でも「アスペクト設計ガイドライン」と「自閉症にやさしいデザイン基準」が取り入れられており、それらは研究結果と実際の体験、教育・デザイン・医療分野の専門家たちとの連携によって作られたと説明しています。
重視されているのは、「構造性」「予測可能性」「安全性」によって、生徒の心身の安定と学習意欲を高めることです。
廊下は広く、見通しもよく、移動のストレスを最小限に抑えるためのゾーン分けがされており、「秩序」を感じさせ、余分な感覚刺激を排除する工夫がされています。
落ち着けるエリア、吸音設計、屋外の感覚エリアなどが一体化していて、生徒は1日を通して自分の状態を調整しやすく、集中もしやすくなります。「学習環境は機能的であるだけでなく、自閉症の生徒たちの多様なニーズに応える柔軟性も求められるのです」と、ゴスリングは述べています。
【安全面の配慮】
校長のモリスは、「自閉症の子どもは、空間認識や奥行きの感覚、感覚情報の処理に違いがある場合が多く、それがケガのリスクを高めることがある」と説明します。
そのため、校舎には静かに閉まるドア、衝撃に強い素材、安全な柵や見通しの良さなど、すべてにおいてリスクを減らす工夫がなされています。
とくに屋外通路には、安全性を意識した設計がなされています。
通路の端には安全ゲートが設置されており、生徒が安心して移動できるように配慮されています。
モリスによると、これは教職員や保護者にとっても大きな安心材料だといいます。
通路は広く明瞭で、混雑を避けるために設計されており、生徒が安心して落ち着いて移動できるようになっています。
使用されている素材は耐久性と安全性を重視して選ばれており、スタッフの目が行き届く構造になっています。
【屋外遊び場の工夫】
屋外遊び場も、「体を動かすこと」「社会性の発達」「感覚の探求」を支えるために特別に設計されています。地面に埋め込まれたトランポリンやブランコ、ロープ遊具など、身体のバランスや動作の協調性を促す設備が設けられています。
また、音とリズムを通じて表現力を養えるよう、誰でも使える音楽ステーションも備えられています。
感覚過敏への配慮も重要視されており、日よけの屋根、柔らかい地面の素材、曲線的で自然なレイアウトが組み合わさることで、生徒が安心して活動できるようになっています。
ゾーンは小グループに適した広さで、教室の外でも学びを深められる設計です。モリスは「遊びも全人的な教育の一部です」と語っています。
【「カームゾーン(落ち着きエリア)」の導入】
「カームゾーン」と呼ばれるスペースは、各教室に組み込まれた重要なエリアです。
家具の一部として設けられた囲いのあるスペースでは、生徒が静かで刺激の少ない環境の中で気持ちを整えたり、1対1の指導を受けたりできます。
この空間では、外からの音や視覚的な刺激を最小限に抑えつつ、教員が様子を確認できる視認性も確保されています。
柔らかいクッションや照明、明確なサインが使われており、生徒が自立して安心して利用できるように設計されています。
【目的に沿った教室設計】
教室の設計には、「柔軟性」と「構造性」の両立が求められています。
モリスは、「各ワークステーションが明確に区切られており、集中して個別に学べるだけでなく、必要に応じてサポートも受けやすい」と語っています。
教室は自然光が差し込み、落ち着いた色合いで統一され、音響にも配慮されています。
収納スペースが多く、物が散らからないよう工夫されており、学習スペースが明確に区分けされています(個別デスク、円形ラグエリア、静かな隅など)。
これにより、生徒は1日の流れに予測が立てやすく、安心感を得られます。
モリスは、「すべての生徒が、自分の強みとニーズに合った、直感的で支援的な学習環境を受けるべきだというのが、私たちの基本的な考えです」と語っています。
【生活スキルを育てるキッチン】
生活スキルを育むためのキッチンも、実社会に通じる学びを重視する学校の姿勢を表しています。
ここでは、生徒が日常生活で必要なスキルを、構造化された環境の中で安全に学ぶことができます。
生徒たちは、決まった手順に従って行動したり、視覚的なスケジュールを使って行動を組み立てたりする練習を通じて、学校の外でも活かせる自信を育んでいきます。
このように、アスペクト・ヒルズ・シャイア・スクールでは、自閉症の生徒たちが最大限の能力を発揮できるよう、すべてが意図をもって設計されています。
建物の構造から教室の配置、屋外空間の使い方まで、そのすべてが子どもたちの「学び」と「安心」を支えるために存在しています。
(出典・画像:豪Teacher)
うちの子が通っていた特別支援学校も素晴らしかったですが、とてもいいですね。
こうした学校がますます増えることを期待しています。
(チャーリー)