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自閉症の子と定型発達の子で異なる「動きの雰囲気」認識力

time 2025/08/17

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自閉症の子と定型発達の子で異なる「動きの雰囲気」認識力

この記事が含む Q&A

自閉症の子どもは渡す動作の雰囲気を正しく読み取る力に差がありますか?
自閉症の子どもは正答率が約57%と低く、定型発達の子どもより読み取りが難しい傾向です。
渡す動作の速さの違いは自閉症の子どもにどんな影響を与えますか?
自閉症の子どもは約1.75秒、定型発達の子どもは約1.32秒で答え、反応の速さに差が生まれます。
どう支援すれば「やり方」を伝えやすくなりますか?
視線と手の動きを大きくゆっくり一定の速さで示し、声のトーンと間を安定させ、演じ分けの練習を取り入れると効果的です。

たとえば、家で子どもにコップを渡すとき、ゆっくり手を差し出して「はい、どうぞ」と言うときと、忙しそうにパッと手渡すときでは、同じ行動でも受け取る印象はまったく違います。
学校でも、友だちが鉛筆を手渡すときの動きひとつで、「やさしいな」「ちょっと怒ってる?」と感じ方が変わります。

私たちはこうした「渡し方」や「動きの雰囲気」から、相手の気持ちや状況を無意識に読み取っています。
けれど、自閉症のある子どもたちは、この“動きの雰囲気”を感じ取るときに、少し異なる特徴があることが研究で見えてきました。

イタリアのピサ大学らの研究チームは、これを「バイタリティ・フォーム(Vitality Forms)」と呼び、同じ「ものを手渡す」という行為でも、どう動くか(速さ、力の入れ方、間のとり方)によって、相手に伝わる感じが変わることに注目しました。
たとえば、ドアを静かに開けるか、勢いよく開けるかで、こちらの気持ちのトーンはまったく違って伝わります。これは怒りや喜びのような「基本感情」とは別で、行為の「やり方(どう)」に宿るニュアンスだとされています。

今回の研究では、自閉症のある男児(IQ70以上)と定型発達の男児をそれぞれ集め、タブレットに表示された短い動画を見てもらいました。
動画は、子どもが物を手渡す動きを「やさしい」「中立」「ぶっきらぼう」の雰囲気で演じ、それをアニメ調に加工したものです。
見る子どもたちは、表示された4つの絵文字(やさしい/中立/ぶっきらぼう/わからない)のどれかをタップして答えます。
実験の前には、ことばで「やさしい」「中立」「ぶっきらぼう」の意味をたずね、短い練習動画で分類する練習も行いました。

参加したのは自閉症の人19人、定型発達の人23人です。年齢と知能は両グループで大きな差はありません。
自閉症の人では標準的な観察検査(ADOS-2)で診断が確認され、両群ともに感情理解テストの評価も受けています。

結果です。まず、大きなポイントが三つありました。

まず、どちらのグループも雰囲気をある程度は見分けられましたが、自閉症の子どもは平均で10回中およそ6回(57.2%)正しく答えられたのに対し、定型発達の子どもは10回中7回(70%)と、はっきり差が出ました。

次に、答えるまでの速さも違いました。
自閉症の子どもは約1.75秒かかり、定型発達の子どもは約1.32秒で答えていました。わずかな差に見えますが、瞬間的な判断が求められる場面では大きな違いになりえます。

さらに、自閉症の子どもでは、この正答率や答えるまでの時間が「社会的なやりとりのしやすさ」と関係していました。
社会的コミュニケーションが苦手なほど、雰囲気の見分けが不正確になったり、答えに時間がかかる傾向があったのです。

研究チームは、動画刺激をさらに詳しく分類して、「多くの子どもが同じラベルを選んだ動き(合致)」「意見が割れた動き(不一致)」を分けて調べました。
合致している動画では、自閉症の人も定型発達の人も、それぞれ期待されるラベルを高い割合で選べていましたが、不一致の動画になると違いがはっきりしました。

自閉症の人は、とくに「ぶっきらぼう」さを表す動きを「中立」と受け取りやすいなど、判断が揺れやすくなっていました。
定型発達の人は不一致の動画でも、比較的「期待されるラベル」を選ぶ傾向が安定していました。

なぜ不一致の動画で差が出るのか。
研究では、手渡し動作の「到達」と「移動」の各場面で、平均速度や最大速度、平均加速度、最大加速度、手の開き具合、動いた距離といった運動の特徴(キネマティクス)を参照し、わずかな違いが受け取り方にどう影響するかを検討しました。

その結果、定型発達の子どもたちは、動きの細かい違いがあっても受け取り方があまりブレない一方で、自閉症の子どもたちは小さな違いによって判断が変わりやすい、という傾向が示されました。

研究チームは「バリエーション・インデックス」という指標でこの敏感さを数値化し、自閉症の人のほうが値が大きくなりやすい(=受け取りが変動しやすい)ことを報告しています。

反応時間については、全体として自閉症の人のほうが長く、また、どの雰囲気の動きに反応するかでも差がありました。
たとえば「中立」の動きには、ほかよりも時間がかかる傾向が見られています。
さらに、自閉症の人では反応が遅いほど、ADOS-2の社会性に関するスコアが高い(困難が大きい)という関係も示されました。

研究チームは、こうした結果から、自閉症の子どもたちは、動きの雰囲気を理解するときに「すばやく自動的に体の知識がよみがえる仕組み」よりも、「上から考えて当てはめる」ような、時間のかかる認知的な手順により頼っているのではないか、と解釈しています。

ふだん私たちは、他者の動きを目にしたときに、自分の中でその動きをなぞるような反応(ミラーメカニズム)を通じて雰囲気を感じ取ると考えられていますが、自閉症の子どもたちでは、その自動的な反応の寄与が小さく、わずかな動きの違いで判断が揺れやすいのかもしれません。

この考えは、これまでの神経科学研究で、雰囲気の表現と理解に関わる島皮質や帯状皮質のネットワークが示されていることや、自閉症では島皮質の構造・結合に違いが見られるという所見とも、方向性として整合します。
ただし、本研究は行動データが中心で、脳活動を同時に測ってはいないため、神経の仕組みについては今後の検証が必要です。

ここまでを、日常生活の場面で考えてみます。

私たちは、声のトーンや物の手渡し方、歩いて近づくときの足取りなど、相手の「どうやって」を見て、相手の気持ちや場の空気を読み取っています。

自閉症の子どもにとっては、その「どうやって」を示す細かな手がかりをまとめて捉えるよりも、ひとつひとつを注意深く見て当てはめる作業に近いのかもしれません。
合致したわかりやすい動きなら大丈夫でも、少し曖昧な動きや、やさしさと中立の間のようなニュアンスが混じると、判断が揺れやすく、時間もかかる——研究結果はその現れだと読めます。

支援や関わり方のヒントとしては、まず、動きや声の出し方といった「どうやって」を、はっきりさせることが役に立ちます。

たとえば、何かを手渡すときは、視線や手の動きを大きめに、ゆっくり、一定の速さで示す。
声かけは、ことばの内容と同じくらい、トーンや間の取り方を安定させる。
「今はやさしく手渡すね」「これは急いでるよ」といった言語化も、子どもが「どうやって」と意味を結びつける助けになります。

学校場面なら、ロールプレイや動画教材で、やさしい/中立/ぶっきらぼうの例を複数みせ、違いを整理しながら練習する方法が考えられます。
今回の研究でも、分類の練習を経てから本番に入っており、こうした段取りが理解を支えることが示唆されます。

また、子ども自身が演じる側に回って、同じ行為を「やさしく」「中立で」「ぶっきらぼうに」やってみる活動もおすすめです。

演じ分けることで、動きの速さや力加減、手の開き方、距離の取り方といった要素が、感じ方にどう影響するのかを、自分の体を通して学べます。
研究では、同じ「手渡し」でも、到達から移動までの動きのキネマティクスが雰囲気の違いを生み、そこが受け取りのズレにつながっていました。
だからこそ、「やさしく」はどういう速さや間か、「中立」はどうか、といった身体のレシピを一緒に作っていくことは、社会的コミュニケーションの練習に直結します。

もちろん、この研究にも限界があります。
参加者数は多くなく、男児に限られており、行動データが中心です。
より多くの子どもたちで、さまざまな年齢や女児も含めて確かめる必要がありますし、脳のはたらきを同時に測る研究が進めば、どのネットワークが「動きの雰囲気」の理解を支えているのか、より直接的に確かめられます。

それでも今回の成果は、「内容(何をするか)」だけでなく「やり方(どうするか)」がコミュニケーションの核であり、自閉症の子どもたちでは、その受け取りに特有のプロセスがはたらいていることを、具体的なデータで示しました。

家庭や学校、支援の場で、動きや声の“雰囲気”をはっきりさせ、練習の機会を作ること。
その積み重ねが、相手の気持ちや場の空気をつかむ助けになり、日々のやりとりのストレスを減らす一歩になるはずです。

(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-06953-2)(画像:たーとるうぃず)

多くの人が、動きから無意識に捉える「雰囲気」が、自閉症の子では、意識して捉えようとするために時間がかかり、捉えた結果も少し違うと。

他者との関わりで、苦労していることが想像できます。

そんなところにも困難をかかえている、きっと他にも。そう知らなければなりません。

「自閉症とは?」ゲームを通じて語られた当事者の真実。研究

(チャーリー)


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