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自閉症の若者の不安やうつに運動が効く。脳と心の変化を研究

time 2025/08/16

この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。

自閉症の若者の不安やうつに運動が効く。脳と心の変化を研究

この記事が含む Q&A

自閉症のある若者に運動は脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)の働きや炎症レベルに変化をもたらす可能性がありますか?
研究者はDMNの働きと炎症の変化を運動で探っていますが、現時点で結論は出ていません。
どんな運動が効果的ですか?
心拍数が少し上がる程度で、自分が楽しめる運動なら全て効果が期待できます。
運動と組み合わせた支援にはどんな取り組みがありますか?
CBTを用いた不安対処プログラムを学校で展開し、運動を取り入れる形で自分らしく生きる支援を進めています。

「運動が健康によい」ことは、誰もが知っていることです。
でも、それがどんなふうに「よい」のかは、実は人によって違うのかもしれません。
心臓発作から回復する患者さんには、運動が筋肉を鍛え、回復を助けることがよく知られています。
高齢者にとっても、体力の低下を防ぐ手段として医師がすすめるのも当たり前です。

では、自閉症のある10代の若者たちにとって、運動はどんな効果をもたらすのでしょうか?

この難しい問いに取り組んでいるのが、アメリカ・コロラド大学医学部の研究チームです。
研究を進めているのは、精神医学部門の発達心理生物学研究グループに所属するポスドク研究者のケリー・コスグローブです。

彼女たちの研究は、「運動によって、自閉症のある若者が社会的なふれあいに前向きになったり、不安やうつの症状がやわらいだりするかもしれない」という考えにもとづいています。
これは、まだ比較的新しい研究分野です。

これまでにも、運動によって自閉症のある人たちの対人関係が少しスムーズになることを示した研究は少しだけあります。
コスグローブたちは、それをさらに進めて証拠を増やそうとしています。

今回、彼女たちが行っているのは、13歳から19歳の若者を対象にした調査です。参加したのは、もともとあまり体を動かしていなかった若者たち。
週に1時間未満しか運動していなかった人たちに、週に3回以上、30分間の運動を10週間続けてもらいました。

どんな運動でもかまいません。
ただし、心拍数が少し上がる程度の強度で、自分が楽しいと感じられるものであること。
参加者たちはフィットネス用の腕時計(Fitbit)をつけて、自分の運動量を記録しながらプログラムに取り組みました。

この運動プログラムを設計したのは、精神医学部門の准教授であり、コスグローブの指導教員であるクリスティーナ・レゲットです。
レゲットの目的は、「運動を続けることができるのか」ということをまず知ることでした。
その上で、脳や体の中でどんな変化が起こるのかも探っています。

コスグローブたちは、特に2つのポイントに注目しています。
それは「脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)」と「体内の炎症反応」です。

デフォルトモードネットワークとは、脳が何もしていないとき(つまり休んでいるとき)に活発になるネットワークです。
複数の脳領域がつながっていて、自分自身について考えたり、空想したりするために働いているとされています。
このネットワークがうまく働くことで、自分がどんな人間で、他人とどう関係しているかを考えることができるのです。

でも、このネットワークの働き方には個人差があります。
働きすぎると、頭の中で同じことをぐるぐる考えてしまう「反すう」に陥る可能性がありますし、逆にうまく連携できないと、自分や他者とのつながりを感じにくくなることがあります。

自閉症のある人たちでは、このデフォルトモードネットワークの働き方に特徴があることが、これまでの研究でも指摘されてきました。
とはいえ、その変化がどんなものなのか、まだよくわかっていません。
そこで、コスグローブたちは、運動によってこのネットワークがどう変化するのかを調べています。

調査にはfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使います。
これは、脳の活動を画像で見ることができる装置です。
参加者たちは、調査の前後で脳の活動を測定されます。
その際に使われるのが「心の理論」課題です。

この課題では、画面上に図形(たとえば三角や丸)が表示され、それらが動き回ります。
参加者は、それが「ランダムに動いている」と感じるのか、「何か意図をもってやりとりしている」と感じるのかを答えます。

コスグローブによると、自閉症のある人は、この動きを「ランダム」と判断しやすい傾向があります。
つまり、他者の気持ちや意図を想像することに少し難しさがあるかもしれないということです。

「たとえ行動の変化が見えなくても、脳の中で変化が起きていたら、それはとても重要なサインになります。
もしかすると、もっと長期間の運動が必要なのかもしれません。
今は、その入り口を探っている段階です」

一方、体の中の「炎症」にも注目しています。
炎症とは、けがや病気に対する免疫反応ですが、自閉症のある人たちの中には、慢性的に軽度の炎症状態が続いている人がいることが知られています。

今回の研究では、血液を調べて3種類の「サイトカイン」(免疫に関わるたんぱく質)を測定しています。
これらは、炎症を促すはたらきをもつ物質です。

炎症があると、人は自然と「病人のような行動」をとるようになります。
たとえば、誰かと会いたくなくなったり、元気がなくなったり、引きこもりたくなったりします。
これらは、本来なら一時的なものですが、慢性的な炎症が続くと、社会的な関わりを避けるようになることが考えられます。

「もし運動によってこの炎症レベルが下がれば、社会的な活動への意欲も高まるかもしれません」

他の人たちへの研究では、運動が炎症を下げる効果があることはすでにわかっています。

もちろん、運動だけですべてが解決するわけではありません。
自閉症のある若者たちは、それぞれにちがったニーズと強みをもっており、効果にも個人差があります。

それでも、運動が心身に良い影響を与えることは広く知られています。
コスグローブは、今の時代にこそ、その意味が大きいと感じています。

「SNSやゲームなどで孤立しがちな若者たちにとって、体を動かすことは孤独を解きほぐす力になるかもしれません」

この研究は、彼女のメンターであるジュディ・リーヴンの仕事とも重なります。
リーヴンは、自閉症のある子どもたちの「不安」を軽くする方法を長年研究してきました。

リーヴンによれば、不安の原因はひとつではありません。
ただ、自閉症のある人と、そうでない人とが「ちがう社会」を生きているという前提に立つことで、すれちがいや誤解が生まれ、それが不安につながると考えています。

彼女たちは、そうした不安に対処する方法として「認知行動療法(CBT)」を応用しています。
CBTは本来、考え方や行動パターンに注目して不安やうつに対処する心理療法です。自閉症の子どもにも使えるように、より視覚的で、具体的な内容にアレンジしています。

彼女たちの作ったプログラム「Facing Your Fears(恐怖に向き合う)」は、学校の中でも活用できるように設計されています。
現在は、アメリカのエモリー大学やノースカロライナ大学とも連携し、学校現場での支援体制の整備が進んでいます。

このプログラムでは、運動も重要なパートとして扱われています。

「ストレスにどう対処するかを知るために、体の状態に意識を向けることが大切です」

その運動は、特別なトレーニングである必要はありません。
家族のペットと遊ぶ、散歩に出かける、プールで泳ぐ──そうした活動でも十分なのです。

研究者たちの最終的な目標は、自閉症のある人が「自分らしく生きる」ことを支えることです。
かつては、社会に「適応させる」ことが支援の目的とされていましたが、今ではその考えは変わりつつあります。

「本人がどう生きたいのか、何を大事にしたいのかに耳を傾けること。それをプログラムに取り入れることが、これからの支援には必要です」

コスグローブも、今回の運動研究が「よりよい暮らし方」を見つけるためのヒントになることを願っています。

「私たちは、自閉症を治そうとしているのではありません。
よりよく生きるために、環境をどう整えるかを考えているのです。それこそが、本当の目的なのです」

(出典:米コロラド大学医学部)(画像:たーとるうぃず)

自閉症のある人が「自分らしく生きる」ことを支える。

こうした意識で、ますます多くの研究がされることを心より期待しています。

自閉症の子がもっと運動できるように。ChatGPTが支援

(チャーリー)


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