この記事が含む Q&A
- SGSTとは学校で10回×40分、砂とフィギュアを使い、仲間と作品をつくって見せ合う体験を通じて不安・衝動性・社会性などを改善する非薬物的セラピーです?
- SGSTは砂遊びを通じて心の安定と他者との関わりを支える、薬を使わない学校導入型のセラピーです。
- 対象となる子どもはどんな子どもですか?
- ADHDのリスクがある小学生で、注意の散りやすさや衝動性など一定以上がみられる子どもを対象にしています。
- 効果の持続性や研究の限界はどのように報告されていますか?
- 自己報告のみで追跡調査がなく、1校に限定され無作為割付ではない点など、効果の持続性と確実性には限界があります。
学校という毎日の生活の中心にある場所で、「砂あそび」が心の支えになる——そんな少し意外に思えるテーマについて調べた研究が、韓国のダンコク大学の研究チームによって発表されました。
この研究は、小学校5・6年生の中からADHDのリスクがある子どもたちを選び、その子どもたちに学校内で「スクール・グループ・サンドプレイ・セラピー(SGST)」を10週間にわたって体験してもらったものです。
薬を使わず、特別な機器も使わず、ただ砂と小さなフィギュアを使った心理的な支援が、どのように子どもたちの不安や衝動性、そしてルールを破りやすい行動に影響するのか。その効果を丁寧に調べています。
研究を実施したのは、ダンコク大学心理学大学院・医学部・医療健康科学部の研究チームで、専門のサンドプレイセラピーの経験を10年以上持つセラピストが担当し、小児精神科医が臨床的な監修を行いました。
研究期間は2025年5月から7月。韓国中部の都市にある小学校の協力で進められました。
ADHDは「注意がそれる」「気持ちが突っ走る」「体がじっとしていられない」といった特徴で知られていますが、実際にはそれだけではありません。
気持ちが不安定になりやすかったり、身体の不調として気持ちのつらさが現れたり、友だち関係が難しくなったり、ルールを守るのが苦手だったりと、日常の生活のあちこちで困りごとが重なっていきます。
今回の研究は、「診断がつくほどではないけれど、ADHDのリスクがある」と判断された子どもたちを対象に、その困りごとがどれだけやわらぐのかを見た点に特徴があります。

研究チームは、まず小学校5・6年生115名にADHD傾向のチェック(ADHD Rating Scale-IV)を行いました。
その中で、注意の散りやすさや落ちつかなさ、衝動性が一定以上みられた110人が研究参加に同意し、このうち最終的に54人がSGSTグループ、47人が対照グループとして分析されました。どちらのグループも年齢や男女比に大きな差はありませんでした。
SGSTは、1回40分、全部で10回。
子ども3〜4人の小グループで行われ、それぞれの子に一つずつ砂の箱が用意されます。
そこに小さな人形や動物、建物、自然物などのフィギュアを自由に並べ、思いのままの「世界」をつくっていきます。
作ったあとには、互いの作品を見せ合い、感じたことを話します。
手で砂に触れる感覚や、自分で選んだフィギュアを置いていく一連の流れは、言葉だけでは整理できない気持ちをそっと外に出す助けになります。
また、同じ空間で作品をつくる友だちを見ることで、「こうやって表現していいんだ」「こんな気持ちがあるんだ」と知るきっかけにもなります。
研究チームは、この10週間の前後で、子ども自身が記入する心理評価(K-YSR)を行いました。評価したのは、
- 不安や抑うつの強さ
- 身体の不調(頭痛やお腹の痛みなど)
- 社会性の未熟さ(友だちとの関係の難しさ)
- ルールを破る行動
この4つの指標です。
分析の結果、SGSTを受けたグループでは、不安・抑うつ、身体症状、社会的未熟さ、ルール破り行動のすべてにおいて、対照グループと比べて有意な改善がみられました。
とくに「社会的未熟さ」の改善はもっとも大きく、研究チームは「仲間と作品をつくること」「作品を見せ合うこと」「他の子のやり方を見て学ぶこと」が大きな働きをしたのではないかと考えています。

砂という素材は、触った瞬間にひんやり、さらさら、ざらざらと、子ども自身の感情を自然に呼び起こしてくれます。
そして、手を動かしながら、自分の世界を少しずつ形にしていくことで、不安や心のざわざわが少しずつ外に出ていきます。
この「表現するプロセス」が、言葉にしづらい内側のつらさをやわらげる役割を果たします。
今回の研究で特に興味深いのは、「ルール破り行動」が改善したという点です。
ADHDの特徴の中でも、衝動性は行動面に直接影響するため、学校生活のトラブルの原因になりがちです。
しかし、SGSTのように自分で砂の世界を作り、そのプロセスを友だちと共有する体験は、「順番を待つ」「他の子の作品を尊重する」「共存できる空間をつくる」といったルール意識を自然に育てます。
強制されたルールではなく、「みんなで気持ちよく遊ぶための暗黙のルール」を体験的に学べるのがSGSTの特徴です。
一方、ADHDの中核である「注意の問題」への効果は今回の評価では限定的でした。
これは、SGSTが「気持ちの安定」「衝動性の調整」「人との関係をなめらかにする」ことに向いている一方で、注意集中そのものを直接トレーニングする手法ではないためと考えられます。
研究チームは、今回の研究には限界もあると述べています。
- 自己報告(子ども自身の記述)のみで評価が行われたこと
- 追跡調査がなく、効果の持続性がわからないこと
- 研究が1つの学校に限定されていること
- 無作為割付ではなく、教師の協力状況でグループが決まったこと
こうした点から、SGSTの効果を確実に判断するには、より大規模で長期的な研究が必要とされます。

それでも、今回の結果が示すのは明確です。
砂というシンプルな素材を使った非薬物的なアプローチは、ADHDのリスクがある子どもたちが抱えがちな「内側のつらさ」と「行動面の困難」を同時に支える可能性があるということ。
毎日の学校生活の中で、自分の気持ちを整理し、人と心地よく関わる力を育てる——子どもたちにとってそれは、勉強と同じくらい大切な学びです。
SGSTは、その学びをそっと手助けする“安全な場所”の役割を果たしていました。
教室の片隅で砂をならし、小さな世界をつくる子どもたち。
その姿を通して、自分の気持ちを知り、誰かと共有し、衝動を少しだけコントロールできるようになっていく——今回の研究は、その過程を丁寧に数字として示したものです。
学校現場で導入できる負担の少ないプログラムとして、SGSTのような取り組みが広がれば、ADHDの特徴やそのリスクをもつ子どもたちが「生きやすさ」を感じられる時間は、もっと増えていくかもしれません。
(出典:children)(画像:たーとるうぃず)
「ルール破り行動」が改善。
これは、学校生活を送る上で大きなメリットがありますね。
楽しく学んでそうなる。
より効果的実践的な「砂あそび」が確立され伝えられることを期待しています。
(チャーリー)




























