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自閉症の息子を守り続ける母。続く不安、棺を見せたい理由

time 2025/06/16

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

自閉症の息子を守り続ける母。続く不安、棺を見せたい理由

この記事が含む Q&A

発達障害や自閉症の子どもを育てる親の心のケアはどのようにすればよいでしょうか?
専門家や支援団体のサポートや、同じ経験を持つ親との交流が役立ちます。
自閉症レベル3の子どもが危険な行動を取ったときの対処法はありますか?
安全確保と専門的な療育・支援を継続的に受けることが重要です。
親が亡くなった後、発達障害の子どもが安心して生活できるための準備は何ですか?
未来のケア計画や支援者、グループホームの手配など事前準備が必要です。

「ナイナイ(”Night night”)」と、レイチェルはやさしく息子のジェイソンをベビーベッドに寝かせながら声をかけました。

「ナイナイ」と、ジェイソンもかわいらしく答え、ふたりは見つめ合いながら愛情を交わしていました。

オーストラリア・ブリスベンで暮らすレイチェルの夜の習慣は、ジェイソンが成長してもずっと変わりませんでした。
ただ、ひとつだけ、とてもつらい出来事を除いては。

「ジェイソンが2歳くらいになったときから、もう“ナイナイ”と言ってくれなくなったんです」とレイチェルは話します。

それが、当時19歳だったシングルマザーのレイチェルにとって、これから続く長い闘いのはじまりでした。

生まれたばかりのジェイソンには、とくに気になることはありませんでした。
しかし、3歳になるころ、「全般的な発達の遅れ」「知的障害」「自閉症レベル3」と診断され、その後ほどなくして、言葉を一切話さなくなりました。

現在ジェイソンは18歳になりましたが、レイチェルは「息子が自分自身から危険な目にあわないか、不安でいなかった日はありません」と言います。

「小さい頃から、両手で自分の頭をたたいたり、大声で叫んだりすることがありました」

「夜中の3時に壁に走ってぶつかったり、壁に穴をあけてしまったり。自分のひざや腕を噛んでしまうこともあります。
一番大変なのは、72時間も続く大きなパニックで、叫びながら自分や物を叩き続けるんです。
そのときは救急車を呼ぶしかありません」

何度も病院に助けを求めましたが、レイチェルは絶望を感じることも多かったと言います。

「何度も“これは表面的なケガだから大丈夫”と言われてしまって。
私は何度も無理やり脳の検査をお願いしました。
けれど、自分の頭を何度も殴って、本当にダメージがないと言えるのでしょうか」

さらに、ジェイソンの行動が、もっと大きな危険につながるのではという不安も尽きません。

「ジェイソンは料理が大好きで、これまでにキッチンで火事が起きかけたことが何度もあります」

「だからいつも消火器を用意して、色々な対策をしています。
水道の蛇口も好きで、よく水を出しっぱなしにしてしまうんです。
“息子が必要な支援を受けられていません。24時間ずっと見守ることなんてできません”と、児童保護サービスやNDIS(オーストラリアの障害者総合支援制度)にも何度も連絡しています」

「火事になったり、家が水浸しになったりするかもしれないと思うと、安心して眠れません」

そしてレイチェルが何よりも心配しているのは、ジェイソンが突然いなくなってしまうことです。

「一番怖いのは、ジェイソンが外に出てしまうことなんです」

「去年、パートナーがスーパーに連れて行ったとき、ジェイソンが突然別のスーパーに行きたいと言って走り出してしまいました。
警察を呼んで探してもらうことになりました」

「うちには高さ180cmほどのフェンスがありますが、外に出られないように、すべてのドアに鍵をかけて、その鍵も金庫に入れて、さらにその金庫の鍵を首にかけていました。
小さい頃から何度も家から飛び出してしまったことがあるので、もうこうするしかありません」

「長い間、私は夜中に何度も目を覚まして、“ジェイソンはどこ?”“家から出ていないか?”“キッチンが火事になっていないか?”と心配で仕方ありませんでした」

レイチェル自身は線維筋痛症という慢性的な病気を抱えています。
それでも障害者支援の仕事をしながら、幼い子どもの世話もしています。
そのため、レイチェルとパートナーだけでのケアは限界を超えており、現在は週に3回は(うち2回は家族が)、ジェイソンは外部のケアラーと過ごし、さらに1日はケアラーがレイチェルの家で手伝いと見守りをしています。

「こんなに他の人にジェイソンを預けることは初めてで、不安は尽きません。
“私が知っているジェイソンの好きなこと、必要なことを、他の人は本当にわかるのだろうか?”と考えてしまいます」

「私ほど彼を理解して、愛してくれる人はほかにいません。
私たちは言葉がなくても通じ合うことができるんです」

ここ数年で祖父母を見送ったレイチェルは、自分自身の“最期”と向き合うことになりました。

「おじいちゃんとおばあちゃんの最期を看取ったとき、私は“自分が亡くなるとき、ジェイソンはどうなるの?”“私のそばに誰がいてくれるの?”と何度も自分に問いかけました」

「“ジェイソンをひとりぼっちにしてしまうのか”“誰が息子の面倒をみてくれるのか”――そう考えると、涙が止まりません」

「ただ、私の子どもには、安心して幸せに生きてほしい。それだけが願いなんです」

NDISを通して日々のサポートを得るための戦いは今も続きます。
レイチェルは、自分が息子のために闘えなくなったその先のことを考えると、気が遠くなります。

「ジェイソンが自立して一人暮らしをすることは一生できないでしょう。
いずれはサポート付きのグループホームで生活することになります」

「ずっと誰かの支援が必要なのです。
でも、今はもう大人になった分、必要な支援を得るのが一層むずかしくなっています」

レイチェルは、将来自分が亡くなるときのことまで考えて、ジェイソンが状況をしっかり理解できるようにしたいと思っています。

「私は、自分の葬儀では棺を開けて、ジェイソンに私の姿を見せ、棺が土に埋められるところまで見せたいんです。
私がどこに行ったのか、もう帰ってこないのかを100%理解してほしい。
そうしないと、ずっと混乱したままになってしまうかもしれないから」

(出典:豪Mamamia)(画像:たーとるうぃず)

棺桶の中まで見せたいとは考えたことはありませんが、自分がいなくなった後の心配はもちろんあります。

ずっと笑顔で過ごせるように、生きているうちにできることはしなくてはなりません。

知的障害の妹を55年守り続けた姉。終わらない孤独な愛の道

(チャーリー)


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