発達障害のニュースと障害者のハンドメイド

自閉症の人の職場の困難と改善の具体的提案。米ハーバード大

time 2025/09/25

この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。

自閉症の人の職場の困難と改善の具体的提案。米ハーバード大

この記事が含む Q&A

自閉症の成人が職場で直面する主な課題は何ですか?
失業・不完全就労、メンタルヘルスの影響、職場環境の理解不足などが挙げられています。
職場を改善するための4つの主要テーマと具体的な対策は何ですか?
受容、コミュニケーション、自律性、配慮と調整を軸に、訓練・多形式の指示・定期的フィードバック・柔軟な勤務形態などを提案します。
研究が推奨する組織的な変化の方向性はどのようなものですか?
「トップダウン」で環境を整え、誰でも使える制度づくりと標準化、個別調整の常態化を進めることが重要です。

自閉症の成人は、自閉症でない人と比べて、仕事に関して大きな不平等を経験しています。
アメリカにおいては、失業率が50%から71%と報告され、雇用経験が一度もない人も少なくありません。
就職できても、自分の能力に合った仕事に就けない「不完全就労」が続くことも多いのです。

アメリカのブリガム・アンド・ウィメンズ病院とハーバード大学医学部の研究チームが、自閉症の人が直面する課題を「本人の問題」ではなく「職場環境の課題」として捉え直し、どうすれば職場を変えられるのかを探りました。

研究に参加したのは、アメリカに居住する85人の自閉症の成人です。
彼らは、自分の職場経験について数値的に評価し、さらに自由記述で「良かったこと」「つらかったこと」を語りました。

その結果、最も良い影響を与えていたのは「具体的なタスク訓練」であり、逆に最も悪い影響を与えていたのは「メンタルヘルスの問題」でした。

自由記述の分析からは、職場を改善するための4つの大きなテーマが見えてきました。

第一は「受容」です。
ある参加者は「自分の特性を理解し、信じてくれる上司がいることで安心できた。自分は頭が悪いのではなく、ただ違うだけだと感じられた」と述べました。
別の参加者は「同僚が自分の違いを個人的な欠点として受け止めるのではなく、自然なこととして扱ってくれると、信頼して働ける」と語っています。
一方で「多くの雇用主は自分の特性に理解がなく、考えるために少し時間を取っただけで怒鳴られたことがある」という声もありました。
受容の有無は、働きやすさに大きな影響を与えていました。

第二は「コミュニケーション」です。
参加者の多くは「何をどこまでやればタスクが完了したとみなされるのかを明確に伝えてもらえることが、一番の助けになった」と述べました。ある人は「上司からの効果的な指示だけが、自分にとっての唯一のポジティブな要素だった」と語り、逆に「上司の期待が不明確で、守るとすぐに燃え尽きてしまうほどだった」という声もありました。
「評価やフィードバックがなく、何年もレビューを待っている」という訴えもありました。
指示が曖昧であればあるほど、不安やストレスが増していったのです。

第三は「自律性」でした。
ある参加者は「自分のペースで働ける柔軟なスケジュールがあれば、期限に間に合わせることができる」と述べ、また別の参加者は「個室でドアを閉められる環境が欲しい」と答えました。
逆に「上司が自分を信頼せず、仕事が終わっているのに他の人に確認させる。それは自分が能力を持っていないと決めつけられているようで苦しい」と訴える人もいました。
細かい監視や過度な管理は、能力を発揮する妨げになることが示されました。

第四は「配慮と調整」です。
参加者の一人は「職場が常に騒がしく、仕事に集中するのが難しかった」と述べ、別の人は「イヤホンで音楽を聴いたり、指で遊んだりできることで仕事がしやすくなる」と語りました。
こうした小さな工夫が日常的に認められるだけで、大きな違いが生まれるのです。
ある人は「上司が柔軟で、仕事さえ終われば自由にやってよいと言ってくれた。とても支えになった」と語っていました。

研究チームは、参加者の声を整理したうえで、職場に導入できる具体的な改善策をいくつも提案しました。主な内容は以下のとおりです。

▫️管理職や上司に対する研修

  • 神経多様性や自閉症についての基本的な理解を深める研修を定期的に行う。
  • 診断を開示した従業員に対して差別ではなく支援を行えるようにする。
  • 曖昧な指示や偏った評価を避け、仕事の指示や評価をできるだけ標準化する。

▫️タスク訓練や指示の多様化

  • 口頭だけでなく、文書・マニュアル・動画など複数の形式で伝える。
  • 作業手順をチェックリスト化し、従業員自身が進捗を確認できるようにする。
  • タスクの完了基準を明確にし、曖昧さから生まれる不安やストレスを減らす。

▫️定期的なフィードバック体制の整備

  • 年1回の評価ではなく、短いスパンで進捗を確認する。
  • 具体的な改善点と成功点をあわせて示す。
  • 肯定的な言葉がけを重視し、従業員が自信を持って作業を続けられるようにする。

▫️意見を安心して伝えられる仕組み

  • 匿名で回答できるアンケートや調査を定期的に実施する。
  • 形式的な面談だけでなく、日常的に困りごとを話しやすい雰囲気をつくる。
  • 相談できる窓口や担当者を明確にしておく。

▫️柔軟な勤務形態の導入

  • フルタイムに限らず、パートタイムやリモートワークを標準化する。
  • 勤務時間を個人の特性に応じて調整できるようにする。
  • 始業や終業をずらしたり、短時間勤務を取り入れたりする。
  • 不安や体調の波で休養が必要になった場合に備え、交代制やサポート体制を整える。

▫️個別の配慮や小さな調整の標準化

  • 音に敏感な人のためにイヤホンや耳栓を認める。
  • 光に過敏な人のために照明を調整できる環境を整える。
  • 短くこまめに休憩を取れるようにする。
  • 特別な申請をしなくても誰もが自然に利用できる制度とし、当事者が孤立しないようにする。

このように、職場の改善は大掛かりな制度変更だけでなく、日常的で小さな工夫の積み重ねによって実現できると研究チームは強調しています。そして、その効果は自閉症の従業員だけでなく、職場全体の働きやすさを高めるものになると示されました。

メンタルヘルスの問題については、参加者の言葉がとくに切実でした。
ある人は「頭ではできることが多いのに、心の状態によって制限されてしまう。ある日は不安や圧倒感が強すぎて家から出られない」と語りました。
別の人は「本来の仕事の範囲を超えて多くの業務を押し付けられ、その結果、心が折れてしまった」と述べました。
こうした体験は、職場の環境がメンタルヘルスを悪化させることもあると示しています。

同時に、参加者の中には「良い指示と支援があれば働ける」という声もありました。
たとえば「上司からの明確な指示が、自分の仕事のモチベーションの源だった」と語る人がいました。
職場での小さな工夫や理解が、働く力を引き出す大きな要素になっていたのです。

研究者たちは、こうした声を踏まえ「変化の責任は個人ではなく組織や社会にある」と結論づけました。
自閉症の人に特別な努力を求めるのではなく、会社が上から全体として環境を整える「トップダウン」のアプローチを重視しました。
たとえば社員全員が耳栓やイヤホンを使えるようにするなど、誰にでも利用できる制度を設けることで、当事者が特別な申請をしなくても済む仕組みを提案しています。

最後に、ある参加者は「自分の特性が受け入れられないために、職場では常に『仮面』をかぶらざるを得ない。そのことが生活の質を下げている。もし自然な自分のあり方が受け入れられれば、もっと健康で安心して働ける」と語りました。
こうした言葉は、個々の職場改善が社会全体の文化を少しずつ変えていく可能性を示しています。

(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07036-y)(画像:たーとるうぃず)

競争力を秘めた方々がますます活躍すれば、それはそのまま企業の競争力の強化となります。

「会社が上から全体として環境を整える「トップダウン」のアプローチ」

経営者のみなさま、よろしくお願いします。

自閉症の視点から見る職場の現実と企業が言う多様性への疑問

(チャーリー)


たーとるうぃず発達障害ニュースを支援する。

たーとるうぃずを「いいね!」をする。フォローする。

その他の最新の記事はこちらから

【ニュース記事での「生成AI画像」の利用について】
「研究内容や体験談をわかりやすく伝える」ための概念イラストや雰囲気イラストとして利用しています。事実報道の写真代替、「本物の写真」かのように見せる利用は一切しておりません。


福祉作業所で障害のある方々がひとつひとつ、心をこめて作り上げた良質なハンドメイド・手作りの品物をご紹介します。発達障害の関連ニュースや発達障害の子どもの4コマ漫画も。
気に入ったものはそのままamazonで簡単にご購入頂けます。

商品を作られた障害のある方がたーとるうぃずやAmazonに商品が掲載されたことで喜ばれている、売れたことを聞いて涙を流されていたと施設の方からご連絡を頂きました。

ご購入された方からは本当に気に入っているとご連絡を頂きました。ニュースや4コマ漫画を見て元気が出たとご連絡を頂きました。たーとるうぃずがますます多くの方に喜ばれるしくみになることを願っています。


NPO法人Next-Creation様からコメント

「たーとるうぃず様で販売して頂いてからは全国各地より注文が入るようになりました。障がい者手帳カバーは販売累計1000個を超える人気商品となりました。製品が売れることでご利用者の工賃 UP にもつながっています。ご利用者のみんなもとても喜んでおります」

テキストのコピーはできません。