
この記事が含む Q&A
- アレクサンダー・ノーマン・ヨアゲンセンさんはどのように診断を受けたのですか?
- 彼は、自身の息子の発達障害評価の過程で自分にも特徴があると気づき、診断を受けました。
- 彼のADHDや自閉症は彼の仕事や生活にどのような影響を与えていますか?
- 深い集中力や細部への注意力という強みとともに、社会的な場面や非言語的なサインに気づきにくい課題もあります。
- 発達障害を持つ人々が職場で成功しやすくなるにはどうしたらよいですか?
- 職場の理解とサポート、安心して自己表現できる環境づくりが重要です。
アレクサンダー・ノーマン・ヨアゲンセンは、世界的なコンサルティング会社であるデロイトのパートナーとして、多くのプロジェクトを指揮してきました。
彼は、複雑な課題を整理し、成果を出すことが求められる高いプレッシャーの中で働いています。
しかし、その表面の裏側には、ADHD(注意欠如・多動症)と自閉症という、誰にも知られていない現実がありました。
彼は大人になってから、自身の診断を受けました。
それは、自分の息子が発達障害の評価を受けていたときのことでした。
その過程で、自分自身にも同じ特徴があるのではないかと気づき始めたのです。
「私はずっと、自分のやり方はそれで問題ないと思ってきました。
むしろ、それが自分の強みだと感じていました。
分析的に深く入り込み、核心を突く力が、コンサルタントとしての大きな強みになっていたのです」
実際、彼の集中力は非常に高く、深夜の締め切り前、疲れたチームの中でも、彼だけは小さな誤字や表現の微調整にまで気を配り、淡々と作業を続けていました。
誰もが目をこすり、スマートフォンをちらりと見ている中、彼は1点に集中し続けていました。
しかし、それは同時に困難でもありました。
部屋の中に漂う疲労感や沈黙、同僚たちの視線に、彼は気づくことができませんでした。
まわりの雰囲気や微妙なサインを自然に受け取ることが難しかったのです。
これは、彼の診断による特徴のひとつでした。
決して他人に無関心なのではなく、ただ、そうした非言語の情報が彼には届きにくいのです。
キャリアの初期から、彼は高い評価を受けてきました。
論理性や構造的思考を武器に、複雑な問題にも対応してきたのです。
しかし、それには代償もありました。
成果を出し続ける一方で、長い期間にわたって疲労や抑うつ状態に近い感覚を抱えることがありました。
「あるときは、2週間分の仕事を1日でこなせたのに、別のときには、1日の仕事を2週間かけても終わらせられないような気がすることもありました」
そうした状態を、彼は「やる気が足りない」「自分が弱い」と責めていた時期もありました。
結果として、社会的な不安感や、「自分はここに本当にふさわしいのか」という感覚が積み重なっていったのです。
彼がパートナー昇格のためにプレゼンをした際には、「実績よりも、“あなたという人間”を語ってほしい」と言われ、大きく戸惑いました。
クライアント相手であれば冷静に話せる彼ですが、自分自身のことを率直に話すことは非常に難しかったのです。
最初のプレゼンは緊張でうまくいかず、次の機会にはすべての言葉と表情を事前に練習して臨みました。
そうすることで「より良いプレゼン」にはなったものの、自分らしさを伝えられたかどうかはわからないと述べています。
これまでに3回、突然デロイトを辞めようとしたこともあったといいます。
しかしそのたびに、上司や仲間たちは彼を引き止め、受け入れてくれました。
彼はそれを「最も感謝していること」と語っています。
「私のような人間を諦めず、支えてくれたことに深く感謝しています。
ふつうなら、あきれられてもおかしくなかったはずです」
診断を受けたことで、なぜ自分が「曖昧な状況」や「予測できない人間関係」に強いストレスを感じるのか、理解できるようになりました。
また、服薬により集中力や構造的思考の維持が少し楽になったとも話しています。
世の中には、「発達障害はスーパーパワーだ」とする意見もありますが、アレクサンダーはそれには賛同していません。
「私は超能力者ではありません。
むしろ、ハンディキャップを持っていると思っています」
それでも、彼の強みが仕事に活かされる場面はたしかにあるといいます。
とくに、細部に対する鋭い目や集中力は、コンサルタントとして大きな力になってきました。
一方で、ソーシャルイベントやネットワーキングのような場面は、非常につらいものでした。
パートナーたちとの会食やパーティーでは、「その夜だけでなく、そのあと数日間もエネルギーが奪われた」と言います。
それでも「なぜ自分は楽しめないのか」と自分を責めていた時期が長くありました。
今では、そうした場面に無理に参加することは減らし、自分の特性を受け入れるようになってきました。
ただし、社会的なつながりの大切さ自体を否定しているわけではありません。
人との関係は大切だと理解していますが、それに向かうエネルギーや負荷には個人差があるということを、組織としても理解する必要があると訴えています。
彼は、職場での「成功のかたち」が少しずつ変わってきていることにも希望を感じています。
これまでは、外向的で雄弁なリーダー像が理想とされてきましたが、いまは専門知識の深さや、静かな集中力を持つ人も評価されるようになりつつあるのです。
また、自分がリーダーとなってからは、自分の社会的スキルが「自然に身についたものではなく、知識として学んできたもの」だと実感しているといいます。
たとえば、「朝の挨拶の仕方」や「雑談の始め方」などは、妻から教わったものです。
「私の妻が、根気強く教えてくれました。ありがたいことです」
と笑いながら話します。
感情の機微や雰囲気の変化には今でも気づきにくいことがあります。
だからこそ、「誰もが自分の状態を安心して口にできる職場づくり」が必要だと彼はいいます。
「疲れた」「静かに過ごしたい」と言える空気こそが、本当の意味での健全な組織文化につながるのです。
こうした思いから、アレクサンダーは社内で自らの経験を語りはじめました。
なぜなら、同じように苦しんでいる若手社員が、少なくないことを知ったからです。
これまで彼の診断を知っていたのは、ごく限られた同僚たちだけでした。
「責任ある立場を任せてもらえなくなるかもしれない」「チャンスが減るかもしれない」と考えていたからです。
今でも、その不安は消えていません。
しかしそれでも、「もし自分が先に声をあげれば、他の誰かが話しやすくなるかもしれない」と語ります。
アレクサンダーは、長年、成果がすべてとされる環境で生きてきました。
若い頃にはフェンシングの選手として、オリンピックの予選に挑んだこともあります。
しかし今、彼は「本当の意味での成果」は、信頼と率直さから生まれるものだと感じています。
「成果主義がいけないわけではありません。
ただ、それをもっと賢く、誰もが力を発揮できる形にしていく必要があると思います」
彼は、自分と同じように「黙って苦しんでいる人」が、少しでも孤独を感じずにすむように、自らの物語を語りはじめました。
それは特別なことではなく、誰もが自分らしくいられる社会の、小さな一歩なのかもしれません。
(出典:デンマークDelloitte.)(画像:たーとるうぃず)
日本でも有名な「デロイト」社ですが、こうした内容を企業サイトで公開しているのは本当に素晴らしいと思います。
こういう方が活躍されていて、それを広く伝えている企業。
そんな企業になら、仕事をお願いしたい、入社したい。そうなりますよね。
自閉症の人たちは金融業界においてアドバイザーなどで活躍。英国
(チャーリー)